サックス記事 元晴 テナーが大活躍した 2年ぶりのアルバムを 唯一無二の個性派サックス奏者が語る
  サックス記事 元晴 テナーが大活躍した 2年ぶりのアルバムを 唯一無二の個性派サックス奏者が語る
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THE SAX vol.49 Cover Story

元晴 テナーが大活躍した 2年ぶりのアルバムを 唯一無二の個性派サックス奏者が語る

ARTIST

ジャズと現代ポップミュージックとの間、豊かな技量や知識とワイルドな実践の間、国内マーケットと海外マーケットの間、送り手と受け手の間……。自由な音楽には踏み込めないタブーはないんだよと言うかのように、様々な狭間や壁に体当たりするような胸のすく活動をミレニアム以降、鋭意続けている6人組がSOIL &“ PIMP” SESSIONSだ。彼らは、オリジナルのスタジオ録音作としては2年ぶりとなる『MAGNETIC SOIL』をリリース。そこで、サックス奏者の元晴はこれまでになくテナーを多用している。そんな彼に、新作のことやテナーサックスとの関わりについて聞いてみた。
TEXT:佐藤英輔 PHOTO:草野 裕 協力:ビュッフェ・クランポン株式会社

初めてのテナーサックス、カイルヴェルトとの運命的な出会い

元晴さんはソプラノ、アルト、テナーを併用していますが、その選択はどのように決めていくんでしょう。
元晴
曲調かな。僕は基本、アルトを選ぶ時は明るい曲の場合やカラっとさせたい場合ですね。あと、レゲエ曲の場合もそう。テナーを選ぶ時は渋い曲や、歌声が高いヴォーカルの方とやるとき。それから、ちょっとノスタルジックだったりすると、ソプラノを吹きたくなったり。ほんと、フィーリングですね。ただ、今回は、テナーとソプラノばかりになっているんです。ほとんどがテナーを吹いて、3曲がソプラノで、アルトは1曲しか吹いていないんじゃないかなあ。そういう意味では、今回渋い曲が多いんですかね?
テナーサックスは、ユリウス・カイルヴェルト(以下カイルヴェルト)を吹いているんですよね。
元晴

インタビューにも熱く応える元晴氏
ええ、『MAGNETIC SOIL』でも、全部カイルヴェルトで吹いています。でも、テナーはまだ吹き始めて4年ほどなんですよ。メンバーからも吹いたらと言われたり、自分としてもテナーを吹きたいなとは思っていたんだけど。でも、それまでは一度も吹いたことがなく、アルトとソプラノだけでした。なのに、初めてカイルヴェルトを吹いたときに、自分のテナーサックスの音がはっきりイメージできたんです。あ、これだったら、テナーもできるかもしれないと思った。で、そこから、ずっとカイルヴェルトを使っています。カイルヴェルトを手にして、そのまま07年の東京JAZZに初めて出た際、すごい真面目な雰囲気だったのでふざけたことをやってやろうと思って、吹いたこともないテナーのデビューをそこで果たしたんです(笑)。カイルヴェルトはよくある音ではなく、自分らしい音が出るんですよ。とにかく、僕は自分にしかないものが好きだし、自然とカイルヴェルトを手にしていますね。実は、なぜか昔から、カイルヴェルトのことは気になってはいたんです。高校ぐらいのときからですね。
それは、どうしてですか。
元晴
雑誌の広告を見て、なんなんだろう、この我が道を行っている感じは、と印象に残っていた。何ものにも似てないな、という感じで。でも、吹く機会がなかったんです。
日本のジャズの奏者でカイルヴェルトを愛用する人はそんなに多くないですよね?
元晴
あんまり、聞かないですよね。僕は4年前に楽器店で出会ったんです。黒いボディに金色の模様が浮いていて、さらには指を置く真っ白な貝殻がポンポンポンと置いてある立体感に、もう一目惚れ(笑)。そして、実際に吹いてみたら、見た目だけじゃなかった。
じゃあ、そのとき、カイルヴェルトを手にしていなかったら、テナーを吹いていない可能性もあるわけですか。
元晴
吹いてないかもしれないですね。イメージが持てないと、進めなかったので。うん、出会ってなかったら、吹いてないでしょうね。
最初の出会いの際、得ることができたテナーサックスのイメージはどのようなものか、言葉で説明することはできますか。
元晴
それを口に出して言うのは難しいですね。自分がそれを吹いている姿を想像できるか否か。その姿と音が一致するかどうか。そして、カイルヴェルトはそういうことが全部一致したんだと思う。それで欲しいとなったときに、メーカーの方ともお知り合いになれたり。 すべて、そういうタイミング、出会いですね。

音楽も楽器も主張を持ってどこまでも個性的に自分らしく

ジャズだけでなく様々なジャンルの奏者が用いる楽器を元晴さんが愛用するというのは、僕は納得できます。だって、破天荒なプレイヤーではありますが、ちゃんと下地があった上で鮮やかな飛躍を求めていますから。
元晴
ありがとうございます。ソプラノも僕はビュッフェ・クランポンを使っていますからね。クランポンもあまりジャズ側で吹いている人はいないと思う。かと言ってクラシックの世界でも、クランポンを使っているのは個性的な人のように思います。僕の先輩でもすごく個性的な方が吹いていたし、先生も個性的な方が吹いてましたね。要するに、カイルヴェルトやクランポンを持っている人はそういう部分で自分がある、なぜこの音が好きなのかという主張を持っていると、僕には思えます。
で、新作『MAGNETIC SOIL』を出して、秋には17カ所を回るツアーをおやりになるんですよね。
元晴
10月から12月までやります。そして、来年はバランス良く、海外にも行くという感じかな。見たもの、聴いたものは、音に跳ね返るので、海外で演奏するのはとても有益ですね。
僕は元晴さんのリーダーアルバムを切望したいです。
元晴
機会があれば、出したいですね。今、バンドのメンバーとして、SOIL & “PIMP” SESSIONS と(仮)ALBATRUS(元犬式のシンガー/ギタリストの三宅洋平らとの、ミクスチャーバンド。来年2月には、この夏に沖縄でレコーディングしたアルバムがリリースされる予定)に関わっていて、自分の中にあるもの、僕が出せるものはすべてこの2つのバンドで出し切ってはいます。でも、やりたいことは他にも一杯あるので、やはり作ってみたいです。ま、タイミングですね。
登場するアーティスト
画像

元晴
Motoharu

1973年、北海道名寄市生まれ。サックスを初めて吹いたのは小学校6年生のとき。そして、ジャズと出会ったのは、高校2年生。“バークリー・サマー・セミナー・イン・ジャパン”に行ったのがきっかけで、その後ジャズに大いに惹かれるようになる。そして、洗足学園音楽大学に入学後、米国ボストンにあるバークリー音楽大学に進み、4年間学んだ。帰国後の2001年にSOIL &“PIMP”SESSIONS に加入、同バンドの弾けた路線は大きく像を結ぶようになる。03年にはアルバム未発売ながらフジ・ロック・フェスティヴァルにも出演。04年にデビュー・アルバム『PIMPIN’』をリリース、現在までビクターから数々のアルバムやDVD 作品をリリースしている。また、彼らの大ファンである英国の国際的DJ、ジャイルス・ピーターソンの後押しもあり、05年以降は欧州ほか海外に大々的に進出。現在、トップ級に国際競争力を持つバンドとしても知られている。現在、(仮)ALBATRUS のメンバーでもある。

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