THE SAX vol.71

須川展也 & 本田雅人 初対談が実現!

クラシック・サックスの第一人者である須川展也と、ジャズ/フュージョン・サックスのトップランナー本田雅人。同じ時代に音大で学び、歳は1つ違いの二人は、実は旧知の間柄で、ずっとお互いを意識し尊敬しあってきた。この対談で10年ぶりの再会を果たした二人が、大学時代の想い出や恩師のこと、サウンドや奏法、そしてサックス史上における重大事件についてなど、日本のサックスの最前線を存分に語ってくれた。ここではその一部を紹介しよう!

 

─お二人は東京藝術大学と国立音楽大学と学校は違いますが、学生時代からのお知り合いだそうですね。
本田 : そのころからもう、須川さんは超が付くスター。サックスを吹く学生ならみんな知っていました。本当に光り輝いていましたね。当時、その世代でそんなに脚光を浴びる人はいなかった。

須川  : 僕は師匠の大室勇一先生から、すごいのがいるぞと、本田さんの噂を聞いていました。ニュータイドジャズオーケストラ(国立音大のビッグバンド)のバンマスで、山野ビッグバンドジャズコンテストでソリスト賞を取ったことも。本田さんと同じ国立音大にトルヴェール・クヮルテットの仲間である田中靖人くんがいたので、一緒にニュータイドの練習のテープを聴いたりもしていました。

本田 : えっ、そうなんですか? 僕は大学の卒業演奏でイベールを吹きましたが、あれは須川さんと大学で二つ後輩になる田中くんのコピーなんですよ。外国の大先生の演奏も聴いたけれど、やはり同時代の人が吹いているんだ、という実感のもとに演奏できたことは、すごく良かったと思います。

須川展也

─クラシックとジャズ・フュージョン、別々の道を歩まれましたが、活動の中で節目、分かれ道と感じたところは?
本田  : 須川さんはまさにクラシック・サックスの王道を行かれていますね。

須川 : まあ、大学を出た瞬間に、演奏で身を立てることの苦しさと厳しさには打ちのめされるわけですが、自分らしさと、音楽をお客さんに届けるという思い、それを認識して頑張ったというところはあります。 東京佼成ウインドオーケストラに入ったことも大きいですね。プロのオケに在籍しながら、自由な演奏活動をすることが可能だった。オケとソロ活動の両面で、クラシック・サックスを知らしめたいという思いで突っ走ってきました。

本田  : 僕は音大に入る前、クラシックのサックスを全然知らなかったんです。音大に入ることを決めてから、住んでいた田舎町から片道3時間かけて高知市まで、宮地先生という方にクラシック・サックスを習いに行き、そこで初めて、こういう音があるんだって知りました。 音大では4年間クラシックをちゃんとやろうと思っていたんです。でも学校外のつながりでいろいろなバンドに入ってるうちに、学生時代からプロに入って演奏ができるようになって、それはラッキーでした。卒業を目前にしてタイミングよく原信夫さん率いるシャープス&フラッツに入ることができたし。その後クラシックをやる機会がまったくなくなって残念です。でも、学校でやったことは未だに役立っていて、自分の中には、ジャズだけをやってきた人とは違った感覚があるように思います。

─お二人はそれぞれのジャンルで、奏法の面でも革新的なプレイヤーと言われています。どこがそのように評価されていると思われますか。
須川  : 革新的なことをやろうと思ったことはないんです。曲があって、そのスタイルがあって、そのためにこんな音を出したい、というイメージに近づけていくだけのこと。つまり、曲ありきなんです。この曲をどうやって表現しようかな、と必死にチャレンジしてきただけ。20世紀のジャズの方でも、自然発生的にいろんな奏法が出てきて、それが音楽に生きています。大切なのはジャンルじゃなくて、スタイルですね。

須川展也

本田  : 僕もそう思います、何かを発明しようというのは全然なくて、ただ一生懸命やって、うまくいくこともあれば、未だにうまくいかないときもあります。こしらえたものをそのまま提供しようとするとイカさない音楽になるし、瞬間的に出るフレーズがいいと言われるけれど、そんなに良いものばかり出てこないから、自分の積み重ねも必要。その辺のバランスが難しいですね。自分の中で常に前に進みたい、ということこそが原動力という感じがします。

─お互いのことをすごいと感じている点は?
須川  : もう、湧き出るフレーズですよ。やはり躍動感のあるフレーズがお得意ですよね。キラキラしている。そして、時々、フレーズの中にちょっとヴィブラートがかかってる。お、クラシック的じゃん、みたいなのが出てくるのが魅力ですね。

本田  : 僕は、須川さんの明るい音色ですね。須川さん以前のクラシック・サックスはもっと暗い感じがする。ジャズ系はもともとこもりがちな音色が好まれるんですが、須川さんにはそこにない音の輝きがある。今はみんなが須川さんを目指すので、全体がそういう音になってきてると思います。そして、ただ地味に吹くんじゃなくて、演奏がすごく明るく楽しそう。


本誌THE SAX 71号ではさらに、戦後70年を振り返って影響を受けた奏者や、日本のサックス史で印象に残った出来事、今後のクラシック・サックスとジャズ・サックスの交流についてなど、貴重なインタビューを満載!

 

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