須川展也 × WOOD 10th Anniversaryモデル HA-FW10000
「ヘッドホンも、楽器でありたい」というコンセプトから、木の振動板を採用し美しい響きと自然な音の広がりを追求したJVC「WOOD」シリーズからこのたび10周年を記念したフラッグシップモデル「HA-FW10000」がVictorブランドより発売され話題を呼んでいる。
「ヘッドホンも、楽器でありたい」というコンセプトから、木の振動板を採用し美しい響きと自然な音の広がりを追求したJVC「WOOD」シリーズからこのたび10周年を記念したフラッグシップモデル「HA-FW10000」がVictorブランドより発売され話題を呼んでいる。
JVC「SOLIDEGE(HA-FD01)」を愛用している須川氏に、同製品を試してもらった。(THE SAX95号より)
WOOD 10th Anniversaryモデル
HA-FW10000
ハウジングからMMCX端子を分離するという過去にない構造や、新開発ウッドドームドライバーユニットを採用するなど音質を徹底追求。さらに職人による漆多層塗り仕上げの日本産楓(かえで)無垢削り出しボディ、吸音材には天然素材の阿波和紙と絹綿を採用するなど、デザインや使用素材にもメイドインジャパンの誇りとこだわりを感じるWOODシリーズ渾身のフラッグシップモデル。

ーー須川さんには以前、JVCの「SOLIDEGE(HA-FD01)」を試していただきましたが、大変気に入られてその後も愛用しているそうですね。今回は、WOODシリーズ最高峰モデル「HA-FW10000」を試してみて、いかがでしたか?
須川 HA-FW10000を聴いた瞬間にまず感じたのは、空間がとても広大だったこと。例えば音が鳴っている場所がオーディオルームだと仮定したときに、その部屋の容積がとにかく広いんです。この小さなボディで、よくぞこれだけの空間表現ができるものだと驚愕しますよ。ビクター(JVC)はまた凄いものを世に出してしまったな、と(笑)。
SOLIDEGE(HA-FD01)は、私のそれまでのイヤホンに対するイメージを変えてくれた製品で、今も楽しんで使っているわけですが、HA-FW10000は“イヤホンであることを忘れさせてくれる”製品ですね。イヤホンが悪いと言っているわけではなく、気付けばシアタールームのような部屋で聴いている感覚で音楽に没頭している。そんなイヤホンという概念を超えた製品だと感じます。目の前でスピーカーが鳴っているのではなく、360度包まれているような。どんな喧騒の中にいても、付けた瞬間いつでもこの空間の中に入り込めるというのはすごいことですよ。

ーー音の傾向はいかがでしょうか。
須川 音に関しては、SOLIDEGE(HA-FD01)が一音一音くっきりソリッドに聞こえてくるのに対し、WOOD(HA-FW10000)は角の部分に多少ヤスリをかけ、より柔らかなイメージ。と言っても単純に柔らかさがあるだけでなく、キレの良さを感じるし、臨場感もあります。例えば無伴奏ヴァイオリンの曲を聴くと、音の余韻が遠ざかっていく様がよく見えます。先ほどの“空間が広い”ことと結びつきますが、オーケストラや吹奏楽を聴くと、左右はもちろん、前後の音、つまり奥行きをよりはっきりと認識することができます。このような大編成の音楽を聴くにはうってつけでしょう。例えば私のアルバム「ヴィルトゥオーゾ・コンチェルト」(東京佼成ウインドオーケストラとの共演盤)を聴いてみましたが、一曲目の最初の音から、まるで音の水しぶきのようなパーカッションの臨場感と、定位がはっきりしたブラスの旋律が迫ってきます。録音当時の状況が蘇るようで、これには思わず「凄いな」と口に出してしまいましたよ(笑)。細かいニュアンスだけでなく、その場の気配までも鮮明に感じ取ることができるんです。
ーーサックスの音を聴いた印象はいかがでしたか?
須川 やはり一番わかりやすいのは自分の音なので、これも私のCDを聴いた印象ですが、原音の再現性はこれまでのイヤホンより一歩抜きん出ています。それはモニター用ともまた違って、マイクで録った自分の音をこれで聴いてみるとよくわかるのですが、楽器が持つ良い成分をしっかりと打ち出してくれる。だから忠実に再現しているにも関わらず聴いていて辛くなりません。いわゆる金属ノイズのような、聴いて嫌だと感じる部分が柔らかくなっているのもそう感じさせる理由かもしれません。サックスを吹く人はぜひ自分自身の音を、HA-FW10000と他のイヤホンとで聴き比べてみてください。
ーー数々の作品を残されている須川さんですが、作り手の立場から見ても他とは一線を画す製品なのですね。
須川 CDなどの録音物というものは、その中に演奏者の発想だけでなく、エンジニアをはじめ様々な人の音作りのこだわりが詰まっています。HA-FW10000は、そこまでをも感じ取れる製品だと思います。聴き手と奏者、さらにその先の部分まで含めてすべてを楽しめる。これはコンサートなどの生演奏とはまた違った楽しみ方であり、ここまで感じてもらえるなら作り手として大変嬉しいですね。ただし、一度この音を知ってしまうと、もう他のイヤホンでは満足できなくなりますよ(笑)。

SP-A10BT オープン価格:実勢価格/1万3千円前後(税抜)
今回の取材で、須川氏がもう一つ感激したというアイテムがあるのでご紹介しよう。首にかけている白いバンドが、JVC ウェアラブルワイヤレススピーカー「SP-A10BT」というネックバンドスタイルスピーカーだ。88gと非常に軽量で、吹きながらメトロノームを鳴らしても音が聞こえ、また自身の練習を録音してこれで流せば家で作業しながらでも確認できる優れもの。須川氏にとってこれからの新たな必須アイテムだ。サックスを吹く読者はぜひこちらもチェックしてみてほしい。

須川展也
Nobuya Sugawa
日本が世界に誇るクラシカル・サクソフォン奏者。長きにわたり、現代の名だたる作曲家への委嘱を継続し、クラシカル・サクソフォンのレパートリーを開拓し続けている。国際的に広まっている楽曲が多くあり、クラシカル・サクソフォンの領域への貢献は計り知れない。国内外の著名オーケストラと多数共演。ウィーンのムジークフェラインをはじめ30ヶ国以上で公演やマスタークラスを行なう。東京藝術大学卒業。第51回日本音楽コンクール、第1回日本管打楽器コンクール最高位受賞。02年NHK連続テレビ小説「さくら」テーマ曲演奏。最新CDは自身初の無伴奏作品となる「バッハ・シークェンス」(令和2年度文化庁芸術祭レコード部門優秀賞受賞)。そのほか数多くのCDを録音して世界に発信。東京佼成ウインドオーケストラ・コンサートマスター(89〜10年)、ヤマハ吹奏楽団常任指揮者(07〜20年)を歴任。マリナート・ウインズ、長野市芸術館、イイヅカブラスフェスティバル、東広島くららホールにて参加型吹奏楽のプロデュースを行ない地域と結びついた音楽体験を推進。東京藝大招聘教授、京都市立芸大客員教授。トルヴェール・クヮルテットのメンバー。
[使用楽器]ヤマハYAS-875EXG / ヤマハ YSS-875EXG
(2025.11)






