画像

田中覚のリペアマンへの道 リペアマンのお仕事編

Wind-i mini 27号 第6回

第6回 リペアマンのお仕事編

来年度4月から「島村楽器テクニカルアカデミー」と改称することに合わせ、日本で唯一「コンサートパーカッションリペア科」を新設する代官山音楽院。本格的なリペア・メンテナンスだけでなく知識、社会性・音楽性をも身につけることができる新学科の開講に先立ち、主任講師の田中覚先生に「楽器別リペア・メンテナンスについて」お話しいただきました! そんなこのコーナーは今号で最終回になります。ご愛読ありがとうございました。

 

田中先生がリペアマンになろうと思ったきっかけは?

きっかけの一つになったのは楽器販売をしていた ころ学校などで「今使っている素晴らしい楽器を、ほぼノ ーメンテナンスで使い続けた後に調子が悪くなったこと で廃棄、しかも予算の都合という理由で以前よりもグレー ドの低い楽器を買う」ということがあったからです。新し い楽器を買ってもらうのは楽器店としては重要な仕事の 一つですが、廃棄しようとしている楽器には調整すれば まだ使えるものも少なくありません。自分にとってはこ のような経験は辛かったのです。
これが、私がリペアの仕事を始めた一番の原動力にな っています。

 

仕事現場での忘れられないエピソードがあればお聞かせください。

人によって楽器の価値観が違うことでの失敗がありました。それはある方から古いグロッケンの調律依頼を受けた時のことです。そのグロッケンはピッチがA=440Hzでしたのでお客様とお話し、協議の結果ピッチをA=442Hz に変更することにしました。その時に私が調律を委託した調律士はA の音板にA=442Hz と刻印したのですが、それを依頼者に戻したら「この刻印は何? なぜこんなことをしたの?」とクレームを受けてしまったのです。打楽器を演奏する人間の視点からすると、その刻印があることで古いグロッケンでもピッチを疑わずに安心して使えるわけで、私には最初そのクレームの意味がわかりませんでした。ですので納得がいかず詳しくお話を聞いてみると、どうやらその方ご自身は管楽器奏者で、個人的に購入した古いグロッケンの名器を、自分の所属する団体の打楽器奏者に使わせようと考えていたらしいのです。だから刻印を入れることを一般的なことと知らず、またオールド楽器としてのコレクション的価値も下がったと思われたのです。この件では人によっての楽器の価値観の違いというものを考えさせられました。
逆に良い体験としては、以前7年ほど国際的な音楽祭に打楽器調整とセッティング業務に関わっていたのですが、そこへ指導に来ていた世界屈指のオーケストラのティンパニ奏者から「あなたの調整した打楽器はとても良い状態で素晴らしい」と褒めていただいたことです。この時点で私は独立して1年ほどでまだまだ実績も自信もありませんでしたが、この言葉は大変励みになりました。

 

リペアマンを志す学生にメッセージをお願いします。

私はパーカッションのリペアマンを志す学生たちが、なぜこの仕事をやってみたいと思ったのか興味があります。そしてこれは想像ですが、おそらく彼らは自分たちが使う打楽器が万全ではないことを専門知識がないなりに肌でわかっているのだと思います。ですのでこれから は“何を不満に感じているのか”を具体的に書き出すことから始めてほしいのです。学校では自分がどんな状態の楽器を使っていて、どう悪いのかを考えるのは良いトレーニングになります。
リペアの仕事は、まったく同じルーティンワークをやっていて身につくことも多少はありますが、最高の芸術品から最低のものまで、様々な楽器を見ることで自分の判断基準ができ上がってきます。まずはいろいろな楽器を見て触って演奏して、その状態を知ることが大事です。

 


Profile|田中 覚

1993年4月から2007年9月まで株式会社コマキ楽器パーカッション・シティに勤務。この間、新日本フィルハーモニー交響楽団の近藤高顯氏にティンパニ演奏とティンパニマレット・リペア、作成を師事。2007年9月より打楽器リペア業務を主としたマチュア・パーカッションを立ち上げた。2008年~ 2014年の7年間、札幌で毎夏開催されているPMF 音楽祭で使用される全打楽器の保守管理やセッティングを担当。国内外の多くの奏者や専門家と交流を持つ。

記事一覧 | Wind-i&mini
トピックス | レッスン | イベント | 人物 | 製品