前回、この連載で取り上げた「落下の解剖学」(仏)は、第76回、カンヌ映画祭パルムドールを受賞。同時に、このとき男優賞を受賞したのが「PERFECT DAYS」(ヴィム・ベンダース監督/日・独合作)の主演、役所広司だ。
観た後、役所広司演じるHIRAYAMAの役を亡き高倉健が演じていたら、どういう映画になっていただろう、とふと思いをめぐらした。なにも語らずとも、存在するだけで、男の過去の背景が想像できる、わけありだが、ピュアでストイックな人物。
さらに、ロバート・デ・ニーロだったら……?
役所広司は、上記二人に比べて、よりさっぱり感があるけれど、やはり同じ方向の男らしさをむき出しにしない、ストイックな男の美学を持ち合わせている。
どんな女性にも奥ゆかしい配慮があり、謙虚な抑制心によって僧侶のような人間性を感じさせる。どんな役を演じても、だ。
昨今の性加害ニュースがあふれるなか、役所広司演じるHIRAYAMAのようなきれいな男はいないのか、とつくづく思うだろう。
「PERFECT DAYS」は、街のトイレ掃除を仕事にした、初老の一人住まいの男、HIRAYAMAの日常が描かれる。
本や布団がきちんと整えられた畳の部屋で、彼は毎日やるべきことをやり、日々の小さな楽しみを見つけている。
とりわけ、往復の車の中で聞くカセットテープの音楽を聴くとき、心が躍っている。
日々の生活のまにまに、選び出す曲を、まるで自分が演奏しているかのように、慈しんでいる。本作では、ルー・リードの曲名をそのまま映画のタイトルにしているが、そのほかオーティス・レディング、ニーナ・シモンズなど選曲も渋い。
さらに映画の中では、石川さゆりが日本語で“朝日のあたる家”をうたっている。
挿入曲のリストだけでも、シネマライブ“PERFECT LIFE”ができそうだ。
そして、はずせないのが、浮浪者か幻か、田中泯の踊りが秀逸だ。
https://s.awa.fm/playlist/5sgg3ivcrjbeppyttsuws3vqqu
さて、今月はどうしても見てほしい映画をもうひとつ。
リュック・ベッソン監督のバイオレンスアクション「DOG MAN」は、久しぶりに刺激的で熱く、怖く、めまぐるしく、えぐくて、やさしい、アーティスティックな感動作。
この物語を最高のエンタテイメントにしているのは、監督以上に主演俳優の力が大きい。 主演のケイレブ・ランドリー・ジョーンズは、狂気系名優でおなじみ、「ジョーカー」のホアキン・フェニックスを超える勢いで、狂気の絶頂期を迎えている。
ホアキン、40代(後半)でケイレブが30代というのに、いずれもフケ線というより、60歳くらいの感じがするときがあるのは、ひとえに芸に深みがあるからだといえよう。
トラウマを背負う男が、繊細なこころを傷つけられながらも爆発する、悲哀に満ちた顔、孤独な姿がそこにある。
主人公は、今でいう毒親の息子。壮絶な生い立ちで障害を持ちながら、懸命に自立を目指すも、犯罪に手を染める生活へ。
その方法が、唯一信頼できる犬たちのサポートによって、というわけだ。
動物をリスペクトしながら、こんなふうに扱う犯罪アクションがあっただろうか?
