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vol.46「真摯に取り組むことが自分の世界を広げる」

THE SAX vol.68(2014年11月25日発刊)より転載

最近のスガワ

読者の皆さん、こんにちは! 早いもので今年最後の「Shall We SAX!」になります。2014年はデビュー30周年ということで、いつもよりも多くの特別な公演を行ないました。どの公演でもたくさんのお客様から温かい拍手をいただき本当に幸せでしたが、正直大変な一年でもありました。特に、9月末から10月中旬までは、トルヴェール・クヮルテットの新しいCDを発売し、日本各地でコンサートや音楽教室を行なうツアー中に、後に控える世界的ピアニスト・作曲家であるファジル・サイさんとの共演コンサートの準備をするという、苦しくも楽しい充実した時期でした。

 

 

真摯に取り組むことが自分の世界を広げる

おかげさまでトルヴェールの新しいCD「With You」は各所で好評をいただいています。僕たちのテーマである「個性と融合」を発揮した、そしてシリアスさと楽しさを融合したよう な内容で、来年で活動28年目を迎えますが、さらに充実した活動をしていこうと確認し合えるようなツアーにもなりました。

僕は、ツアーの間にファジル・サイさんの新曲の譜面を読まなくては(さらわなくては)ならないということもあったので、いつもゲネプロよりも1〜2時間早く会場入りして練習してからトルヴェールのコンサートに備える、という毎日を過ごしました。サイさんの新曲は譜面をもらった時からすばらしい作品だと感じてい たので、スケジュール的には大変タイトでしたが、練習をする期間もすごく楽しみました。

ファジル・サイさんを知ったのは、ガーシュインなどを中心としたアルバムを聴いたことでした。そのグルーヴ感たるや、クラシックの伝統的なものだけでなく、現代的なアプローチやリズムなどへの感性もするどく、聴くたびにワクワクしたものです。彼が積極的に作曲もしていると知って聴いたのが、代表作でもあるピアノ曲『ブラック・アース』。彼はトルコ人であり、その血を表すような少しオリエンタルな風情溢れる不思議な世界を持つ曲です。それを聴いてさらに感激し、東京でのコンサートを聴きに行きました。その時はラヴェル作曲のピアノコンチェルトを演奏されたのですが、テクニックはもちろんのこと、こちらに語りかけてくるような演奏にすごく感動したのを覚えています。長いトリルが続く部分など、本当に風が吹き抜けていくような風景がそこにありました。その直 後にお会いして、新曲を委嘱しました。その時彼は、作曲だけの依頼だと思ったようですが、 僕は「あなたの書いた曲を、あなた自身の演奏で世界初演したい」と頼み込み、それから2年も経たないうちに曲を書いていただき、共演が実現したことになります。

彼はあくまでソリストですから、誰かとアンサンブルをするという機会は少ないと思いましたので、コンサートの前半はソロ、後半は僕とデュオということで提案してOKをもらえまし た。デュオで、彼の新曲の他に何を演奏するか を決める際、彼がフランクのヴァイオリンソナタが大好きだという話を聞いていたので、その場で一緒に吹いてみたりしたのですが、サクソフォンでフランクを演奏するということにあまり関心を持ってくれず……。一旦他にいろいろと案を出し合って試してみた後にもう一度フランクを押してみたところ、やってみようということになりました。また、彼は以前クラリネット奏者のザビーネ・マイヤーさんとミヨーの『スカラムーシュ』を演奏したことがあるそうで、 僕もこれには賛成し、プログラムに加えました。

コンサートのためには2日間のリハーサルがあったのですが、僕は事前に彼のスコアからできるだけ多くの情報を引き出すため、かなり入念に譜読みをして、万全の態勢で初日に臨みました。曲は非常に変拍子が多く、彼自身も初めての合わせでは混乱すると思っていたようですが、こちらはサクソフォン奏者ですから変拍子には慣れています! 自分のパート譜にガイドを書きつつもしっっっかり(!)とリズムを読んでおいた甲斐あって最初の合わせから最後まで通すことができたので、彼は大変喜んでくれ、その辺りからすでにコンサート成功の予感がしてきました。その後フランクやミヨーの合わせも上手く進み、最終的には「サクソフォンとピアノでフランクをやるの、なかなかいいね!」とまで言ってくれました。

