Part.2

ウィンドコントローラー NuRAD(ニューラッド)誕生

伝説のウィンドシンセ“スタイナーフォン”の機能を受け継ぎ、さらに進化を遂げ誕生したウィンドコントローラー“NuRAD”。前号では、サックス、ウィンドシンセサイザー奏者、コンポーザーにしてEWI開発にも携わった住友紀人氏とウィンドシンセサイザーの伝道師よしめめ氏によるNuRADの試奏と検証をお届けした。
コンパクトで操作性に優れたオクターブ・ローラーや、詳細に設定可能なブレスセンサーは、ブレスコントロールによる幅広いダイナミクスレンジを可能にする。MIDI信号をアサインすることで多彩なギミックを発揮するマウスピース部分のセンサースイッチ等々、各種機能や操作性などNuRADのポテンシャルについて対談が繰り広げられた。今回は未知なる可能性を秘めたNuRADのみ表現しうる機能「ボイスローテーション」について対談は進んだ。


写真:住友紀人 氏

ボイスローテーション機能

よしめめ
マウスピースの金属部分のセンサースイッチ(リップセンサー)で好きなMIDI信号をアサインできる。これは楽しいですね。また、実際に吹いてダイナミクスを強く感じます。他に何か吹奏感的に気づかれたことはありますか?
住友
吹奏感というか、吹いた感覚というのは音色によって感触が違う。つまり音源、もっと言えばウィンドシンセというのは音色ごとに違うわけで……。
よしめめ
PCM音源(注1)なんかは特に顕著に出ますよね?
  
※注1:  録音(サンプリング)した音を入力された情報通りに再生する音源方式。生楽器などはリアルに再現しやすい。
住友
まさにその通りで、本来であれば音色ごとに吹き分けをしなければならない。音色によってどうアプローチするかというのは重要です。サックスなんかは生楽器なのでサックスのほうを身体に合わせていけるけど、ウィンドシンセは逆に音色に対して身体をアジャストさせなければならないわけで。だから良くある「サックスが吹けるからウィンドシンセも吹けるだろう」と言うのはやめてほしいです。全く別の楽器と捉えてサックスと同じように情熱を持って取り組んでもらいたいです。
よしめめ
サックスなんかはネジとかキィのシャフトに至るまで追求する方がいますが、あれと同じぐらいの情熱をウィンドシンセにも向けてもらいたいですね(笑)。
住友
そうそう(笑)。NuRADでは特にそういう細かい調整も可能だし、チャレンジしてほしいと思います。

 
よしめめ
そういえばヨハン(注2)のウェブで気になる仕様を見つけました。「Harmonize」とか「Rotate」など書いてあって……。
  
※注2:  ヨハン・ベルグランド(Johan Berglund):Berglund Instruments社代表。スタイナーフォンの開発者であるナイル・スタイナーの甥マーク・スタイナーと、ヨハン・ベルグランドにより完成したNuRAD。現在NuRADはヨハン・ベルグランドのハンドメイドで製作されている。
住友
ボイスローテーション(コラム参照)ですよね。出来ます。
よしめめ
本体側の方でMIDIの出力をコントロールして同時発音数が二つ以上ある音源を繋げれば出来るってことですね!? これって夢のような機能なのでは……?
住友
そうなんです。僕の周りでもこれをやりたいがためにあのでっかいEXPANDERを買ったのが何人もいます。かく言う僕もその一人なんですけどね(笑)。これが本体側で出来ちゃうのは本当に凄い。
 

音源・音色との相性を見る

よしめめ
住友さんって昔からEWIでは色々とブッ飛んだ事をされてきたじゃないですか? 音作りにせよこういうシステマチックな事にせよ。則竹裕之さん(注3)主宰のバンドのライブで演った住友さん作曲の『Zero Point Energy』なんて、録画したビデオテープがそこだけおかしくなるぐらい観ましたもん(笑)。
NuRADの場合、住友さんが想定する使い方、音源なんかはどんなものを選択するかを聞いてみたいです。
  
