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移民の国、アメリカと映画の関係~アカデミー賞ノミネート作品から~

木村奈保子の音のまにまに|第88号

今年もアメリカアカデミー賞の話題がもう始まった。
昨年は、即物的な性的シーンばかりのシンデレラ物語失敗談「ANORA アノーラ」のような作品がアカデミー5部門とカンヌでもグランプリを受賞したため、理解に苦しんだが、これもアメリカ文化の中で見る異質の移民物語と考えれば意味があるのかもしれない。
「ANORA アノーラ」は、ロシア系ニューヨーク移民同志の貧富の差を男女関係で描いたが、今年の話題作「ワン・バトル・アフター・アナザー」は、舞台がカリフォルニア。
移民収容所からヒスパニック系移民を救出する極左グループが中心に活躍する物語。

レオナルド・ディカプリオはそのメンバーのひとりだが、過激なメンバーの女性からアプローチされて恋人関係になるところから始まる。
この恋人役のアフリカ系テヤナ・テイラー(歌手でMTV監督)が、見たこともない野生のアグレッシブなキャラで、性的アプローチも戦い方もスピード感あふれて圧倒させる。
すでにゴールデングローブ賞ほかで数々の助演女優賞を獲得しているが、アカデミー賞でもノミネーション入りだ。
子どもができても我慢できず、革命の道に走る激しい女のヒロイン像が際立つ一方で、やさしい子育て夫になるディカプリオという男女関係が新しい。

女が暴れるのには、理由(ワケ)がある。

本作は、移民問題を扱う社会派作品でありながら、映画的な遊び心と刺激的な演出に満ちているアクションものである。
問題性と娯楽性の両刀使いにより、多くの観客にアプローチした点がもっとも評価できるポイントだろう。
移民施設を守る空手のセンセイ役、ベニチオ・デル・トロが追跡される中、「手を挙げろ」と言われたリスキーな場面で、腰をゆらして踊っているさまも映画的で、役者として強烈なインパクトを残した。
まさに、「ジョーカー」(2019年・米)のホアキン・フェニックスに通じるところ。

一方、移民追跡をしながら、アフリカ系の過激ヒロインに性的執着するわ、KKK団体(白人至上主義団体 クー・クラックス・クラン)の出世にも執着するわ、の権力側にいるいやらしい指揮官をショーン・ペンが怪演。故シーモア・ホフマンを愛した、怪優の生かし方を知る監督、ポール・トーマス・アンダーソンが心理描写にもこだわり、極めて明るく社会を斬るアクション大作の傑作となった。
この作品は、ノミネーション数が、作品賞含む12部門13個となり、誰もが当然の評価ととらえている。

一方、それを上まわる16部門の「罪人たち」は、アカデミー賞史上最多のノミネーションとなり、私も驚いている。
B級ホラーファンでブルース音楽にコアな趣味を持つ私好みの作品だから、受賞候補は嬉しいのだが、アカデミー賞とはマジか?と聞き返したくなる衝撃の新ジャンルともいえる。

時代は変わった。

舞台は1930年のアメリカ南部。マフィア仕込みで成功した双子の罪人が、故郷の街に戻って禁断の音楽ホールを作ろうとする物語。
主人公の罪人二人は、ホールの呼び物に、ギターの上手い牧師の息子をスカウト。
この少年が、のちにバディ・ガイになるという設定で、エンディングクレジットには、昨今のバディ・ガイ本人も登場する。

ミュージシャンへのリスペクト感が素晴らしい。

時代背景とブルースにダンスホール……イカした音楽映画として展開すると思って油断して見ていたら、ガブリ、とやられるヴァンパイアものへ。
いやいや、それはない、と思う自分の頭がもう硬いのだと思い知らされるのは、なにせアカデミー賞史上最多候補だから。

