THE FLUTE vol.183

ミヤザワフルート 新シリーズ誕生!“CRESTA”× さかはし矢波 インタビュー

モイーズがこの楽器をもっていたら「ソノリテ」は書かなかった。それぐらい完成度の高い楽器。

ミヤザワフルートから、これまでのモデルから大きく変わる最上位シリーズ「CRESTA(クレスタ)」が誕生した。創業50周年から明けたミヤザワが、世界に打ち出した大きな一歩。一体何が変わったのだろうか? 本誌でもおなじみ、さかはし矢波氏がCRESTAを試奏。果たしてこの楽器が持つポテンシャルとは?!CRESTAの魅力に迫った。

フルートはまだまだ進化できる

今回CRESTAシリーズの中から9K、14K、プラチナ、銀製と6本試奏されましたが、いかがでしたか?
さかはし
私は試奏をするとき、改良点などの予備知識を先にもらわずに吹くようにしていますが、試奏してまず感じたのは、音の移り変わりがなめらかで、「段差」がなくなったこと。 例えば、フルートはC→C♯の連結はC♯が開放になるので音色が明るくなりすぎますし、D♯に移ると指をふさぐので音色が暗くなる傾向があります。CRESTAはその音色の変化を感じさせることはなく、音質を均一に吹くことができる。通常我々は、音によって音質が変わらないようテクニックでカバーして吹くのですが、CRESTAはそれをしなくても音質が均一で、とてもキレイなんです。Eもフルートの構造上でにくい音ですが、それも気にせず出すことができました。 音の連結や、特定の音に対するフルートにとってのウィークポイントを楽器のほうで減らしてくれるので、自分はやりたい音楽だけに専念することができると感じましたね。フルートはほぼ完成された楽器だと言われていますけど、今回の試奏で、まだまだフルートは進化できるのだと感じさせてくれましたね。
音質の特徴はいかがでしたか?
さかはし
響きが非常に増えたと感じました。私が使用している既存モデルの総14Kの響きが上下に広がっていくのに対して、CRESTAは響きが同心円状に広がっていくイメージ。そう、ドーナツが大きく広がっていくような感じですね。もちろん普段私が使っているモデルでもテクニックを使って同心円状になるように響かせるわけですが、CRESTAの場合は「テクニックを使わなくてもできる」というのが大きな特徴ですね。

美しさも楽器

この楽器は様々な点が改良されていますね。
さかはし
中でもGisレバーの操作性については10年以上改良を求め続けていたんです。Gisレバーを使った時に、聴いているお客さんには聴こえないけれど、このレバーの反動音が奏者には聴こえてしまうんですよ。これは意識するしないはあるにせよ、フルート奏者なら誰しも感じることで、僕にとっては長年のストレスでした。 でもこの反動をなくすにはレバーの軽量化が必要で、削ったりレバーそのものを小さくする、というようなことが考えられますが、そうすると見た目がカッコ悪くなりますよね。もちろん強度も弱くなるので、置き方が悪いと曲がってしまう危険性もある。でもCRESTAのGisレバーは、エレガントな見た目でありながら、軽量化に成功していて反動がなくなった。それを技術者の方に指摘すると「美しさも楽器だ」と。 素晴らしい言葉ですよね。ただ結果が出れば良いじゃなく、「美しさ」にもちゃんとこだわる。小さいことだけど、ここに職人の姿勢が一番隠されてると感じましたね。
Gisレバーはプロフェッショナルならではの悩みですが、初心者の人が吹いても確実に良い反応が得られますね。
さかはし
ミヤザワのCRESTAを最初から使ってる人にはわからない悩みですね。そして他の楽器を試した時、初めて知る。「あれ?なんか変だぞ?」って(笑)。

完成度の高いCRESTA

9K、14K、プラチナ、銀製と試奏されましたが、それぞれの音の特徴をお願いします。
さかはし
9Kは金の中では重量も軽く鳴らしやいです。14Kは、私が14Kを吹いていることもありますが非常に吹きやすかったです。でも今回一番驚いたのはプラチナ。 今までのプラチナのイメージは「暗めの音色」だったのですが、今回試奏してみて、明るい音を出せるとすぐに気づきました。プラチナのイメージがまるっきり覆されましたね。CRESTAはどの材質でも楽器の良さが増していますが、プラチナの変化が一番大きいと思います。
銀についてはいかがですか?
さかはし
なめらかな音の移動、音質の均一、音量アップはもちろん銀でも生かされています。金やプラチナと比べて軽いので鳴らしやすいですね。材質に関しては、吹かれる方の体力や好み、予算によってチョイスしていいと思います。
これまでのモデルと比べて、吹奏感はどうでしょうか?
さかはし
吹き方はこれまでのモデルと変えていないのに、空気が入りやすいですね。ということは“音量を稼ぐことが容易”ということです。ダイナミクスレンジの幅が大きければ大きいほど、フルート奏者は聴衆に、より自分の表現を伝えることができます。そういう意味でもこの楽器には大きく助けられるでしょうね。 これまでのモデルと比べても息の効率が大きく向上していると思います。仮に、吐いた息の50%が管体に入っていると仮定すると、CRESTAは53%ぐらい入る感じがする。たった3%と思うかもしれませんが、これは大きな差で、空気がより入っていくのが体感できるので、それだけストレスも軽減されます。その分、奏者が「音楽」に集中できる環境を与えてくれる。 この楽器は頭部管の設計や、スケールの変更、トーンホールの開きなど様々な改良がされているようですが、どれか一つでも欠けていたらこのような結果は生まれなかったと思います。これまでのモデルとはまったく違う「新しいフルート」と思ってもらった方がいいですね。正直、私もこの楽器に替えたい(笑)。
お話を聞く限り、CRESTAにマイナス要素が見当たりませんね。
さかはし
本当にないんですよ。私は試奏をする際、良くない所や改良すべき点を見つけて伝えることが、ある種の役割だと思っているんですが、今回は悔しいけど見つからなかった(笑)。 少しおこがましい話をしますね。マルセル・モイーズの書いた「ソノリテについて」というエチュードがありますよね。これは連結された音質や音量を是正するためのエチュードなのですが、モイーズがCRESTAシリーズの楽器を持っていたらこのエチュードは書かなかったんじゃないかと思います。それぐらい完成度の高い楽器です。 すべてを改良したからこそ生まれたフルートで、技術者の賜物だと思います。
 
