ヴィンテージサックス解体新書|Part.2 Selmer Mark VI
セルマー マークVI編
現在でも根強い人気を誇るアメリカンセルマー マークⅥ。アルトではデヴィット・サンボーン、テナーではマイケル・ブレッカーをはじめ、 現在〜過去のジャズ史に燦然と輝く、名だたるプレイヤーたちに愛されてきた。
ダークで艶っぽく、存在感のある音色はどのようにして生まれるのか? また、マークⅥと他のセルマーの機種の違いや、マークⅥの中でも、製造の時期による音色や音程、機構の違いなど、普段なかなかお目にかかれないような貴重な写真も紹介しつつ、アメセル マークⅥの持つ魅力とは何なのか、マークⅥがなぜ名器と呼ばれるのか、その理由について迫ってみたい。
セルマーの系譜
セルマーのルーツはクラリネットから始まる。1880年にパリ国立音楽院を卒業したヘンリー・セルマーは、一流オーケストラのクラリネット奏者として活躍する傍ら、85年にセルマー・パリ社を創業してリードとマウスピースの生産を開始した。同年、弟のアレクサンドルはボストン交響楽団のクラリネット奏者となり、アメリカに渡る。1904年セルマー兄弟はパリに工房を構え、そこで製作された楽器が万国博覧会で金賞を受賞。アレクサンドルの演奏とともに、セルマーの名声はアメリカ中に広まった。06年にはアレクサンドルがニューヨークに楽器販売会社を設立。これが後のセルマーUSA社となる。10年、アレクサンドルは弟子のジョージ・バンディに会社を譲渡、兄を助けるためフランスへ帰国した。
セルマー社の最初のサックスは1921年の年末に完成した「シリーズ22」である。当時のサックスの月産本数は30本だった。1926年には、月桂樹の輪に「ヘンリー・セルマー・パリ」のアルファベットを組み合わせたロゴマークが誕生した。これは現在もセルマーの管体に刻まれている。29年にはアドルフ・サックスが1842年に設立した会社を買収する。翌年にセルマー・パリ社の楽器の月産は300本となり、そのうち80%が輸出用となっていた。
第2次世界大戦をはさみ楽器生産は一時的に落ち込んだものの、終戦後の48年には新製品「スーパーアクション(スーパーバランスドアクション)」が発表される。これに伴いアメリカでの販売促進も進んだ。58年には毎月1000本の楽器が製作されるようになった。セルマー社のサックスはクラシック、ジャズ、ポップスなど音楽のあらゆるジャンルで愛用されるようになり、世界的に高い評価を受けている。
一方アメリカのセルマーUSA社では、1940年代から80年代(スーパーバランスドアクションからスーパーアクション80まで)にかけ、セルマー・パリ社製作楽器の輸入販売に加え、パリ社製の部品によるノックダウン生産(=現地組み立て)が行なわれていた。これがいわゆるアメリカン セルマーと呼ばれる製品群である。
セルマー社では、ソプラニーノからバスサックスまで、またアメリカン セルマー、フランス セルマーに関わらず、すべての本体を同じ工場で生産していた。そのため、シリアルナンバーは通し番号になっている。つまり、アメリカンセルマー アルトの次の番号がフランスセルマー テナーといったこともありえる。
■ マークⅥ、スーパーアクション(スーパーバランスドアクション) 使用プレイヤー
〈各奏者のアメセル マークⅥ、スーパーバランスドアクションのシリアルナンバー〉
David Sanborn(アメセル マークⅥ As #14xxxx)
Kenny Garrett(アメセル マークⅥ As #16xxxx)
Eric Marienthal(アメセル マークⅥ As #20xxxx)
Jackie Mclean(アメセル マークⅥ As #11xxxx)
Lou Donaldson(アメセル マークⅥ As)
Maceo Parker(アメセル マークⅥ As)
Paul Desmond(SBA As #4xxxx)
Grover Washington jr.(アメセル マークⅥ As #8xxxx)
Michael Brecker(アメセル マークⅥ Ts #86xxx)
Sonny Rollins(アメセル マークⅥ Ts #130xxx High F#キィ付)
Eric Alexander(アメセル マークⅥ Ts #92xxx)
Bob Mintzer(アメセル マークⅥ Ts GP #56xxx)
John Coltrane(SBA Ts、アメセル マークⅥ Ts)
Joe Henderson(アメセル マークⅥ Ts)
Etc……
主要モデル
モデル26
モデル名の通り、1926年に発表された。LowC♯、B、B♭キィはマークⅥや現在の楽器などと違い、ベルの正面から見た場合、右側にレイアウトされている。
シガーカッター
シガーカッターの機種名は、オクターブキィのパーツ形状(下写真)が、紙巻たばこを切るシガーカッターに似ていることに由来する。
レディオインプルーブド
先述した、オクターブキィのパーツ形状の他は、シガーカッターとほとんど外観的な違いはない。セルマーのサックスは、このレディオインプルーブドまでが旧世代型のサックスといえる。
アメセル スーパーアクション(スーパーバランスドアクション)
このスーパーアクションの1つ前のモデル、バランスドアクションから、セルマーの新世代サックスとされているが、このスーパーアクションで初めてオフセットのキィ配列が採用され、操作性が格段に向上した。また、正式名称はスーパーアクションだが、後に発表されるスーパーアクション80シリーズとの混同を避けるためか、スーパーバランスドアクション(SBA)と呼ばれることが多い。本誌でも以降スーパーバランスドアクションの名称で表記する。
アメセル マークⅥ
現在でも多くのジャズ奏者に愛用され、高い人気を誇るアメリカンセルマー マークVI。オフセットキィを採用した前モデルのスーパーバランスドアクションをベースに、テーブルキィやオクターブキィなど機能面で改良を加え、更に操作性を向上させた。現在製造されているほとんどの楽器の手本となったモデルといえる。
アメセル マークⅦ
マークⅥの次に製造されたモデルで、マークⅥよりネック吹き込み部分の内径をほんの少し大きくしたことや、キィパーツなどが大振りに造られていることなどにより、マークⅥの艶っぽい音色の特徴に対し、高音域の出しやすさや、音量の増大が計られた力強さが特徴。現在でもエレクトリック系楽器との共演機会が多い、フュージョン系奏者などを中心にマークⅦ支持者は少なくない。