「ブラックパンサー」シリーズで大成功を果たしたライアン・クーグラー監督と悪役を演じたマイケル・B・ジョーダンのコンビネーションで、本作のベースとなるジャンルは、ヴァンパイアとの戦いが展開するB級ホラーなのだ。
ダンスホールが盛況の中、周辺でうろつき、すきがあれば中に入ろうとする不気味な人々の正体とは……?
厳選された黒人コミュニティに、ヴァンパイアたちが忍び寄る恐怖は、まさに黒人にとって、吸血鬼=KKKの比喩なのだろうか。
やみくもに、吸血鬼に食われていく主人公と仲間たちのヴァンンパイア・ブルース。
吸血鬼は、勝手にドアを蹴破って襲ってくるわけではなく、招待されないと入れないという由緒あるヴァンンパイア・ルールも物語の中に生かされている。
ブルース&ホラーのジャンルが、今後確立されるとは思えないが、本作の斬新なテイストはクセが強すぎて、忘れがたい。

ともかく、本作のアカデミー賞は、メインの主演、監督、脚本から衣装、美術、編集、作曲賞まで24部門中、16個ものノミネーションだから、恐るべし。
そのなかに、日本映画「国宝」で唯一ノミネーションされたメイクアップ&ヘアスタイリング賞も入っているので、 はてさて、歌舞伎メイクは、ヴァンパイア・メイクをしのぐのか、はたまた、別のドウェイン・ジョンソンの特殊メイクを手掛けた日本人、カズ・ヒロが持っていくのか?

映画は賞を追うべきでは決してないと思っているのだが、観る人にとって、ひとつの目安となるようだ。

話を戻すと、アメリカ映画は、マイノリティの文化。
移民の国で成功した映画人、アーティストの多くは貧困や暴力などの劣悪な環境から抜け出して、苦難を乗り越え、啓蒙的な作品を創り出してきた。
大スターになったアーティストは、巨万の富を貧しい国の子どもたちを救うため、活動をしている話も珍しくない。
アメリカの映画人では、トランプ嫌いを堂々と口にする人が多いのもそんなところからだろう。

特に「ワン・バトル・アフター・アナザー」では、実際のカリフォルニア州南部で行なわれる移民の強制捜査が激化するなか、逃げたり、抗がったりする者たちの生々しい実態が描かれ、移民コミュニティのリアルな存在はアクション演出以上に緊迫感に満ちている。

犯罪歴がある悪質な移民も、善良で家庭的な移民も、茶色い肌のヒスパニックであれば、即、連行されるという恐怖の中で、人権はもはやないという日々の恐怖……。
デル・トロが、捜査官の前で腰を揺らして、踊りながら両手を挙げる逮捕の瞬間がアーティスティックで息を呑むシーンとなったのは、まさにこうした背景があったからこそ。

映画は社会を映す鏡。

こうした社会テーマを映画人たちが常に追い続けながら、アートに昇華している。

 

MOVIE Information

「ワン・バトル・アフター・アナザー」
(2025/162分/PG12/アメリカ)
原題:One Battle After Another
配給:ワーナー・ブラザース映画
監督:ポール・トーマス・アンダーソン
キャスト:レオナルド・ディカプリオ、ショーン・ペン、ベニチオ・デル・トロ、レジーナ・ホール 他
オフィシャルサイト:https://wwws.warnerbros.co.jp/onebattlemovie/

「罪人たち」
(2025年/137分/PG12/アメリカ)
原題:Sinners
配給:ワーナー・ブラザース映画
監督:ライアン・クーグラー
キャスト:マイケル・B・ジョーダン、ヘイリー・スタインフェルド、マイルズ・ケイトン、ジャック・オコンネル 他
オフィシャルサイト:https://warnerbros.co.jp/movies/detail.php?title_id=59698

 
木村奈保子

 

木村奈保子
作家、映画評論家、映像制作者、映画音楽コンサートプロデューサー
NAHOKバッグデザイナー、ヒーローインターナショナル株式会社代表取締役
www.kimuranahoko.com

 

 

N A H O K  Information

木村奈保子さんがプロデュースする“NAHOK”は、欧州製特殊ファブリックによる「防水」「温度調整」「衝撃吸収」機能の楽器ケースで、世界第一線の演奏家から愛好家まで広く愛用されています。
Made in Japan / Fabric from Germany
問合せ&詳細はNAHOK公式サイト

 

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アルトフルート、NAHOKのフルートケース(H管)が入り、衣装も入れられるガーメントとしても重宝します。

 

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