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藤井香織✕デマーレ・マクギル Special対談 (THE FLUTE ONLINE限定)

THE FLUTE158号 Cover Story

人から人へ、直接働きかけること

THE FLUTE158号 Cover Story

現在、中央アフリカはコンゴで音楽家を育てる指導者育成のための活動をしている藤井香織さん。その活動について、始めるきっかけとなった出来事や、コンゴで音楽を学ぶ若者たちへの目線……などをTHE FLUTE本誌158号記事にて紹介した。
ここでは、藤井さんが創設したNPO法人 Music Beyondの理事にも名を連ねるデマーレ・マクギルさん(元ダラス交響楽団 首席フルート奏者)との対談をお送りする。
インタビュア:Cathy Miller(三響フルート・アメリカ)/協力:三響フルート製作所

 

藤井香織 デマーレ・マクギル
藤井香織 デマーレ・マクギル

音楽教育が整備されていない環境で音楽の楽しさを伝えたり、音楽指導者を育てることがまた次の世代につながっていく――そんな思いからNPOを立ち上げた、と本誌インタビューで語っていた藤井さん。
一方のマクギルさんも、Music Beyondとはまた別の組織「アート・オブ・イラン」を運営し、クラシック音楽がすべての人々にとってもっと身近な存在になるために活動している。
藤井さんやマクギルさんにとって、音楽を通して人々とつながること、それを社会活動として広げ継続していくことの意味とは何なのだろうか。

 

音楽が与えてくれる「母の癒し」

マクギル
(以下M)
活力、元気、勢い、熱狂……私たち演奏家はそういう言葉がクラシック音楽に結びつくことを知っていますが、クラシック音楽にまだあまり触れていない多くの人たちには、こういった言葉とクラシック音楽は遠いものです。クラシック音楽がこんなにエキサイティングなものだということを1人でも多くの方に知ってもらいたい。そんな思いから立ち上げた組織が「アート・オブ・イラン」です。
多くの人々がクラシック音楽への理解を深められるように、「室内楽」を様々な場所で演奏し、革新的なプログラムや演奏者と聴衆の繋がりに重点を置いた活動をすること、そしてサンディエゴ市の文化生活をより豊かにすることを目的にしています。

――
クラシック音楽に対して、ある種の先入観があったり、どうやって聴き始めたらいいのか分からない人はまだまだ多いですよね。そういう人々とクラシック音楽との間に橋をかけて、クラシック音楽をより身近に感じられるようにする仕組みを作られたのですね。


M
その橋は簡単にできました。私がクラシック音楽を好きな理由は、音楽の中に我々人間の持つすべてのもの(感覚・感情)が入っているからです。もし私たちが人々を心地良いと感じられる環境に導くことができさえすれば、クラシック音楽は知性だけでなく感性に訴えかけるものだ、ときっと気付いてくれるはずです。深い喜びをや、また親密な悲しさも感じさせてくれるのがクラシック音楽です。

藤井
私も同じように感じています。クラシック音楽に対して、人々はときに頭を使わないとその音楽のことを分からないと思いがちですが、私はそうは思いません。それがクラシック音楽であるという認識をはずしてしまって, ただ音楽を聴けばいいのです。どんな母国語を話しているか、どの文化圏から来たか、そういうことは関係ない。
音楽を聴くことはとても個人的な体験で、もし10人が同じ音楽を同時に聴いても、全員が違う感情を持つでしょう。1人はただ幸せを感じ、他の人はもっと具体的に、例えば最初のデートなどを思い出しているかもしれません。それが音楽の美しさだと思います。それでも私たちは一緒になって音楽を聴くことができ、聴きながら違うことを考えていても、それを共有できるのです。だから音楽は“共通言語”になるのだと思います。

