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ジャズテナー エリック・アレキサンダー

THE SAX 54 特集「進化するジャズテナー」インタビュー完全版
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日課である新宿中央公園でのランニングを終えてやって来たエリックは、「喉がカラカラでお腹がペコペコだ」といってサンドイッチとビールを注文した。いわゆるナイスミドル・アメリカンのエリックは、いろいろな質問に明確にそしてとても正直に答えてくれた。

三木 お久しぶりです。ではまず、あなたが楽器を選んだ経緯、とりわけアルトではなくテナーを選んだ理由を教えて下さい。

エリック その質問の答えは簡単だよ。実は最初にアルトを吹いていた。僕の最初のサックスはアルトなんだ。そして別にテナーに替えようとも思っていなかった。ただ、大学一年生の時にちょっとした仕事があって、そこではテナーが必要だった。それで友達にテナーを借りてその仕事をやったんだけど、吹いてみて自分にはテナーの方がしっくりくる、と思ったんだ。それに……正直言ってその頃はまだ、あまり何も吹けなかったんだよ。曲もほとんど知らなかったし。ほら、アルトですでにいくつか曲を覚えている状態だったらテナーで覚え直すのは大変だろう? でもその頃は「失うものは何もない」状態だったからね、それでアルトとはさようならさ。

三木 なるほど、で、そのテナーですが、私を含め多くのリスナー、あるいはプレイヤーはあなたのトーンすなわち「音」に魅力を感じていると思います。自分の音を作ってきたプロセスについて聞きたいのですが、例えば一人のアイドルのような存在を追いかけてきたのでしょうか、それとも多くのプレイヤーを広く聴いてきたのでしょうか? その辺りの秘訣を。

エリック 秘訣かい? まずその質問に答える前に、そのように言ってもらえることに感謝するよ 。なぜなら僕にとって「音」こそが最も重要なものだからだ。どのような音符、音楽的言語、あるいはスタイルより大切なのは「声」だ。電話がかかってきて「モシモシ」とあと一言二言だけでその相手が誰だか判る、そんなパーソナルな「声」がサックスから出ているべきなんだ。
しかし、若いプレイヤーには、あまり自分独自の音を得ようと意識し過ぎないように、と言っている。というのは、まず、その人の音というのは次の2つの要素による産物だ。一つは何を聴いてきたかという他人からの影響、もう一つは自身の骨格や体格といった肉体的条件。
一つ目に関して言えば、誰も一つの食べ物だけでは生きて行けないように一人の偉大なマスターをというより、いろいろなプレイヤーを時間をかけて聴き、自分の目指す音の部品を多方面から得る方が良いだろう。しかし、それを実際に完成させるのは自分自身の体だ。これが二つ目。特に若いプレイヤーは自分自身の体と上手く コミュニケートする方法を見つけるべきだと思う。
例えば、いくら私がデクスター・ゴードンの音が好きで、彼みたいな音を出そうとトライしても 、多分上手くはいかないだろう。あんなにストロングに、多分パワーという意味では彼が一番だと思うけど、それを僕がやるというのは、僕にとってナチュラルなことではないんだ。スタン・ゲッツのように吹こうとするのも同じことだ。
僕は何年も長い時間をかけて一つのやり方を、といっても望む音を得るために必死になって楽器をねじ伏せるのではなく、自分にとってナチュラルで無理な力のかからない体の使い方を通して、楽器を自分の体の延長のように感じるようになったんだその秘訣と言ってもロングトーンの代りになるものは無いよ。そして良い楽器も必須だ。この「良い楽器」というのもある程度プレイヤーとして完成していなければその判断をするのは難しい。上達するにつれ何が良く、何が悪く、自分の探している物が何なのかが判ってくる。例えばこのテーブルに50個のマウスピースがあったとしても、それぞれ3つばかり音を出せばもうわかるよ。コレだってね。結局は実際的な経験と練習なんだ。

三木 3年前のインタビューで「マウスピースを替えるのは奥さんを替えるのとは違う」と言っていましたが、いま使っているマウスピースは?

エリック もちろん替えるのはマウスピースのほうだよ(笑)。実はあの後あのマウスピースを落としてしまったんだ。一応修理したんだけどやはりダメだった。いま使っているのは、やはり以前と同じタイプのオットーリンクのメタルだけど、ずっと前にジョージ・コールマンにもらったモノなんだ。使い始めて1年半くらいになるかな。
前のインタビューでも話したけどジョージ・コールマンは僕が最も影響を受けたプレイヤーだ。彼とは毎週会っていろいろ教わった。特にハーモニーをどうやって扱うか、あるいはプレイ上のちょっとした「トリック」などをね。もちろん彼そっくりに演奏しようとしているのではないけど、影響を受けているのは判るだろう?




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