サックス記事

サクソフォニストのためのハローワーク

vol.4 警察音楽隊編2(群馬県警察音楽隊) 髙澤麻衣子

インタビューでは髙澤麻衣子さんと同じくサックスパートを担当され、交通部交通機動隊の所属でもある岡田健さんにも一緒にお話をお聞きしました。岡田さんは普段白バイのスペシャリストとして勤務され、フジテレビ系列の「実録! 炎の警察官24時」でもその活躍と音楽隊での活動が特集されました。

 

髙澤麻衣子

警察業務と音楽隊を兼務

音楽隊でのお仕事の内容を教えてください。
髙澤 出勤は8時30分です。9時30分から11時30分までが合奏になります。午後は主に各個人の練習やパートの練習をします。ただマーチングが始まると午後は隣の体育館を借りて、ドリルなどの動きの練習をする時もあります。警察音楽隊はドリル演奏をする隊も多く、現在は行なわれていないのですが、全国警察音楽隊演奏会で各都道府県警察音楽隊が披露していました。定期演奏会では座奏やドリル、カラーガードの入った演奏の三部構成になっており、これを楽しみに聴きに来られる方も多いです。派遣コンサートではその需要にあった選曲を心がけています。

 

白バイ

兼務されている隊でのお仕事はどのような流れですか?
髙澤 昨年度までは警ら隊でパトカーに乗っていたのですが、今年度からは隊内で事務仕事をしています。音楽隊と同じように8時30分に出勤し、9時30分からは朝礼があり、それから仕事に入ります。お昼を挟んで17時15分までは外に出たり事務仕事をしたりしています。
岡田 私も同様で音楽隊以外の時は交通機動隊において白バイを運転しています。

 

音楽隊の練習は月にどれくらいあるのですか?
岡田 音楽隊は本番と練習日を併せて月に平均して10回前後あります。休日を除きますと兼務している隊の仕事は12日くらいです。
髙澤 年間60公演ほどあり、偏りもあるので演奏が多い月は練習日が2日ほどでほとんどが本番日になってしまう月もありますね。

 

演奏

どのような形のコンサートがあるのでしょうか?
岡田 年に1度の定期演奏会が大きなコンサートになります。他には小・中学校で行なわれる交通安全教室の演奏や式典での演奏もあります。平成25年度は新潟や山梨、神奈川に行くなど県外での演奏もありました。

 

群馬県警は兼務隊となっていますが、全国的には専務隊と兼務隊はどのような割合なのでしょうか?
髙澤 兼務隊は37、専務隊は11で、兼務隊の方が多くなっています。専務隊と兼務隊では勤務内容が変わりますが、広報としての立ち位置は変わらないです。

 

音楽隊に興味を持たれたきっかけは何ですか?
髙澤 私はまず最初に刑事警察としての警察官になりたいと思っていました。中高と吹奏楽をしていたので、警察官になってからその経験を買われて音楽隊に声を掛けていただき着隊することになりました。
岡田 中高で上手に吹いていた方が警察官になったという、髙澤さんの情報は音楽隊や上層部に伝わってきたんです。専務隊と違い、音大から警察官になってオーディションをするという流れを兼務隊ではしていませんが、音楽に情熱を持っている人を隊員としています。

 

音楽隊の活動は「メロディ・パトロール」

群馬県警察のHP(www.police.pref.gunma.jp)にある動画「PRIDE IT IN」で髙澤さんが紹介されている際に話されていた「メロディ・パトロール」という言葉が印象的でした。
髙澤 音楽隊のコンサートの時によく使う言葉なのですが、警察の音楽隊なので演奏だけではなく、いわゆるパトロールのようなものでもあります。そういう意味合いも含めて警察音楽隊の活動を「メロディ・パトロール」として捉えています。パトカーでなく楽器を使ってパトロールしています。交通講話だけではなく、その間に演奏を挟んだりするほうが警察広報として受け入れやすいと思いますね。

 

髙澤さんはミズバショウ隊として震災直後に福島の被災された方のケア活動にあたられたそうですね。
髙澤 はい。平成23年4月27日から女性警察官だけで編成されたミズバショウ隊として福島に行きました。隊の中で音楽隊員が私一人だけでしたので、避難先でケア活動をすると同時に、自分の特技が何かの力になればと思い演奏させていただきました。発生直後でしたので、久々に心がほぐれたと喜んでいただけたのがとても心に残っています。

 