M
私自身の経験にももとづいているのですが、音楽はいつも激励してくれて、癒してくれます。希望を与え、将来の見通しをよくしてくれます。
単純な話でいえば、たとえば職場で辛いことがあって、落ち込んでいたとします。そのときにコンサートで聞いたメロディが、母の癒しを思い起こさせてくれたりするのです。職場であった最悪な会話のことなどすっかり忘れ、癒されてしまいます。物事の解決策に音楽を使うことは、一見単純に思えるかもしれませんが、実はそれは極めて大きな意味を持っていると思うのです。

 

藤井香織 デマーレ・マクギル
藤井香織 デマーレ・マクギル

生きるために必要な“何か”

――
いま、音楽教育に割ける資金は乏しく、芸術に対する国の財政は非難されがちです。音楽や芸術のための予算や時間はこれからますます減らされる傾向にあり、学校や僻地、貧困なコミュニティの中ではなおさらです。
中でも問題なのは、音楽は生きるために絶対に必要だとは思われていないことです。このことについてはどう思われますか?

藤井
私がよく聞かれるのは「コンゴ民主共和国という国は貧困国で、水も食料も不足しているそうだけど、そういう場所で音楽を聴いたり音楽教育をするなんて、ぜいたくなんじゃない?」という質問です。これは芸術財政に関連する機関が思っていることと同じだと思うんです。最初にこの質問を聞いた時、私自身、同意はできないけれど妥当な質問だとは思いました。
だから、コンゴの音楽家たちに、なぜ音楽をするのか、なぜ音楽が大事なのかを聞いてみたんです。
彼らの答えは、「僕らだって、人間らしく生きたいから」だから、音楽をするのだということでした。
私たちは誰しも、生きるために水と食料が必要です。しかし、生きるためには、それだけではない、何かが必要です。幸せを感じる何か、何かに向かって頑張る気持ち、達成感……。生きがい・充実感ですね。音楽や芸術は生きがいになり得るもので、充実感を得られている人は、貪欲さを減らして、他者に対して思いやりをもって接することができるのです。
これは表面的な世界平和の話をしているのではなく、とても重大なことです。いま、私はまったく音楽がぜいたくなものだとは思いません。充実感を持って生きる、これは人間が人間らしく生きるために必要なことなのです。それがなければ、なんのために生きているのか分かりません。私たちが生きているのは、生きたいからであり、何か生きがいがあるからです。

――
では、どうすれば音楽がもっと身近になるでしょうか? そこに立ちはだかる、経済的、地理的、個人的、そして社会的なあらゆる障害を取り除くためには? そのために私たちに何ができるのでしょうか。

M
人から人へ、直接働きかけることが大事だと思います。もし音楽を身近にするために、誰かと共有したいのであれば、まずはその誰かのもとへ行くべきです。アート・オブ・イランを作ったばかりの頃、私たちは一体何人と握手を交わしたことか!
多くの場所に行き、私たちに試しに演奏させてもらえないかとお願いしました。最初は、ケイト(アート・オブ・イラン代表のヴァイオリニスト、ケイト・ハットメイカーさん)と私はどこにでも行って自己紹介をし、私たちの考えを紹介しました。そういった人と人との間柄が重要だったのです。
私はコンサートの後、聴いてくださった方々にお会いするのが大好きです。人々が音楽に接して、さらに人と人との間柄があれば、また演奏を聴きにきてくれるはずです。 メトロポリタン歌劇場に、とあるおじいさんがお孫さんであろう、小さな男の子を連れてよく来るのですが、コンサートを聴く度に、彼らはピットまで来て、手を振ってくれます。一度、外で彼らと遭遇したとき、その小さな男の子は興奮した面持ちで、オペラについて嬉しそうに私に話をしてくれました。
この子どもはメトロポリタン歌劇場で演奏を聴き、私と会った経験を永遠に覚えているでしょう。
もし何かアクションを起こしたいと望んでいるのであれば、誰かと話をすることから始めてください。