彼はヨーロッパを中心に活躍していますが、実際のところクラシック・サクソフォンというものをあまり知らなかったようです。ましてトルコにもクラシック・サクソフォン奏者は少ないということで、最初に曲を委嘱したとき、 「サックスでクラシック?」と、少々腰が重い様子だったわけです。やはり、彼の書いた作品をできる限り研究してリハーサルに臨み、作品に対する敬意とこのコンサートにかける意気込みを見せたことで、彼の心を大きく動かせたのか な?と思いました。

振り返ってみると僕は、新しい作品を演奏するとき、リハーサル前に必ず自分で研究しておくという姿勢を貫いてきました。音楽家は、国を超えて、人種が違ってもその音楽に対して心底取り組んでいれば言葉を超えたコミュニケーションができます。ギターのマーティン・テイラーさんとの初合わせでも暗譜する勢いで臨み、結果レコーディングまでこぎつけましたし、ジャズのロン・カーターさんや吉松隆さんをはじめとする素晴らしい音楽家とのコラボレーションに全力で取り組んだことで、結果的に自分の世界を広げていただけたのだと、改めて実感したのでした。

今回ファジル・サイさんに書いていただいた曲は、今後ショット社から楽譜も出版されます。これからクラシック・サクソフォンのレパートリーとしてたくさんの方に吹いていただけるような、魅力的な作品です。次回は、この曲について詳しく紹介させていただきたいと思います。

 

次回のテーマは「サクソフォーンの新しいレパートリー、誕生!」。
世界的ピアニストの作曲した新曲を紹介します。お楽しみに!

※このコーナーは、「THE SAX」誌で2007年から2015年にかけて連載していた内容を再編集したものです

 

須川展也 Sugawa Nobuya

須川展也
日本が世界に誇るサクソフォン奏者。東京藝術大学卒業。サクソフォンを故・大室勇一氏に師事。第51回日本音楽コンクール管楽器部門、第1回日本管打楽器コンクールのいずれも最高位に輝く。出光音楽賞、村松賞受賞。
デビュー以来、名だたる作曲家への委嘱も積極的に行っており、須川によって委嘱&初演された多くの作品が楽譜としても出版され、20-21世紀のクラシカル・サクソフォンの新たな主要レパートリーとして国際的に広まっている。特に吉松隆の「ファジイバード・ソナタ」は、須川が海外で「ミスター・ファジイバード」と称される程に彼の名を国際的に高め、その演奏スタイルと共に国際的に世界のサクソフォン奏者たちの注目を集めている。
国内外のレーベルから約30枚に及ぶCDをリリース。最新CDは2016年発売の「マスターピーシーズ」(ヤマハミュージックコミュニケーションズ)。また、2014年には著書「サクソフォーンは歌う!」(時事通信社)を刊行。
NHK交響楽団をはじめ日本のほとんどのオーケストラと共演を重ねており、海外ではBBCフィル、フィルハーモニア管、ヴュルテンベルク・フィル、スロヴァキア・フィル、イーストマン・ウインド・アンサンブル、パリギャルド・レピュブリケーヌ吹奏楽団など多数の楽団と共演している。
1989-2010年まで東京佼成ウインドオーケストラ・コンサートマスターを22年余り務めた。96年浜松ゆかりの芸術家顕彰を表彰されるほか、09年より「浜松市やらまいか大使」に就任。2016年度静岡県文化奨励賞受賞。
サクソフォン四重奏団トルヴェール・クヮルテットのメンバー。ヤマハ吹奏楽団常任指揮者、イイヅカ☆ブラスフェスティバル・ミュージックディレクター、静岡市清水文化会館マリナート音楽アドバイザー&マリナート・ウインズ音楽監督、東京藝術大学招聘教授、京都市立芸術大学客員教授。
 
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