前回は映画におけるヒロイン分析として、アメリカ映画におけるジェンダー、フェミニズムについて触れた。
女性の在り方が、時を経てどう変わっていくのか、映画とともに追うのは本当に意義深い。
かくして、ヒロイン変貌と同時に黒人、ユダヤ人差別を延々と描き続けたハリウッド映画界で、あのウクライナ系ユダヤ人のスピルバーグ監督が、「E.T.」(1982年・米)から「ジュラシックパーク」(1990年・米)などの娯楽大作を経て、ついに「シンドラーのリスト」(1993年・米)で、ユダヤ迫害をテーマに斬りこんだのは、しかるべきタイミングだったのだろう。
私にとって初めてのカンヌ映画祭で、難解な作品ばかりが出品される中、招待作のスピルバーグ監督作「E.T.」だけは楽しめた、忘れがたい思い出。
以来彼はメジャー娯楽大作を次々と経て、そのポップな表現力により、人種問題の代表作「シンドラーのリスト」を娯楽大作を超える人権映画として大ヒットさせたのだ。
重いテーマを難解にさせず、軽くもしない作品作りは、どんなジャンルでも大きな価値がある。
また、昔は西部劇のインディアンもタフな主人公たちを引き立てるための悪役で、娯楽として消費されてきたが、やがて、ネイティブアメリカンと呼びなおされ、パターン化したウエスタンスタイルを消滅させていった。
このジャンルでは、娼婦として登場する西部劇の女性も、早撃ちガンマンとして登場。
「クイック&デッド」(1995年・米)は、セクシーデビューしたシャロン・ストーンがりりしく登場し、悪女ではないやり方で、男性への愛のアプローチを行う“男性型ヒロイン”として描かれたのも衝撃だ。
映画的な評価だけの視点で観ると、本作は監督がサム・ライミだけにコメディテイストのB級アクション風になっており、ちょっと残念だが、設定としては時代の新しさを強調している重要な作品だと思う。
一方、私の好きなジャンルのマフィア映画も、マフィア賞賛に当たる可能性を危惧して、スタイリッシュな男たちが登場するマフィア映画も徐々に終焉を迎えた。イタリアの映画祭に出席したときは、シシリー島にまっさきに行き、じわりとひとり感慨深く思いをはせていたが、敬愛するロバート・デ・ニーロは、シシリー島にマフィアイメージを植え付けたひとりとして、地元からは、街に貢献する賞などは与えられないという話を聞いた。たぶん、ジョークだと思うが……。
ちなみに、わがデ・ニーロ映画のベスト・オブ・ベストは、セルジオ・レオーネ監督作「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ」(1984年・米)とマーティン・スコセッシ監督作「ニューヨーク・ニューヨーク」(1977年・米)、同じくスコセッシの「グッドフェローズ」(1990年・米)を挙げる。
マフィア全盛のあと、デ・ニーロのマフィア・キャラは、元マフィアである身分を隠して、客前でマフィア映画の解説をするオヤジ、娘のヤワい夫をプロ技で監視する元FBI捜査官のオヤジなど、コワモテを笑いに変える芸も素晴らしく、時代の流れを感じさせる。
デ・ニーロは、9.11の同時多発テロのあとにニューヨークの復活、救済のための映画祭を急遽開催したが、昨今は、トランプとの過激なやり取りで、政治的な発言も強く、話題になっている。
そんなデ・ニーロが、ニューヨークを舞台に街の支配をめぐり戦う伝説のマフィア、フランコ・コステロとヴィト・ジェノヴェーゼの役を演じる新作「アルトナイツ」(2025年、米。Amazonほかで配信中)に出演した。

なぜ、いま再び、マフィア?
監督は、マフィアテイスト薄めの「レイン・マン」バリー・レビンソン。
デ・ニーロが二役をやりたかったのか、適役に予定した(?)ジョー・ぺシが健康上の都合で降板せざるを得なかったのか?
かねてからジョー・ペシ大好きデ・ニーロが、二役の敵役のほうをジョー・ペシかと思わせるほど、ものまねトークがさく裂する。
これがやりたかったのか、とデ・ニーロファンを、うならせる楽しさだ。 大きなドンパチもなく、ニューヨークの街がどのように作られてきたのか、移民たちの友情と裏切りの物語を社会派テイストで見せるところが新しい。
映画は、時代ととも変化し、実にいろんな見方があり、個別の感想を語り合うのは自由だ。
しかし鑑賞後に、作品についてどうとらえたらいいのかわかりずらく、答えを監督から聞きたいと思う観客は少なくない。
長年取材を続けてきても、監督は映画で扱うテーマについて問いかけはしているが、答えはあなた自身が考えよ、と言う。
人生、社会のテーマをさまざまな角度から掘り下げ、問いかける映画の在り方は、娯楽以上の意味がある。
「アルトナイツ」(2025,米)
監督:バリー・レヴィンソン
脚本:ニコラス・ビレッジ
出演:ロバート・デ・ニーロ、コズモ・ジャービス、キャスリン・ナルドゥッチ 他
原題:The Alto Knights
©2025 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC. ALL RIGHTS RESERVED.
※Amazon Prime、U-NEXTなどで配信中

木村奈保子
作家、映画評論家、映像制作者、映画音楽コンサートプロデューサー
NAHOKバッグデザイナー、ヒーローインターナショナル株式会社代表取締役
www.kimuranahoko.com
木村奈保子さんがプロデュースする“NAHOK”は、欧州製特殊ファブリックによる「防水」「温度調整」「衝撃吸収」機能の楽器ケースで、世界第一線の演奏家から愛好家まで広く愛用されています。
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