THE FLUTE vol.167

「いいものを作りたい」から、シビアにもなる

トリプティークとは、“3枚で一つの場面を描く絵画”を意味する。
特殊管を含まない通常のフルートのみでのアンサンブルにこだわり、このほどクリスマスアルバムをリリースした。作曲家、堀内貴晃・伊左治直両氏の編曲による幅広いレパートリーを収録し、またメンバーの渡邉加奈さん編曲作品も加わったラインナップとなっている。ゲストとして参加した北川森央さんも加わった、4人のインタビューをお送りする。(取材協力: コジマ録音)

東京交響楽団,オーケストラの仕事

価値観が同じ フルーティストが集まった

――
今回のクリスマスアルバムは、クラシックからポップスまでバラエティ豊かな曲目が収録されていますね。うち3曲に北川さんが参加されています。北川さんとはそもそも、どんなご縁があったのですか?
鈴木
私たち全員同世代で……
渡邉
白尾彰先生が主催されていた極秘(?)合宿で出会ったのが最初ですね。
北川
僕はそこに受講生としてではなく、聴きに行かせてもらったんですね。世の中にたくさんフルート奏者はいますが、同じ方向を向いて音楽の価値観が同じ人というのは、実はそんなに多くないと思うんです。僕はオーケストラで初めて白尾さんに出会って「こんな素敵なフルーティストがいるんだ」と思った。それで合宿にお邪魔してみたら、そこにいたのがこちらの3人だったんです。樋口さんとは僕の先輩である仲戸川智隆さんの門下生だった縁で先に知り合って、いちばん長いお付き合いですね。
樋口
そうでしたね。大学1年か2年か……まだそんな頃でした。
渡邉
私たちも北川さんの演奏が好きで、どなたかと一緒にやるならぜひ北川さんと、ということはかねてからの希望だったんです。
鈴木
レコーディング当日も、シビアな中にいい風を吹かせていただいて(笑)、本当に楽しく乗り切ることができました。
――
トリプティーク結成のきっかけは?
鈴木
大学を出たての20代前半の頃、「ガレリアウインドオーケストラ」という吹奏楽団に参加していたんです。そこでメンバーがもう二人必要になって、私が白尾門下で一緒だった渡邉さんと樋口さんを誘ったんですよね。それが最初のきっかけです。
渡邉
ガレリアウインドは、オリジナルものだけをやるユニークな楽団でしたね。
鈴木
邦人作品の現代曲だけを集めた公演とか……今回のアルバムでも編曲をお願いした伊左治直さんの作品などもやりました。実はそのときからのご縁がここまでつながっているわけですが。

“トリオ”にこだわる面白さ

北川
そこでの出会いを経て、トリオのアンサンブルを結成するに至るまでには?
樋口
伴奏なしのトリオでの演奏を頼まれたり、自然に3人で仕事をする機会が増えていったということがまずありますね。
鈴木
ただ、トリオだとレパートリーがそれほどなくて、なんとなくやっていてもいい演奏にはならないんですよ。そこでだんだん煮詰まっていって、ここから先はどうしようか、という岐路がありました。それでどうせやるならいいものにしていかなければ、と3人で決めて、レパートリーを溜めていくことを始めたんです。
渡邉
その頃にコンクールにも出ましたね(日本フルートコンヴェンション2007 TOKYOアンサンブル部門で金賞を受賞)。あの時期は本当に集中して頑張ったなあ、と思います。
北川
コンクールで1位になって認められるというのは、大きいよね。
鈴木
若かったからできたのもあるけれど、すごく時間をかけて完成させていきました。
渡邉
3人とも「いいものを作りたい」という思いが強くて、それが集中力とエネルギーにつながっていったような気がします。
樋口
1位がとれなかったらもうやめよう、って言ってましたからね(笑)。
北川
フルートアンサンブルというとまずカルテットが思い浮かぶけれど、そこであえてトリオにしたというのは?
鈴木
カルテットは“合奏”だけど、トリオは個人どうしの絡みなんですよ。編成からいうと、3声というのはやっぱりちょっと不足がある。だけど、その分フットワークが軽くなって自由にもなれるんです。
樋口
それがトリオの魅力だし、面白くてやめられないところですよね。
北川
そこをちゃんと伝えるのって、これからの若い人たちに向けても大切なことだと思うんだけど、アンサンブルと一口に言っても、デュエット、トリオ、カルテット……それぞれ全然別モノでしょう。特にトリオとカルテットは、メンバーどうしが音楽にどう関わっていくかということからして、まるで違ってくるよね。
鈴木
各自がまるで空中戦のようなフレキシブルさをもって、そして音楽を深いところで共有するような踏み込み方をして演奏しないと、成立しないと思います。