※注3:  元T-SQUAREのドラマー則竹裕之氏。彼のオリジナルアルバム「DREAMS CAN GO」では住友さんがEWIで参加している。
住友
おそらく今使っているEWI USBと同じような形になるとは思います。今僕のMacにはEWI USB用のものとして相性を見ながら色んな音源・音色を入れています。それこそこのブラスセクションやハーモニカなんてAKAIのサンプラーの時代からリサンプリングして使い続けている音色だったり。ただ、使うコントローラによっての相性問題というのは避けられないので、NuRADだとしても色んな音源・音色との相性作業からは逃れられない運命ですね(苦笑)。
またNuRADぐらいの高機能だと、NuRADを元にした曲を作る可能性が高いです。こういう楽器は作曲にも影響を及ぼします。
よしめめ
楽器によって作曲にまで影響が出るんですね?
住友
さっきよしめめさんが挙げた『Zero Point Energy』って曲、とにかくカッコいいでしょ?(笑)。そりゃあそうですよ。だってEWIのために書いた曲なんだから(笑)。
よしめめ
うわぁ、めちゃくちゃ納得しました!

 

 

NuRADで開拓する愉しみ

住友
NuRADはおそらく「ちょっとウィンドシンセを始めてみようかな」といった軽い気持ちで買う人は少ないと思います。ブレスカーブの設定なんてスキルが無ければ分からないし、出力するMIDIやギミックも受ける側(音源)がどう受けることが出来るか理解していないと設定出来ない。価格だってそれなりにします。ただ、NuRADじゃないと出来ない事があるのでそこを“分かっている人” “頑張ってスキルを身につける人”たちで開拓していってほしいと思います。
まだ販売されて間もないですし、発売後の最初期から開拓できるというのは何より楽しい作業なので、皆さんで開拓していきましょう!(笑)。
よしめめ
あぁ、EWI開発してた頃の血が騒いじゃってる(笑)。
今回コウスキミュージックさんという日本国内での代理店さんがついたというのは大きいですよね。楽器って買った後のサポートって重要じゃないですか? マウスピース等の消耗品購入もそうだし、故障したらしたでスウェーデンに発送したりを考えると……何語で依頼すればいいんだろうとか(笑)。
住友
その点コウちゃん(コウスキミュージック社長 鈴木功氏)のところで扱うというのは安心ですよね。保証も付くしメンテや修理については旧AKAIでEWIのサポートやってた方々が行なうという話ですし。
スタイナーとも昵懇の間柄なのでフィードバックもしやすい。育てていく楽しみもありますね。

 

 

column  ボイスローテーション/ハーモナイザーとは

マイケル・ブレッカーが好んで使っていた「吹くたびに和音の構成が変わる」機能の事である。 例えば以下の3つの音源をこのように設定すると…

  音源1 メイン音色(ドを吹くとドの音が鳴る)
  音源2 ハーモニー用(ドを吹くとミとソとラの和音が鳴る)
  音源3 ボイスローテーション用(ドを吹くたびオクターブ下のド→ミ→レと順番に鳴る)

上記のように繋いだ状態で、「ドドドドド」と吹くとボイスローテーションされたベースラインが動く仕組み。 これを再現するには、OBERHEIM EXPANDERやYAMAHA TX802等その機能を持つ特定の音源が必要であったり、前号で記述したMt.Fuji Jazz FestivalでのブレッカーはDAWのホストアプリであるソフトウェアLogicで複雑怪奇なエンバイロメントというプログラムを書いたりスクリプトを組んだりする必要がある。

ハーモナイザーというのは例えば調をCメジャーと設定して各音階を吹けば、ド→Cメジャー、レ→Dマイナー、ミ→Eマイナー、ファ→Fメジャー……と、ダイアトニックで構成を勝手に変えながら和音を出す機能である。 通常であれば単音楽器であるウィンドシンセで和音を出す場合、音源側の音程(音階)差を設定するしか手段が無いため、0(ド)、+4(ミ)、+7(ソ)と設定しても「ド→Cメジャー、レ→Dメジャー、ミ→Eメジャー、ファ→Fメジャー……」となり、すべての和音、音と音のインターバルは一定にしか設定されず、楽曲内での調性が破綻する。

●製品情報 NuRAD ベーシックモデル 販売価格 190,000円(税抜)
NuRAD ワイヤレスMIDI 販売価格 210,000円(税抜)
リポバッテリー装着オプション 販売価格 5,900円(税抜)

NuRADに関する詳しい情報は
コウスキミュージックアンドサウンド 株式会社
https://kohske.com/
TEL:048-494-1017
E-mail:info@kohske.com までお問い合せください。

 
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