トランペット記事 「Luis Valleシリーズ」製作秘話
  トランペット記事 「Luis Valleシリーズ」製作秘話
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Brass Lab.MOMO Tp マウスピース

「Luis Valleシリーズ」製作秘話

GEAR

日本で活動するキューバ出身のトランペット奏者、ルイス・バジェが愛用するマウスピースがBrass Lab.MOMOのシグネイチャーシリーズ、“Luis Valle1”と“Luis Valle2”だ。ヤマハ退職後に個人工房を立ち上げた職人、河村百丈氏の一番弟子として工房を引き継いだ、中井浩貴氏によるバジェシリーズのマウスピースは、本誌のマウスピース試奏記事でも複数の奏者から高評価を受けてきた。この度、ルイス氏と中井氏の特別対談が実現。ルイス氏と中井氏の出会いからシリーズ製作に至るまでの過程、そしてトランペットマウスピースへのこだわりとその奥深さを存分に語ってもらった。(文:渡部祐也)

ルイス・バジェ氏所有のBrass Lab.MOMO Luis Valleモデル
左端はコルネット用、左から3番目はショートシャンク。その他はリムのメッキ違い(24K、18kにコバルトや鉄などのマテリアル違いの配合金属)各種

抽象的なことばを拾って理想のマウスピースに

中井さんはどのような経緯でマウスピースの製作を始められたのでしょうか。
 
中井浩貴
(以下中井)
高校を卒業した翌日に、師匠である河村百丈さんに弟子入りしました。最初の一ヶ月はマウスピースの製作工程をずっと見せていただき、その後リムの整形やコピー技術、旋盤の使い方など教わりました。半年で形だけ作れるようになり、1年後には音響処理という技術を教えてもらい、2年目からは商品の作成に携わっていきました。普通科の高校に通っており、それまでは旋盤も何も触ったことがなく、まったくの0から技術を習得していきましたが、その分先入観がなかったので素直に全部受け入れることができたように思います。
 
河村さんの教えで特に印象に残っていることを教えてください。
中井
マウスピース製作をご希望される方が工房にいらっしゃった際の打ち合わせ、聞き取りの際に同席させていただいたのがとてもいい経験になったと思っています。お客様のご希望に対して、どうやったらアンサーを出せるのかという引き出しを増やすことができました。マウスピースはリムの形状、カップの容積、スロートサイズ、バックボアといった多くの要素のバランスで成り立っています。例えば大きい音を出したい時に、単純にカップの容積を大きくすればいいかといえばそうではない。一番唇が効率よく振動するサイズがそのお客様にとっての一番良いバランスになります。リムの形も様々なバリエーションがあり、耐久性やコントロール性に影響しますし、バックボアを調整することで音程バランスを整えることもできます。ここでは語り切れませんが、そのような無限のパターンを組み合わせることでお客様のご希望に答えていくわけです。そしてその平均値をとったものが既製品のマウスピースとなります。

コーヒーを2杯飲んでいる間に……

ルイスさんがBrass Lab.MOMOのマウスピースを使い始めることになったきっかけを教えてください。
ルイス・バジェ
(以下ルイス)
最初は京都のとあるお店でBrass Lab.MOMOのマウスピースを吹かせていただいたのがきっかけです。当時は別のメーカーの薄いリムのマウスピースを使用していたんです。薄いリムのマウスピースは唇の振動をロスなく楽器に伝えてくれるような感覚があったので、気に入っていました。その際試奏した13Aというマウスピースが、ちょうど同じような薄いリムのマウスピースで、吹いてみても感触がいい。すぐにそのお店の方にMOMOさんの工房を紹介していただきました。
中井
ちょうど13Aだけがリムが薄いモデルだったので、たまたまそのモデルがお店にあったのは縁だなと思います。
ルイス
それで工房に行って中井さんに使用していたマウスピースをお見せして、当時は河村さんが工房にまだいらっしゃったので、コーヒーを2杯ほど飲みながらお話ししていたら、1時間程度で「はい」とマウスピースが出てきてびっくりしました。
中井
もともと13Aは丸っこい、どんぐりのような形をしているラウンドリムのモデルでしたが、ルイスさんのお好みとシャープな音色のイメージに合わせて、フラットリムにしつつシェイプさせた形状にして製作させていただきました。コピー元のマウスピースからはバックボアを2段階に広がるような形状に変更し、スロートも若干変更しています。
ルイス
今使用しているものとほぼ同じマウスピースがコーヒー2杯の間に出てきたんですから、びっくりですよ!
中井
お客様の抽象的なイメージをできるだけ具体的にマウスピースに落とし込めるように努力しています。だからオーダーの際には設計値をすべて決めてきていただく必要はなくて、例えばこのリムが好きだけれど、このマウスピースの音が好き、というような形でオーダーしていただいたり、ちょっとこの音域がモコッとする、といったご感想をもとに製作、調整していくことができますよ。
マウスピースのオーダーというとハードルが高く感じてしまいますが、それなら気負わずにお願いできそうです。