兼務隊では警察業務と広報業務としての音楽隊との二つが並行するわけですがどのように切り替えていますか?
髙澤 音楽隊で活動する時、聴く方は一生に一度の機会かもしれないので心を込めて丁寧に演奏するようにしています。機動警ら隊では対応する相手が必ずしも善良な市民とは限らず、犯罪抑止という形で職務質問をするので、朝の勤務時にスイッチを切り替えています。
岡田 私も同じです。両方が正反対の仕事なんですね。警視庁さんのような専務とは違い運用がまったく違うので、気持ちの切り替えが大変です。入ったばかりの隊員は切り替えが難しいという方もいます。私も長い年月この仕事に携わっていますので、やはり朝で気持ちを切り替えますね。音楽隊の終礼式が終わると顔色が変わっていると思います。音楽と交通機動隊は裏腹な仕事をしているんです。悪い人を捕まえなくてはいけない仕事で、特に白バイは死亡事故抑止ということで全国を挙げてやっている活動です。いわゆる切符を切る仕事なんですね。言ってみれば恨まれることもあります。逆に音楽隊として派遣先で演奏してお子さんとかおじいさん、おばあさんに拍手していただけると、とても嬉しいです。交通安全の気持ちが通じたなと。特に白バイは一対一で対応するので様々なことがあります。そのギャップがあるので白バイに乗っている若い隊員はうまく切り替えができない時がありますね。気持ちの切り替えは若い隊員にはアドバイスをしているのですが、引きずってしまうと難しいです。例えば、犯人を捕まえると次の日に業務が続くので音楽隊の練習があっても行けなくなってしまうんです。そういう意味でしっかりとした線引きが必要ですね。私の場合は白バイが終わったら音楽隊の顔になっていると思います。

 

髙澤麻衣子と岡田健

他に兼務隊として苦労されていることはありますか?
髙澤 毎日楽器を手にすることができないところは苦労します。週に2日ほどが練習日になるのですが、その中で本番が立て込んでしまう時に、しっかりと仕上げられない時があり、音楽をする者としては聴く方に失礼だなと自分が嫌になることがあります。その中でも気持ちを込めて丁寧に演奏すると届くものは違うと思うので、それは心がけています。
岡田 私も同じです。兼務の大変さは時間のなさに尽きます。だからといって休みをすべて使って練習にあてるとしても、身体がついてこなくなって本務である警察業務にも影響が出てきてしまいます。もっと練習して、もっとこういう曲を演奏したいという気持ちは皆あるのですが、兼務隊だとバランスが難しいですね。

 

警察音楽隊の仕事の魅力を教えてください。
髙澤 音楽隊として直接拍手をいただいたり、声をかけていただけた時は嬉しいですね。警察業務としては検挙した時に被害者の方からほっとされたりすると達成感はあります。大変な面もありますが、両方やっているからこそやっていけるという面はあります。
岡田 音楽隊としては直に国民、県民の皆さんと触れあえることですね。演奏を通して警察広報を効果的に伝えられるのはやり甲斐があります。警察業務としての白バイは本音を言えば身体的にはきついです。ただ違反をした方が「いや~事故を起こさず良かったよ」と言っていただける時があるんです。大体は反則金などがあるので恨まれることが多いのですが、そういっていただけると一人のドライバーさんを救えたなと感じ、大きなやり甲斐を感じます。

 

髙澤麻衣子パトカー

兼務としての警察音楽隊を目指す方々に一言お願いします。
岡田 音楽大学を出られた方が兼務の音楽隊を希望していただいた場合、環境的に学んできたことがどこまで活かせるか、ということはあるかもしれませんが、音楽も警察業務もどっちの仕事も一生懸命できるという魅力があると思います。音楽を専務隊として伝えるのも魅力的ですが、兼務隊は直に県民の皆様と触れあえ、声を聴くことができるのも魅力です。
髙澤 白バイやパトカーに乗ってみたいといった動機の人がいて、さらに音楽にも興味があるのならとても魅力的だと思います。兼務の音楽隊は大変さもありますが、同時にとてもやり甲斐もあります。やり甲斐がなかったらここまで続けられませんから(笑)。こういったことに少しでも興味がありましたら目指していただきたいです。

 

ありがとうございました。

 

 

 

佐藤淳一|千葉県出身。洗足学園音楽大学を経て、同大学大学院管打楽器首席修了。東京藝術大学大学院音楽研究科博士後期課程修了。サクソフォン領域において日本初の博士号(Ph.D.)取得。在学中から演奏活動を開始し、ジャンルを問わず幅広く活動。現代音楽には特に積極的に取り組み、L.ベリオのコンチェルト「レシ/シュマンVII」などを日本初演した演奏は高い評価を受けた。また、演奏活動の傍ら、執筆活動にも多く携わる。海外における活動も多く、これまでにパリ・サックスフェスティバルやGAP夏期講習会に参加。東邦音楽大学非常勤講師を経て、現在は北海道教育大学の常勤専任講師。博士 (音楽)。
http://saxolab.net