サックス記事

本田雅人 meets NuRAD

THE SAX vol.106

2021.7.3、Billboard Live YOKOHAMAで行われた本田雅人BANDのライブで新兵器としてお披露目されたウィンドコントローラー「NuRAD」。ここのところ飛ぶ鳥を落とす勢いで広まっているNuRADだが、本田氏がどんなメリットを感じ使用することになったのか、そしてどのような音源と設定で運用しているのかを紐解くためライブ後インタビューを敢行した。
文・インタビュー:よしめめ

まずは本田さんのウィンドシンセとの出会いからお聞かせください
本田
80年代に梶原順(Guit)、石川雅春(Ds)と結成したユニット「WITNESS」当時は、最初EWIではなくてYAMAHAのWX7を使ってました。
最初のウィンドシンセはEWIではなかったんですね?
本田
そう。TX81Z(注1)やMKS-50(注2-1)時にはDX-7Ⅱ(注2-2)やD-50(注2-3)なんかも繋げて使っていて、EWIはスクエアに入ってからです。
ということは、EWIは1000では無く、3000からでしょうか?
本田
EWI 1000は当時AKAIに行った時に置いてあったのを触った程度です。
NuRADを最初から普通に吹きこなされていたので、てっきり1000が最初かと思っていました。息の抜けない構造に違和感はありませんでしたか?
本田
多少はあったかな。僕はEWIを吹く時も息をもらさないので。ただ、幸いなことに小さい頃から家には色んな楽器があって、楽器は何でもいい人。ドレミが分かれば身体でアジャストすればいい、みたいな(笑)。だからNuRADも自然に吹けましたね。
NuRADを吹いて、他に感じることは?
本田
長年吹いてきたEWIはもちろん吹きやすくて、このローラーなんて考えた人は天才ですよね(笑)。それに一番近い感じがするのがNuRAD。コウスキミュージックの鈴木さんから紹介されて試奏した際はすこし違和感があって……、キィの配列は真っ直ぐじゃないし。ただ何かメリットがあるからこういう形なんだろうし、自分が楽器に寄っていけばよいと。
あと、荷物が少なくて済むところはメリットですね。このサイズで、あとは音源としてMacやiPad等、小さな音源があれば済んじゃう。充電式だしワイヤレスは動きを縛られずストレスがないですね。
 
─本田雅人さんによるNuRAD デモ演奏─
 
収録時セットアップ
 
音源がソフトシンセとなるとアレルギーを持つ人も多いですが…。
本田
僕はもともと打ち込みとか大好きで、QX3(注3)を極め過ぎてしばらくMacに行かなかった(笑)。ハード音源はいくつも持っていたけど、時代の流れには逆らえず今ではMacとソフト音源しか使ってないし、アレルギーは全く無いですね。よしめめさんに紹介してもらったIFW(注4)なんて本当に良い音源で、吹奏感もいいしウィンドシンセ特化と言うだけのことはある。ソフトシンセを使うことでさっき言った可搬性も良くなるわけで。僕はEWIでは4000よりも3020や3030の音が好きです。4000は発音の感じなんか自分の感覚とちょっと違うというか。PCM音源(注5)のEWI 5000はまだ吹いたことありませんが、そもそもコンセプトが違うんでしょうしね。僕はウィンドシンセは、“ウィンドシンセっていう音の出る楽器”として使っているので、そういう好みの音源を色々コントロールできるのがNuRADの良いところのひとつですよね。デジタルの違和感が全然ないし。
今回のライブで披露された楽曲『Athlete』ではIFWの音源、『TAKARAJIMA』はMC-101(注6)を使用されたようですが?
本田
MC-101は島村楽器さんに行った時ウィンドシンセで使えるハード音源で何かお勧めを尋ねたら、これが出てきました(笑)。こちらはまだ研究中ですが。
2つの音源を使うとなるとブレスの信号はどのように設定していますか?
本田
CFと7(注7)……だったかな?
なるほど。IFWとMC-101とで繋ぎ変えた際NuRADの設定を変更しなくても良いようにしてるんですね。ちなみにNuRADのブレスカーブの設定(注8)はどれにしていますか(写真1)? これ結構みなさん知りたい部分だと思います(笑)。
本田
+1ですね。
意外ですね。てっきり反応速度重視でマイナスかと思っていました。
 
(写真1)メニューボタン&有機ELディスプレイは裏面に配置
 
本田
昔のEWIも立ち上がりを緩やかにする改造をしていましたし。ただここは慣れてくると変わるかもしれません。
他に何かカスタマイズしてるところはありますか?
本田
ベンドプレート(写真2)にセロテープ貼ってるぐらいかなぁ。ただ、グライドはEWIみたいにオクターブローラーの奥にあったほうが良いんですよね。実はそこ改造出来るようで、ぜひコウスキミュージックさんにお願いしたいです(笑)。ハンドメイド機の場合こういうことができるのもメリットですよね。
 
