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ハリウッドのリアルさはどこまで追求されるのか

木村奈保子の音のまにまに|第62号

ハリウッドスターが音楽家を演じるのは、さぞ、名誉でやりがいがあることなのだろう。
今年は、マエストロを競うように演じる男女アクターがいる。
まず、あのトップ女優、ケイト・ブランシェットが「TAR/タ―」でベルリンフィル初の女性指揮者を演じた。
完璧な演技力を発揮するブランシェットが、タクトを振る姿は完璧で、その演奏曲も映画と別にリリースされたほど。
物語としては、超エリートの天才女性指揮者が、個人的な性的趣味による演奏者のキャスティングをしたことからハラスメント事件を起こし、転落していく展開だ。
ステイタスを失っていくなか、ヒロインは、レナード・バーンスタインの教育用ビデオを見て初心に戻るシーンがある。

そしてタイミングよく、今年レナード・バーンスタインの映画もハリウッドスターにより作られた。
昨年、ケイト・ブランシェットと「ナイトメア・アリー」で共演した男優、ブラッドリー・クーパーが主演、監督、脚本作「マエストロ/その音楽と愛と」だ。

クーパーもまた、実際にタクトを振る。それもブランシェットと張り合うように、マーラーの『交響曲第2番』だ。
「アリー/スター誕生」でレディ・ガガと歌ったクーパーが、ちょっとくどいラブシーンを見せた後、今度は、歴史的な実在の人物とクラシックの題材を自ら選んだ。
鼻が大きいウクライナ系ユダヤ人のメイクが誇張されすぎていると話題になったが、そもそも本人の顔が似ている。
その上メイクを3~5時間もかけて、より似せている徹底ぶり。
もちろん、役者が演じる音楽家の物語は、愛と性のバックグラウンドは欠かせない。
バーンスタインは、妻も子どもも大切にしていたが、男性をも愛したバイセクシャルな面がフォーカスされている。
しかも、妻は夫バーンスタインのホモセクシャルな部分も知っての人生を受け入れている。

もう数十年前から、キャリアウーマンの間では、「いい男はみんな、ゲイ(ホモセクシャル)なのよ」と残念がるのが口癖になっていた。
「TAR/タ―」のブランシェットは架空のヒロインという設定だったが、例にもれず、ゲイ(レズビアン)で、権力により若い女性にセクハラをしたが、そこはオブラートに包んだミステリータッチで奥ゆかしい演出だ。
では、レナード・バーンスタインを演じるクーパーは、どうか?
なんでもやりたがる彼のエネルギーに圧倒される。
本人は育ちのいいエリート家系ながら、29歳でアル中、ヤク中から立ち上がった経験がある。

俳優の階段を登るブラッドリー・クーパーは、デ・ニーロに始まり、イーストウッドら大物俳優らに可愛がられながら、大物女優との共演も多く、人たらし。マッチョガイからアート系までキャラが多義にあふれている。
本作は、監督も兼ねているように、まさに貪欲な彼の一人舞台だ。
やってる感の、お粗末な芸を見せるわけにはいかない俳優たちのシビアさがハリウッド音楽映画の底力だ。
タクトをふるブランシェットとクーパー、どちらがリアルか、音楽的か?
ぜひ確かめてほしい。

 

MOVIE Information

『マエストロ/その音楽と愛と』
※Netflixで12/20~配信開始
[監督]ブラッドリー・クーパー
[出演]キャリー・マリガン/ブラッドリー・クーパー/マット・ボマー/マヤ・ホーク
[原題]Maestro/2023年製作/129分/PG12/アメリカ
[公式HP]https://www.cinema-lineup.com/maestro

 

N A H O K  Information

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