藤井
もし音楽で誰かの人生を少しだけでも幸せにしてあげたいのならば、それがいかなる国であれ、文化であれ、人との関係づくりは最初になすべきことで、さらに継続すべきことでもありますね。そして、実地調査をできるだけしたらいいと思います。
家でコーヒーを飲みながら読んだ内容と、実際に現地に行って人と会って理解する内容とではまったく違います。
例えば、コンゴ民主共和国で生まれ育った人と、コンゴから遠く離れた先進国に住む私たちの見解は、まったく違うのです。彼らは、自分の国が戦争続きで毎日人が死んでいる世界一恐ろしい国だ、などとは思っていません。彼らにとっては普通の生活なのです。ですから、彼らには何が必要で何を欲しているのかという彼らの視点を理解することが大切なのであって、どこかのジャーナリストが彼らを外から眺めて書いたリポートを読んですべてを理解した気になってはいけないと思うのです。


――
「活動に何かお手伝いができるとしたら?」という質問をTHE FLUTE本誌インタビューでもさせていただき、藤井さんからは、寄付や“しっかり演奏できる状態の”楽器の寄贈は助かります、という回答をいただきました。マクギルさんはいかがでしょうか?

M
確かに、寄付は大変ありがたいです。距離的に近くにいる人ならば、手を貸していただくことももちろんです。
そして何より、いくらであろうと、私たちの組織に寄付をしてもいいという誰かの気持ちを感じられることが、どれだけのエネルギーをくれることか!
寄付は私たちのウェブサイト(artofelan.org)から簡単にしていただけます。もし、少しでもアート・オブ・イランの活動に賛同いただける方がいたら嬉しいです。
もし、自分で何かを始めたいと思っている方がいたら、メールをくだされば、私たちの経験から何ができるのかお話しすることもできます。

 

藤井香織 デマーレ・マクギル
藤井香織 デマーレ・マクギル

Kaori Fujii(藤井香織)
東京藝術大学卒業後、シュトゥットガルト国立音楽大学ソリスト・クラスに留学、最優秀で卒業。フルートを三上明子、J.ゴールウェイ、W.シュルツ、A.ニコレ、J.バックストレッサー、P.マイゼン、J.C. ジェラール、ソルフェージュを茂木眞理子の各氏に師事。国内においては「第7回日本木管コンクール」、「第14回日本管打楽器コンクール」、「第67回日本音楽コンクール」のすべてにおいて史上最年少第1位を獲得、海外においても「第44回マリア・カナルス国際コンクール」(スペイン)で史上最年少第2位入賞、併せて特別賞を受賞。ドイツで開催された「第 10 回クーラウ国際コンクール」デュオ部門にて、ピアニストの姉、藤井裕子とともに日本人初の第2位に入賞した。2014年、発展途上国に存在する音楽家に、音楽教師育成プログラムを提供する非営利団体 Music Beyond, Inc. http://www.musicbeyond.org/を設立。現在自ら中央アフリカのコンゴ民主共和国を訪れながら指導にあたっている。ニューヨーク在住。

Demarre McGill(デマーレ・マクギル)
アメリカ合衆国イリノイ州シカゴ出身。7歳よりフルートを始める。ジュリアス・ベーカー氏のもと、カーティス音楽院において演奏博士号を獲得後、ジュリアード音楽院にて更なる研鑽を積む。エヴェリー・フィッシャープレステージ賞を獲得し、フィラデルフィアオーケストラ、ピッツバーグ交響楽団、ボルティモア交響団をはじめとするアメリカメジャーオーケストラと共演。 サンタフェ・オペラ管弦楽団、サンディエゴ交響楽団首席奏者、シアトル交響楽団首席奏者を歴任。また、全米をはじめ各国の音楽祭に出演している。シカゴで開催されるリヴィエラ音楽祭においては、“ライジング・スター”シリーズのゲストとして出演。また、彼のために作曲された曲も多く、弟であるメトロポリタン歌劇場管弦楽団クラリネット奏者・アンソニー・マクギルとの共演も多い。元ダラス交響楽団首席奏者、元メトロポリタン歌劇場管弦楽団首席奏者。非営利団体 Art of Elanhttp://artofelan.org/副代表。

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