学びの場でもある、3人のリハーサル

――
これまでにも編曲を多数手がけてきた渡邉さんが、今回も一部編曲をされています。ヴィヴァルディの「四季」より『冬』と、オペラ「ヘンゼルとグレーテル」より『夕べの祈り』ですが、どんなイメージで仕上げましたか?
渡邉
『冬』も『夕べの祈り』も有名な曲なので、イメージが壊れないように、ということを意識しました。調性もイメージを損なわず、なおかつフルートの良さを生かせるように考えました。トリプティーク用に編曲する時は、メンバーの音色や演奏スタイルが分かっているので、「こういうふうに吹いてくれるだろうな」とイメージしながらアレンジしています。今回は『夕べの祈り』の1stを北川さんに担当してもらったので、北川さんの吹く流麗なメロディを想像しながら、仕上げていきました。
――
結成から14年ということですが、長く続いてきた秘訣と、トリプティークならではの音楽の特徴は何でしょうか?
渡邉
3人とも個性が全然違っていて、それぞれの方向を向いているんだけど、根っこの部分で思うところは一緒なんですよ。
鈴木
3人が同じくらいのテンションで「いいものを作りたい」という気持ちを、ずっと持ち続けている。ケンカはしないけれど、意見はそれなりにシビアに言い合うようにしています。
樋口
3人でするリハーサルは、学びの場でもありますね。それも長く続けている原動力になっていると思います。
北川
それぞれに言いたいことはしっかり言って、全員でいい音楽を一生懸命作っているという空気が伝わるから、一緒に気持ち良く演奏できるんだな――ということは収録の間もずっと感じましたよ。

  

プロフィール(写真右から)
鈴木 舞 Mai Suzuki
日本大学藝術学部音楽学科弦管打楽器コースを首席で卒業。同時に優等賞、藝術学部長賞を受賞。同大学院芸術学研究科博士前期課程修了。2011年、日本フルート協会報にフルートにおけるフレンチスクールの変遷を扱った論文が1年間連載された。CD付き曲集「ハープと織りなす LOUNGE MUSIC ON FLUTE」(アルソ出版)では楽譜監修と模範演奏を担当。これまでにフルートを橋本郁夫、白尾彰、室内楽を藤田乙比古の各氏に師事。現在、オーケストラ、室内楽、定期的なソロリサイタルなど多彩な演奏活動を展開する傍ら、特別支援学級における音楽教育にも携わっている。triorganicメンバー。

樋口貴子 Takako Higuchi
武蔵野音楽大学音楽学部器楽学科卒業、桐朋学園大学音楽学部研究科修了。2004~2008年まで静岡県立沼津西高等学校芸術科フルート非常勤講師を務める。その後ドイツ国立マインツ音楽大学修士課程を最優秀の成績で修了。これまでにフルートを仲戸川智隆、白尾隆、白尾彰、Dejan Gavricの各氏に師事。第15回びわ湖国際フルートコンクール入選、ならびにオーディエンス賞を受賞、日本フルートコンヴェンション2015 ふじのくに静岡コンクール ピッコロ部門入選。現在、ソロ、室内楽、オーケストラ客演等の演奏活動を行う他、後進の指導も積極的に行なっている。


北川森央 Morio Kitagawa
横浜生まれ。玉川学園にて豊かな音楽教育を受け、11歳よりフルートを始める。東京藝術大学附属音楽高校、東京藝術大学卒業。同大学院修士課程及び博士後期課程修了。博士(音楽)。東京藝術大学教育研究助手、新日本フィルハーモニー交響楽団契約団員を経て、現在、聖徳大学音楽学部准教授、東京藝術大学および上野学園大学非常勤講師。横浜シンフォニエッタフルート奏者。


渡邉加奈 Kana Watanabe
桐朋学園大学短期大学部、同専攻科修了後、 渡仏。 パリ・ポール・デュカス音楽院をフルート、室内楽共に1等賞で卒業。 帰国後、室内楽、吹奏楽、オーケストラなどで演奏活動を行う他、作曲、編曲活動にも力を注ぐ。 レ・スプレンデル音楽コンクール入選、パリ UFAM国際コンクール審査員満場一致の1等賞受賞、フルートコンヴェンション2013in 高松 アンサンブル部門金賞(1位)を受賞。これまでにフルートを阿部博光、白尾彰、白尾隆、カトリーヌ・カンタンの各氏に、作曲を坂本日菜、岩田学の各氏に師事。現在、アンサンブル・ジーク、ピッコラードトリオ、各メンバー。


アメイジング・グレイス
アメイジング・グレイス

New Album

アメイジング・グレイス
〜フルート・クリスマス・コレクション〜

【ALM RECORDS /コジマ録音 ALCD-3115】
[価格]¥2,500(税別)
[曲目]1. アメイジング・グレイス(伝承曲/堀内貴晃 編)、2. そりすべり(ルロイ・アンダーソン/堀内貴晃 編)、3. 冬〜「四季」より(アントニオ・ヴィヴァルディ/渡邉加奈 編)、4. サンタが町にやってくる(フレッド・J・クーツ/伊左治直 編)、5. ジングル・ベル(ジェームズ・ピアポント/伊左治直 編)、6. クリスマス・イブ(山下達郎/堀内貴晃 編)、7. シーンズ・オブ・クリスマス(堀内貴晃 編)、8. ホワイト・クリスマス(アーヴィング・バーリン/伊左治直 編)、9. 恋人がサンタクロース(松任谷由実/堀内貴晃 編)、10. 夕べの祈り〜オペラ「ヘンゼルとグレーテル」より(エンゲルベルト・フンパーディンク/渡邉加奈 編) ほか



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