フルート記事
THE FLUTE 168号 Cover Story

伝統だけではなく、新しい風を入れて生き生きと─|カール=ハインツ・シュッツ

ウィーンでのニューイヤー・コンサート終了後、ウィーン・フィルのメンバーが日本に駆けつけて開かれる恒例のコンサート─それが「ウィーン・リング・アンサンブル ニューイヤー・コンサート」だ。元ウィーン・フィルコンサートマスターのライナー・キュッヒル氏を筆頭に、弦楽器とフルート、クラリネット2本、ホルンという9人編成で行なわれる。そのメンバーであるシュッツさんを、公演での来日中に訪ねた。ウィーン・フィルメンバーとして、またフルート奏者としても円熟味を増す世代となった今の姿と声を、お伝えする。
聞き手:久保順(フルーティスト)/写真:いしかわみちこ
取材協力:KAJIMOTO、株式会社ヒラサ・オフィス、森ビル株式会社、サントリーホール

作曲家が表現したいことを体現する

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ウィーン・リング・アンサンブルはクラリネットとホルンのメンバーが入れ替わって、新たなアンサンブルになりましたね。日本各地を回って演奏された感想はいかがでしたか?
シュッツ(以下S)
ええ、とても素晴らしい体験でした。現在のアンサンブルは新世代メンバーで形成されています。クラリネットはウィーン・フィルの元首席奏者、ペーター・シュミードルから仲間の一人、ダニエル・オッテンザマーに代わりました。ダニエルの音色やフレーズの作り方、イントネーションなどは素晴らしく、説得力のあるしっかりとした音楽をオーケストラでも室内楽でも一緒に作り上げていると思います。ホルン奏者も、ウィーン・フィルの名手、ヴォルフガング・トムベックが、次の世代へ交代するということでこちらも次世代の名手となる、ロナルド・ヤネシッツに代わりました。二人とも歴代ウィーン・フィルで演奏してきた音楽家系の出身で、彼らの音色には、色濃く残る伝統を聴くことができます。
現在のリング・アンサンブルにはとても満足していて、特に管楽器メンバーはウィーン・フィルの新世代を一番よく代表していると思います。
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シュッツさんにとって、オーケストラともソロとも違う、室内楽の魅力とは何ですか?
S
そうですね、私はどれも素晴らしいと思っていますが、ウィーン・フィルという楽団に所属していることで、そのすべてを最高の条件で体験できていることに感謝しています。ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団員はウィーン国立歌劇場管弦楽団員でもあるため、それは豊かな種類の舞台や観客の中で、たくさんの楽曲を演奏しています。まず、良いオーケストラでの演奏と室内楽での演奏は、同じことを意味すると思います。もちろん少人数の室内楽のほうが、より細かく個々の音楽的要素を組み入れることはできますが。
ソロ活動はその時に重点を置いている内容により、変化します。フルートのソリストとしては、モーツァルトのフルート協奏曲をウィーン・フィルの団員として演奏を求められることが多いですが、ここ数年では編曲された協奏曲も演奏するようにしています。ベートーヴェンとメンデルスゾーンのヴァイオリン協奏曲をフルートに編曲したものを、ヨーロッパのオーケストラと共演もしました。
次に目を向けたのは、フルートのために書かれたオリジナルの協奏曲です。フランセやロドリーゴのフルート協奏曲は本当に素晴らしく、観客からも評判が良いことには私も驚いています。演奏会のプロモーターは、なかなか有名な曲以外をプログラムすることに挑戦しませんが、観客は有名な曲だけが好きなわけではないと感じ、プログラムに入れる自信も得ました。ロドリーゴの協奏曲の第二楽章などは本当に美しいんです。ソリストにとってはとても難しい曲ですが、その挑戦が現在の私の技術を向上させ、生かし、進み続ける活動力となってくれています。
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モーツァルトとフランセは演奏スタイルがかなり違うと思うのですが、どういうアプローチをされていますか?
S
モーツァルトは、ウィーンでオペラを日常的に演奏する時のことを思い浮かべます。歌手の歌声やウィーン・フィルの伝統的な音色が聞こえ、時に指揮者が新しい息吹を吹き込む。もしかしたら反対にバロック的なアプローチを入れてくるかもしれない。しかし、ウィーン・フィルには強い音楽的意志もあり、指揮者の言うことを聞かない時も多々あるのです。私が師事してきた音楽家たちもバロック音楽の伝統的なスタイルを支持していたので、多分私が録音してきた音色にも、それは現れていると思います。2年ほど前に小編成のオーケストラを私が指揮しながら録音したものがあります。こういった様々なことを組み合わせていく、そのプロセスが私は大好きなのですが、どう感じるか、ぜひ聴いてみてください。

 

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それが音楽家の人生です
要求に応える、特別な音色

Profile
シュッツ
カール=ハインツ・シュッツ
Karl-Heinz Schütz
ウィーン国立歌劇場ならびにウィーン・フィルハーモニー管弦楽団の首席フルート奏者を2011年より務める。2005年9月より、ウィーン・コンセルヴァトリウム私立音楽大学のフルート科で教鞭をとっている。また、2005年から2011年までウィーン交響楽団で、2000年から2004年までシュトゥットガルト・フィルハーモニー管弦楽団で首席フルート奏者をつとめた。フェルトキルヒ(オーストリア)ではエヴァ・アムスラーに、バーゼル(スイス)ではオーレル・ニコレに、リヨン国立高等音楽院(フランス)ではフィリップ・ベルノルドに師事した。ソリストとして、ウィーン交響楽団、アカデミー室内管弦楽団、札幌交響楽団など著名なオーケストラと、ファビオ・ルイジ、ヤコフ・クライツベルク、サー・ネヴィル・マリナー等の指揮で共演。学生時代に、カール・ニールセン国際フルート・コンクール(1998)およびクラクフ国際フルート・コンクール(1999)で優勝。室内楽にも熱心に取り組んでおり、ヴォルフガング・シュルツの後を継ぎ加入した、アンサンブル・ウィーン=ベルリンとウィーン・リング・アンサンブルなどで活躍している。

 

 
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