フルート記事
THE FLUTE 159号 Cover Story

「自分の思考を広げた状態で、あらためて音楽を見てみたら…」小山裕幾

かつてU字管でコンチェルトを吹く天才少年としてフルート界を沸かせた小山氏は、いま、オーケストラの首席奏者となる夢をかなえ、フィンランドを拠点に活躍している。音楽大学には進まずに慶應義塾大学の理工学部という進路を選択、その後はスイスのバーゼル音楽院で研鑽を積み、北欧フィンランドに渡って首席奏者となる─そんな経歴とともに、幼少期からなにかとフルート界の話題に上ってきた。息子や孫の成長を眺めるような感覚で“小山くん”を応援してきた読者も少なくないかもしれない。31歳となった今、首席奏者として4年目を迎え、フィンランドでの生活にも馴染んで家庭も築いた。「日本人とフィンランド人はウマが合う」という小山氏に、北欧の音楽や生活、そして日本でも続けている演奏活動について、心ゆくまで語ってもらった。
写真:土居政則/取材協力:アンサンブルofトウキョウ、紀尾井ホール

北欧オケのオーディションに迷いなく挑戦

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2014年にフィンランド放送交響楽団の首席奏者に就任されましたが、それまでの生活からの変化は?
小山
就任前は学生(バーゼル音楽大学)で、オーケストラの経験もそれほどありませんでした。月給をもらって働くのも初めてでしたが、就任したことで、ようやく社会人としてやっていく心構えができました。
音楽的な経験も広がりました。フィンランド放送響はバロックから古典派、ロマン派、それに現代曲もたくさん演奏します。フィンランドは作曲家がたくさんいるので、彼らに委嘱した作品の世界初演も多い。そういった意味では、自分の演奏する音楽がどんどん大きくなっていく。それはとても良いことだと思います。
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フィンランドは、日本人から見ると“北極圏にある遠い国”というイメージがありますが、そこを活動の拠点とすることに迷いはありませんでしたか?
小山
前任の首席だったペトリ・アランコさんがいなかったら、どうだったでしょう……。アランコさんは、神戸国際フルートコンクールのとき、とても良くしてくださった恩人なんです。オーケストラのオーディションも「今回、首席のポジションが空いたから」とアランコさんが三上明子先生に伝えてくださり、それを聞いて「アランコさんが言うなら受けてみようか」と思ったのがきっかけでした。ですから、あまり迷いはなかったですね。
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フィンランドで活動していて、日本との違いに驚いたことはありますか?
小山
音楽がとても身近な存在で、特にクラシック音楽鑑賞をする人が多いことですね。コンサートは毎回ほぼ満員で、こんなにクラシック音楽が盛んなんだ!と、とても驚きました。寒い国なので、いろいろな場所に出かけてレジャーを楽しむとか、そういうことが限られているせいもあるかもしれませんが。
フィンランドは他のヨーロッパの国々とひとくくりにされがちですが、実はフィンランド語は、ドイツ語とも隣のロシア語ともつながりのない、孤立している言語なんです。ヨーロッパの端に位置していて、ヨーロッパの良さももちつつ、一方でサウナの発祥の地だったりと、独自の個性がある国ですね。(次のページに続く)

次のページの項目
・シベリウスの「ひんやり感」は日本人にも馴染みやすい
・「難しくないよ」で “できちゃった”
・ONLINE限定:フィンランドは寒いけど、クラシック音楽に熱い国!

 

Profile
小山裕幾
Yuki Koyama
1986年、新潟県長岡市生まれ。99年、第53回全日本学生音楽コンクール中学校の部第1位。2002年、第56回全日本学生音楽コンクール高校生の部第1位。同年、第7回びわ湖国際フルートコンクール高校生部門第1位。04年、第73回日本音楽コンクール第1位、岩谷賞(オーディエンス賞)、加藤賞、吉田賞を受賞。05年、第6回神戸国際フルートコンクールにおいて日本人初の第1位受賞。日本各地でリサイタルを開催するほか、N響、新日本フィル、日本フィル、東京フィル、東響、東京シティ・フィル、東京ニューシティ管、大阪響、日本センチュリー響、神戸市室内合奏団等のオーケストラと共演を重ねる。紀尾井ニューアーティストシリーズ、東京オペラシティ「B→C」シリーズ等に出演。これまで、三上明子、ヴォルフガング・シュルツ、パウル・マイゼン、堀井 惠、ハンスゲオルク・シュマイザー、オーレル・ニコレ、エマニュエル・パユの各氏に師事。2006年度第17回出光音楽賞受賞。07年、新潟県知事賞受賞。10年、慶應義塾大学理工学部卒業。2010年度、11年度、12年度ロームミュージックファンデーション奨学生として、バーゼル音楽院(スイス)においてフェリックス・レングリ氏に師事。現在、フィンランド放送交響楽団首席奏者。
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