(写真2)ベンドプレート(ダウン)にセロテープを貼って感覚を鈍くしベンドの効きをコントロールしている
 
本田さんが使用するウィンドシンセ、ウィンドコントローラーとして今後はNuRADがメインウエポンとなるのでしょうか?
本田
完全にNuRADへ持ち替えになるというワケではなく、せっかくいろいろなウィンドシンセが出てきているので、それぞれの可能性を探りつつ、各々の特徴や個性を感じながら使っていけたらと思っています。
本田さんが今後NuRADに期待したいことは?
本田
最近アルバムの中にもウィンドの曲がなかったんです。自宅にサックスが吹ける防音室を作ったせいでEWIを吹く機会が激減したせいもあるでしょう。昔は家ではEWIしか吹けなかったから、発想もEWI寄りだったのかも? 今回NuRADという僕の個性を出せる楽器に出会ってウィンドシンセ熱が高まってきている。自分の音楽表現を行なう上で自分のやりたいことを叶えられる楽器であるというのは一番大事。これはIFWのおかげでもあります。IFWはその辺わかってる人たちが作っているから“ウィンドシンセ”として生きてくる音しか入っていない。音色(波形)の数が多くても僕には意味がなくて、ウィンドシンセで生楽器の音を出すことに期待はしていないし、サンプル音ではアタックやスラーが自分のイメージと違うことが多いので。ライブ終わってから二つほど自分の音を作ったし、“ウィンドシンセの音”のバリエーションを増やしていきたいですね。ただEWI(5000、SOLO)、ヤマハ(YDS-150)やローランド(エアロフォンシリーズ)等、違ったコンセプトで作られるのもアリだと思います。初・中級者の方がカジュアルに使えたり、サックス練習の代わりに使えたりするというのはウィンドシンセの裾野を広げてくれるわけで、そこはとても良いと思っています。今度配信でも各々のメリットを活かした使い方みたいなのをやろうかなって考えています。
NuRADが色んな意味で起爆剤になったんですね。
本田
そうですね。ウィンドシンセそれぞれでターゲットが違うでしょ? 車で例えるとカローラとF1みたいな(笑)。かたやみんながカジュアルに使えて楽しめる物、もう一方NuRADはレース専用の完全プロユース。どっちも大事だし、どっちも必要ですよね。開発意図も様々だし、それぞれのウィンドシンセが棲み分けも含め共存して、ユーザーが用途によって選べる環境が理想的ですね。例えばNuRADとEWIの使い分けという部分では、携帯性の違い等によるところが大きいのかと。音源が同じなら、基本的にはどちらも使えるので。あとは持ち運びやすさとか、ワイヤレスで使えるとかその辺と、実際の演奏しやすさとの兼ね合いになるのではないでしょうか。みんなで“ウィンドシンセ”を盛り上げていきたいですね。
 
左より:コウスキミュージック鈴木氏、本田雅人氏、インタビュアーよしめめ氏
 

NuRADに関する詳しい情報は
コウスキミュージックアンドサウンド株式会社
TEL:048-494-1017 MAIL:info@kohske.com
https://kohske.com

 
NuRAD
本田氏使用の「NuRAD Kind of Blueカラー」
 

 
[注釈]
(※注1)TX81Z:YMAHAのFM音源。サイン波以外の波形が使用可能で当時WX7の推奨音源だった。
(※注2)(注2-1)MKS-50:αJUNOをアフタータッチ対応にしたラック版音源。(注2-2)DX-7Ⅱ:世界中で今だに使われているFM音源搭載機。ブレスコントローラー用のパラメータがある。(注2-3)D-50:複雑な波形を自ら生成できるLA音源。当時はアナログでもFMでも無い新たなシンセシスとして注目された。
(※注3)QX3:YAMAHAのシーケンサー。レジスターのようなキィを使い音符やMIDI情報を入力し、これに繋いだ音源を自動演奏出来た。
(※注4)IFW:インタビュアーのよしめめ氏がαバージョンから開発に参加しているウィンドシンセ専用のソフトウェア音源。「ウィンドシンセ専用」と銘打つだけにブレスの信号に対するよくあるドン付きやパツパツノイズ、デジタルノイズなどに考慮した造りとなっている。各種モジュールも豊富で、複雑なモジュレーションが出来、幅広い音作りが可能。本田氏に渡ったものは後日市販予定のスタンドアロンで動くβバージョン。
(※注5)PCM音源:音を録音して再生する方式の音源。生楽器など複雑な波形を持つ音を出す事が出来るが、アナログ音源のような滑らかさが無い。
(※注6)MC-101:Rolandの小型デスクトップ音源。本来用途としてはグルーブボックス、つまり打ち込みによるエレクトロサウンドのトラックメイクを行うための物だが、音源にZen-Coreエンジンが使用されており、アナログ・モデリングやエアロフォンにも採用されているSuper Natural、PCMといった各種音源が使用可能。各種エフェクトの設定も出来る。また通常シーケンスを走らせるトラック4つに各々音色を設定出来るため、4つの音を混ぜる事で複雑な音色を作ることが出来たり、PORY PLAYにより和音を出せる。
(※注7)CFと7:通常音源というものは各パラメータに対して受信可能なMIDIコントロールチェンジナンバー(MIDI CC)が割り当てられている。例えばMC-101の場合は倍音量を変化させる「フィルターのカットオフ」をCCの74番でコントロール出来、音量を変化させる「アンプレベル」をCCの7番でコントロール出来る。NuRADは息に対し複数のMIDIコントロールチェンジを設定出来るようになっており、今回本田氏はCF(CC#74)と7を設定する事で、MC-101とIFWどちらも息でカットオフとアンプを動かすように出来る。またMC-101の場合はベロシティという発音時の信号も必要。音源についてはこのように「どんなMIDI情報が必要か」を理解しつつ選択し、それに合ったNuRADの設定を行う必要がある。
(※注8)ブレスカーブ:NuRADでは(写真1)のメニューボタン&有機ELディスプレイにより、息の抵抗感だけでなく「出力のさせかた」の設定が可能で、より吹奏感の向上を得る事が出来る。「+1」は吹き始めから中間までがなだらかに立ち上がり、そこから最大の息量までが一気に立ち上がる傾向となる(エクスポネンシャル・カーブ)。住友氏、宮崎氏、よしめめ氏はZ2という吹き始め(pp付近)のみ立ち上がりが良く、そこから先がエクスポネンシャルになるカーブが好みである。NuRADの場合はブレスカーブですら自分や音源に合った設定を細かく行なえる。