また、ケイレブが作品を通して、女装家であり、ひょんなことから歌うシーンまであり、その濃いテイストは圧巻というほかない。
本人はバンド活動もしているミュージシャンだが、尋常ではないパワーを放つ。
この歌のシーンだけでも観る価値がある。
ワイルドアクションと性的マイノリティー、そしてアートのコラボレーションが小気味よく、アクション+アートのトータルで満足できる作品ジャンルを発見できた思い。
ちなみに、カンヌではパルドール賞ならぬ、パルムドッグ賞だと……ギャグみたい賞ではもったいない。
もうひとつ、女装のミュージシャンといえば、どうしても音楽ファンにははずせない 音楽ドキュメントの最高傑作が「リトル・リチャード:アイ・アム・エヴリシング」。
“私はロックンロールの創始者よ、おだまり!”というお茶目な態度の中に、壮絶な人生が詰め込まれている。
真のロックンローラーが、ゲイなのか女装家なのか……それよりも、ビートルズもエルビスも、彼の前座に過ぎないというスターシンガーのドキュメント。
黒人が日の目を見るまでの道のりは長く、歴史は音で、その真実を語る。
『PERFECT DAYS』
公開中(2023年日本/124分)
監督:ビム・ベンダース
脚本:ビム・ベンダース、高崎卓馬
出演:役所広司、柄本時生、アオイヤマダ
配給:ビターズ・エンド
公式HP:https://www.perfectdays-movie.jp
『DOG MAN』
2024年3月8日(金)新宿バルト9 ほか全国ロードショー
脚本・監督:リュック・ベッソン
出演:ケイレブ・ランドリー・ジョーンズ、ジョージョー・T・ギッブス、クリストファー・デナム、クレーメンス・シック
2023年|フランス|カラー|シネマスコープ|5.1ch|114分|英語・スペイン語|PG12
日本語字幕:横井和子|原題:DOGMAN
配給:クロックワークス
公式HP:https://klockworx-v.com/dogman/
© Photo: Shanna Besson - 2023
–LBP – EuropaCorp – TF1 Films Production – All Rights Reserved.
『リトル・リチャード:アイ・アム・エヴリシング』
22024年3月1日(金)シネマート新宿ほか全国順次公開
製作・監督:リサ・コルテス(『プレシャス』製作総指揮)
出演:リトル・リチャード、ミック・ジャガー、トム・ジョーンズ、ナイル・ロジャーズ、ノーナ・ヘンドリックス、ビリー・ポーター、ジョン・ウォーターズ
2023年/アメリカ/101分/カラー/ビスタ/5.1ch/DCP/原題:LITTLE RICHARD:I AM EVERYTHING
字幕:堀上香/字幕監修:ピーター・バラカン
提供・配給:キングレコード little-richard.com
配給:キングレコード
© 2023 Cable News Network, Inc. A Warner Bros.
Discovery Company All Rights Reserved
公式HP:https:// little-richard.com
木村奈保子
作家、映画評論家、映像制作者、映画音楽コンサートプロデューサー
NAHOKバッグデザイナー、ヒーローインターナショナル株式会社代表取締役
www.kimuranahoko.com
木村奈保子さんがプロデュースする“NAHOK”は、欧州製特殊ファブリックによる「防水」「温度調整」「衝撃吸収」機能の楽器ケースで、世界第一線の演奏家から愛好家まで広く愛用されています。
Made in Japan / Fabric from Germany
問合せ&詳細はNAHOK公式サイトへ
[フルート]
2コンパートメント、フルートブリーフ
新色、黒/ダークレッド本革ネームが完成しました!
2コンパート ブリーフケース「Deniro/wf」は、ハードケースを収納する側とかばんとして使用する側を完全に仕切り、2つのコンパートメントで作られたNAHOKブリーフケースの決定版です。
まずカバン側には、日常の小物が仕分けして入れられます。ケース側には太い固定ベルトにより、フルートのハードケースがそれぞれ固定できる構成になっています。
フルートの場合、C管 or H管ハードケースとピッコロを並べて固定ベルトで留められます。
[クラリネット]
リュック式 ダブルケースガード「Gabriel 2/wf」
クラリネットWケースの新色、新タイプが登場!
ハンドルが、リュック時に邪魔にならない革巻きタイプになりました。また蓋側裏の内装が、小物ポケット付き仕様になったので、楽器に必要な小物やお財布などをわかりやすく収納できます。
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第58回:アーティストの時代への転換期
第59回:ホラークイーンとなった首を狩る美女は、どこから来たのか?
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