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vol.45「良い音楽はコミュニケーション次第」

THE SAX vol.67(2014年9月25日発刊)より転載

最近のスガワ

読者の皆さん、こんにちは! 今年もあっという間に「実りの秋」がやって参りました。毎年のことながらこれからの時期、芸術の秋にちなんでか普段より多くのコンサートが開催されますので、皆さんもぜひいろいろと出かけてみてください。サックス以外のコンサートを聞いてみるのも、とても勉強になると思いますよ!
さて今回の話題に入りましょう。皆さんは、複数の人々でひとつの音楽をつくる時に一番大切なこととは何だと思いますか? 演奏のレベル? もちろんそれも大事ですが、それ以前に、人間が生きていく上で普段行なっていることが、音楽でもやはり大切なのです。

 

 

サックスセクションのための練習計画 上級編

プロフェッショナルなオーケストラや室内楽は、実は皆さんが思うほど練習の回数は多くありません。プロオーケストラが行なう2時間のコンサートに向けての練習も、だいたい4時間×3日間くらいが普通です。カルテットの場合で、目的がレコーディングであれば少し多めに練習日程を取ることもありますが、その限られた時間、回数の中で何をやるかと言えば、コミュニケーションをはかるための練習なんですね(もちろん事前にそれぞれ練習してあって、自分のパートが吹けているというのが大前提ですが)。本番に円滑なコミュニケーションができるよう、その能力を高めておく練習……というか「確認」です。「メンバーの誰かがここのフレーズをこう吹いたから、自分はこう応えよう」、「ここは楽譜に書いてあるテンポよりちょっと速めに吹きたい」「楽譜に書いてあることよりももっと強調したい」など、誰かが演奏でアピールしてきたらそれを受け取って応える。その中で、例えば音程が合わないとかリズムが揃わないような部分があればピックアップして少し繰り返し練習もしますが、相手を聞いていればおのずから解決の方向に向かっていきます。

やはり我々プロの人間にとって大事なのは、誰がどんな表情で、どんな気分で、どういうふうに今吹いているかをキャッチする耳を持っているかどうかなんです。長年やっているとその耳と感受性は鋭くなってきますから、同じグループで何回も演奏するうちに演奏はなめらかに流れていったり、そのグループ独特の雰囲気を作り出せるようになったりするんですね。

例えば練習の時、「彼は今日ちょっと調子が悪そうだな」と感じることがあります。そんな時はさらりと聞き流してあげてその人のモチベーションを高めるなどして周りで助けることも、プロの練習なんですね。

この一連の流れ、一般的な人間社会生活となんら変わらないと思いませんか? 学校や会社において、自分の立場、役割がありますね。その中で、今何をすべきか……先生の話を聞かなければいけない時なのか、自分が意見を述べなければならない時なのか、人の話を聞かなければいけない時か。それは授業や仕事中でなくても、休憩中であっても誰かと会話するには必要なことですよね。「最近上手くいかないんだよね~」「そうなの、どうした? 頑張ろうよ」なんて、愚痴を聞いて励ましてあげることも必要かもしれません。それと演奏は、まったく同じじゃないかなと思います。

アンサンブルでも大きな編成になれば人間社会と同じような状態になります。普段の生活の中で思うようにならないことや悲しい思い、悔しい思いをした時、どうしたら軌道修正できるかを考えて解決方法を見つけることも、合奏の中に生きてくると僕は思います。いつも「俺が俺が、目立つんだ!」とみんながみんな主張し合って相手の言うことを聞かないと、きっとギスギスした演奏になってしまうし、それは絶対に聞き手に伝わり、感動を与える演奏からはほど遠いものになってしまうでしょう。

せっかく音楽をやっているんですから、アンサンブルをやる機会があったら普段の生活で誰もが実践しているコミュニケーションの円滑化を思い描いてみると、もしかしたら一歩先の演奏ができるかもしれません。

僕もいろんなアーティストと一緒に演奏する機会があります。日本人アーティストはもちろん、海外オーケストラと共演したり、外国人ピアニストやギタリストとデュオをすることもあります。僕は英語が流暢に話せるわけではありませんが、言葉よりも、人間の“思いやり”や“思い”が通じた時に良い演奏ができるということを実感しています。そんな中で今僕がとてもワクワクしているのが、世界のトップを走り続けるピアニスト・作曲家のファジル・サイさんとの共演です。彼はピアノの魔術師と呼ばれ、多彩な音楽を自由自在に弾いてしまう超一流のアーティストです。僕は彼と共演できる機会に恵まれ、どういったコミュニケーションができるかワクワク、ドキドキ、ハラハラ……。超一流の音楽的アプローチを僕がきちんと受け取り、それを返していかなければ会話が成り立たず、偏った音楽になってしまいますからね! さらに今回は、サクソフォーンとピアノの曲を作曲してもらい、作曲者自らのピアノと共に初演するという機会にもなります。全力でコミュニケーションをはかり、いい音楽を作れるようにがんばります!。

 

次回のテーマは「真摯に取り組むことが自分の世界を広げる」。
どうして世界的ピアニスト、ファジル・サイの心を動かすことができたのか?その秘密に迫ります。お楽しみに!

※このコーナーは、「THE SAX」誌で2007年から2015年にかけて連載していた内容を再編集したものです

 

須川展也 Sugawa Nobuya

須川展也
日本が世界に誇るサクソフォン奏者。東京藝術大学卒業。サクソフォンを故・大室勇一氏に師事。第51回日本音楽コンクール管楽器部門、第1回日本管打楽器コンクールのいずれも最高位に輝く。出光音楽賞、村松賞受賞。
デビュー以来、名だたる作曲家への委嘱も積極的に行っており、須川によって委嘱&初演された多くの作品が楽譜としても出版され、20-21世紀のクラシカル・サクソフォンの新たな主要レパートリーとして国際的に広まっている。特に吉松隆の「ファジイバード・ソナタ」は、須川が海外で「ミスター・ファジイバード」と称される程に彼の名を国際的に高め、その演奏スタイルと共に国際的に世界のサクソフォン奏者たちの注目を集めている。
国内外のレーベルから約30枚に及ぶCDをリリース。最新CDは2016年発売の「マスターピーシーズ」(ヤマハミュージックコミュニケーションズ)。また、2014年には著書「サクソフォーンは歌う!」(時事通信社)を刊行。
NHK交響楽団をはじめ日本のほとんどのオーケストラと共演を重ねており、海外ではBBCフィル、フィルハーモニア管、ヴュルテンベルク・フィル、スロヴァキア・フィル、イーストマン・ウインド・アンサンブル、パリギャルド・レピュブリケーヌ吹奏楽団など多数の楽団と共演している。
1989-2010年まで東京佼成ウインドオーケストラ・コンサートマスターを22年余り務めた。96年浜松ゆかりの芸術家顕彰を表彰されるほか、09年より「浜松市やらまいか大使」に就任。2016年度静岡県文化奨励賞受賞。
サクソフォン四重奏団トルヴェール・クヮルテットのメンバー。ヤマハ吹奏楽団常任指揮者、イイヅカ☆ブラスフェスティバル・ミュージックディレクター、静岡市清水文化会館マリナート音楽アドバイザー&マリナート・ウインズ音楽監督、東京藝術大学招聘教授、京都市立芸術大学客員教授。
 
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