サックス記事

サックス奏者、Manu Dibango マヌ・ディバンゴ 追悼

TEXT: Sinsuke Fujieda

アフロ・ミュージックの巨頭

世界中が日々刻々と変化する新型コロナウイルス蔓延による脅威に翻弄される中、SNSから飛び込んできた訃報。

アフロ・ミュージックの先駆者のひとりとして知られ、ファンクと彼の祖国であるカメルーンの伝統音楽を融合し人気を博した音楽家であり、サックス奏者、作曲家、ヴォーカリストのマヌ・ディバンゴ氏(Manu Dibango)が3/24に逝去したと伝えられた。死因は新型コロナウイルス感染症によって引き起こされた病とのこと。刻々と身近に脅威が近づいている(身近にあったことに気づく)と感じる。

ディバンゴ氏のマネージメントがフェイスブックで明らかにしたところによるとフランス・パリ地域圏の病院で亡くなったという。享年86歳だった。彼とも共演歴のあるヴォーカリスト、アンジェリーナ・キジョーのTwitterに、つい2ヶ月前の様子を動画で確認することができたが、とても86歳とは思えないハリのある肌つやが見て取れた。またリハーサルの休憩中だったと思われる中で吹くアルトサックスの暖かいサウンドは未だ衰えを知らない超人ぶりを伝えていた。

マヌ・ディバンゴは70年代前半のデビュー以降、代表曲『Soul Makossa』などの大ヒットによって世界的に知られるアフロ・ジャズ・ミュージシャンとして活躍。1933年にカメルーンのドゥアラに生まれ、1950年代初めに渡仏。ジャズとサックスを北部のランスで学んだという。渡仏前に通っていた学校では製図や絵画の優れた能力をも見出されていたらしい。

音楽から絵画的、映像的な感動を受けることがあると思うが、時には音楽家による絵画や映像からもその彼の作る音楽の真髄を知ることがある。ラウンジ・リザーズのサックス奏者ジョン・ルーリーJohn Lurie, 1952年~ )は90年代に患った難病発症後、音楽も俳優活動(俳優としてもジム・ジャームッシュ監督の映画などで活躍)も中止し、絵画を描くことがその唯一の表現方法になった。それまで刺激的でどこかファニー、浮遊間のあるように感じていた彼の音楽作品や存在感のイメージするところが、私自身、彼の絵画を眺めることでその表現していた世界観、断片的に掴んでいたパーツが組み合わさり一気に魅了された経験がある。

▶代表曲『Soul Makossa』

明快かつ広がりのある色彩

アフロ・ミュージックのサックスといえば、まず思い浮かぶのはナイジェリアの巨星フェラ・クティFela Anikulapo Kuti, 1938年10月15日 - 1997年8月2日)による「アフロビート(Afrobeat)」であるが、アフロビートとはファンクやジャズの流れを汲むヨルバ/ナイジェリア起源のアフリカ音楽であり、フェラ・クティがその活動と共に推進した。アフリカのパーカッションを用いたブラスバンド編成となっているのがアフロビートの特徴であり、そのスタイルから「アフロ・ファンク」と呼ばれることもある。そんなフェラ・クティと並び称されるカメルーンの星マヌ・ディバンゴが、今、世界を覆う脅威に倒れた。

アフロビートの創始者フェラ・クティの原動力は怒りだったと思う。突き上げる拳、叫びを体現したようなサックスの咆哮。急進的でモノ・トーンの極み(様々な黒の重なり)のようなサウンドであると感じるのに対し、マヌ・ディバンゴのサックスやサウンドからは、暖かさ、アフリカの大地や色彩、踊り、温度を感じさせる明快かつ拡がりのある色彩感を感じる。何よりも自然で優雅なリズム、サックスの音色が素晴らしい。

私が初めてマヌのサックスに接したのは、2004年にロンドンで開催された「Lion of Africa」というコンサート動画だった。彼が71歳の時のものである(当日が誕生日だったらしい)。動画はコンサートのラスト、アンコールの場面らしく、Big Band編成のホーンセクションに混じりイギリスのサックス奏者コートニー・パインCourtney Pine, 1964~)もマヌのバンドに加わる。素晴らしいバンドリーダーであるマヌは、ボーカルとソプラノサックスを披露。太く暖かで明快なサウンドは、シンプルながら雄弁に彼の原風景=アフリカを描いていた。

残された彼の作品はこれからも沢山の人々に聴き伝えられ、心に暖かな灯をともし続けるであろう。

心よりご冥福をお祈りいたします。

 

2020/03/29
藤枝伸介

 

<推薦YouTube動画>

『Soul Makossa』(1972)

 

『Makossa Man』(1974)

 

『Afrovision』(1976)

 

『Electric Africa』(1985)

 

『Aye Africa』Linon of Africa live in London 2004

 

ライターProfile

藤枝伸介

Sinsuke Fujieda

⾳楽家。⾳楽プロデューサー/作曲家。サックス・フルート奏者。⾼校三年になって間もなくジャズサックス奏者Charlie Parkerに衝撃を受け、⼤学⼊学と同時にサックスを始める。クラブジャズバンド”i-dep”でのサックス&フルート、フロントマンとしての活動を⽪切りに⾕中敦(東京スカパラダイスオーケストラ)とのサックスデュオ “2 of a kind“ 、DJ井上薫との“Fusik“、DACHAMBOのシンセストCD HATAとの “Polar Chalors“ 、SINSUKE FUJIEDA GROUPやピアニスト富樫春⽣とのデュオなどでライブ、リリースを重ねフジロック、Summer Sonic、SXSW等国内外⼤型フェスへ出演。2010年 世⽥⾕芸術アワード「⾶翔」⾳楽部⾨をSound Furniture名義で受賞。独⾃のアンビエントや企画を展開。クリエイターとしても銀座伊東屋(itoya)新本館BGMプロジェクトに参加。これまで⾃⾝の作品や参加バンドでのアルバムを約30作品リリース。 TVCM、客演などを含むレコーディング楽曲、参加アルバム多数。 サックスレッスンやワークショップも開講している。2012年より⾳楽レーベル”SoFa Records”を運営。これまでに10作品をリリース。現在はソロ、Sound Furniture、i-dep、2 of a kind、ROOTSTRIBE、MUMBIA Y Sus Candelosos、no.9 orchestra、藤枝伸介×富樫春生、各種セッションなど多方面で活躍。