吹きやすくバテづらいマウスピース

実際に完成したマウスピースを吹いて、いかがでしたか。
 
ルイス
数値上はスロートが少し狭くなったはずなのに、バックボアの広がりなどでバランスが取れているのかとても吹きやすく感じました。私に合っている絶妙なバランスだと思います。そして疲れにくくてバテづらいのが素晴らしいです。トランペットプレイヤーはみんな「長時間吹ける」マウスピースを求めているんじゃないのかな。
中井
スロートで作ったスピード感を損なわないように楽器に抜けるというコンセプトで製作していますが、同時にルイスさんの音はすごくワイドなサウンドなので、音質が決してタイトにならないバランスを目指しました。
 
ルイスさんのマウスピースは現在どのようなバリエーションがありますか。
中井
「ルイス1」と「ルイス2」というモデルがあります。後からできたルイス2は基本的なコンセプトはルイス1と同様ですが、もう少しメロウなサウンドを目指しています。カップが深くなっており、それに伴い若干スロートの長さも短くなっています。
ルイス
最近の新しいバージョンとしてショートシャンクのものも作ってもらいました。以前のものよりさらにモニタリングしやすくなったと感じます。ピッチは通常のマウスピースとまったく変わりません。今はビッグバンドのリードを吹く時などに使用しています。
中井
ショートシャンクはただ切っただけではなく、楽器とのギャップなどを計算して作り直しています。ショートシャンクにすることでコントロール性は上がりますが、長いマウスピースはより安定性が増すので短ければいいというわけでもありません。
ルイス
あと、ルイス1はメッキのバリエーションを複数作ってもらっています。銀メッキに金メッキ、金メッキの中でも18金でニッケルが混ざっているシャンパンゴールドや銅が混ざっているピンクゴールド、24金でもほんの微量ですがコバルトが含まれるコバルトゴールド、鉄が含まれるフェリックゴールドがあります。シャンパンゴールドは少し硬くて太い音になるなど、表面の仕上げでもまた吹奏感が違います。
中井
インナーゴールド仕上げもできますし、サテンでもサンドブラストとヘアライン仕上げで違いが出ます。ここも無限に変化をつけられるポイントですね。ホームページでは公開していませんが、ルイスさん仕様のコルネット、フリューゲルホルンの各マウスピースもございます。コルネットは少し浅め、フリューゲルホルンはかなり深いカップのマウスピースですが、リム形状はすべてのルイスシリーズで共通です。

デメリットのないマウスピース

Brass Lab.MOMOさんはどのような理想を目指してマウスピースを製作されていますか。
中井
吹きやすくてダイナミクスレンジを表現できる。響きの芯があるけれども、遠鳴りする。そしてどの楽器でも同じように効果を出せる。そんなプレイヤーにとってデメリットのないマウスピースというのが河村さんの頃からのMOMOのマウスピースのコンセプトです。その実現のために、音響処理を行なっています。方法は社外秘なのですが、河村さんがこのメソッドを思いついた際のエピソードを聞いています。河村さんがドイツやオーストリアで働かれていた際に、日本で街を歩いている時と足音が違うと感じたそうです。日本は木造建築なのに対し、向こうの家は石造り。そして湿度も違います。そのために反響が違ってくるのですが、そのことについて考えている時にふと音響処理のメソッドが閃いたそうです。
ルイス
このような素晴らしい職人が日本にいるということが素晴らしいです。もっとBrass Lab.MOMOさんのマウスピースは世界にも広がってほしいと思っています。
中井
昨年はポルトガルやスペインに行きましたし、今年も海外へ行く予定があります。よりよいものを製作しながら世界中の奏者へ届けられるようにしていきたいですね。
 
 

Profile ルイス・バジェ Luis Valle
1972年キューバ・ハバナ市生まれ。5人の兄弟全てがミュージシャン。キューバ屈指の名門校・国立アマデオロルダン高等音楽院トランペット科を卒業。93年、三男のユムリ(Vo)をリーダーとして、兄弟4人で『ユムリ・イ・スス・エルマーノス』を結成。94年、初来日。97年に活動の拠点を日本に移し、リーダーバンド「ルイス・バジェ&アフロキューバミーゴス!」(Afro-Qbamigos!)を結成。来日以降、華やかなトランペットの音色は、CM界でひっぱりだこで、既に楽曲は1,000曲を超え、「ルイスのラッパをテレビから聴かない日はない」とも言われている。
ルイス・バジェのホームページはこちらから
https://luis-valle.com/

【使用楽器】
トランペット:NAKAJIMA TRUMPET
コルネット:NAKAJIMA ロングタイプ

 




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