 
 
 
CRESTAのココがポイント!
“CRESTA”は、「象徴・最高峰・家紋」などの意味を持つスペイン語。ミヤザワにとって創業以来最高峰のフルートを完成したことによって名付けられた。そんなCRESTAの要チェックポイントを紹介しよう!



その1 新設計の頭部管

CS-1Aという新しい頭部管を採用。歌口のアンダーカットはもちろん、その形状や材質も変更している。それにより高音域の響きの充実と、どんなに息を吹き込んでもそれに応えるキャパの大きさが特徴だ。


その2 スケール/ソルダードトーンホールアンダーカット加工

CRESTA最大の特徴は、新しいスケール(トーンホール間の間隔)を採用しているところだろう。またソルダードトーンホールにアンダーカット加工を施している。これにより、「跳躍時の音程改善(低→高、高→低)」、「D・D♯、Eの音程の改善」、「ピアニッシモでも抜けの良い音の実現」というフルートの構造上の欠点を改善している。


その3 新設計の裏G♯レバー・キィカップ

新設計のレバーとカップ動作を見直し、Gisレバーの反動を軽減。フルートにおける操作性を大幅に向上させた。


その4 トーンホールの開きを10%程度改善

これまでのモデルより、鳴りや音程に影響なく「キィとトーンホールの開き」を10%程度閉口させることに成功しているという。数値にしてわずかな差だが、開きが狭いということはその分アクションも早く、ロスも少ない。


その5 付属品にもこだわりが!

ケースカバーが本革という高級仕様! だけでなく、ファスナーの可動域を広くしてあるため、ケースカバーからフルートケースを取り出さず、机に置いたままフルートの出し入れができる親切設計!
CRESTAをもっと知りたい!

CRESTAの特徴詳細は本誌最新号に掲載! またCRESTAのスペック詳細やタイプごとの材質の違いはミヤザワフルートの公式サイトをチェックしよう!

ミヤザワフルート公式YOUTUBEチャンネルにて、CRESTAの試奏動画公開中!
 

さかはし矢波

3歳から母の手ほどきによりピアノ始め、12歳からフルートを始める。中学・高校時代に栃木県芸術祭において、フルート独奏で最優秀賞を受賞。また、中学時代に栃木県学生作曲コンクールにおいて最優秀賞を受賞する。 フルート奏者として、在学中にドップラー記念コンクール本選に入選、またNHK新人オーディションに1位合格。ジュリアス・ベーカーマスタークラスコンクール(アメリカ)において4位入賞。日本国内はもとより海外(アメリカ、オーストラリア、中国、フィンランド、フランス、インド、ヨルダン、大韓民国、モルジブ、ネパール、スリランカ、台湾)にてリサイタル、オーケストラとの共演、音楽大学等でマスタークラスを行う。 これまでに、石丸寛、井﨑正浩、現田茂夫、山本直純、山下一史、山路譲、フォルカー・レニッケ、各指揮者と共演。ポピュラーミュージシャンとしても、浅倉大介、上田力、菅野邦彦、アリソン・ブラウン、ヤドランカ、各氏と共演、ジャンルを越え演奏の場を拡げている。 さらにこれまでに、F・ドップラー作品を収録したCD等、計6枚をリリース。活動は演奏だけにとどまらず、フルート専門誌などにドップラーの研究内容を発表。作曲家ドップラーの研究を続けている。 音楽誌「ザ・フル-ト」(アルソ出版)に、エッセイ“ステージで朝食を、オーケストラピットの仲間たち”、 “さかはし矢波のつれづれ放送局”(現在連載中)、音楽誌「バンドジャーナル」(音楽の友社)に、ワンポイントレッスン等を連載。2012年3月に、エッセイ本を出版する。 またテレビ・ラジオのパーソナリティーとして数々の番組に出演。音楽番組「風のシンフォニー」(エフエム栃木)、音楽番組「さかはし矢波の楽しっくクラシック」、「さかはし矢波の三つ星クラシック」(CRT栃木放送・現在放送中)他、多数のDJ等を担当する。 指揮者として、これまでに日本国内の数々の交響楽団・吹奏楽団を指揮、市民楽団を率いて、中国・アメリカ・台湾にて演奏旅行を行う。また、海外においても(アメリカ・台湾)学生オーケストラの指揮・指導を行っている。 2009年、エバンズビルフィルハーモニー交響楽団(アメリカ)の定期演奏会(2009/2010シーズン)に客演指揮者として共演、指揮者として国際デビュー。これまでに、東京室内合奏団、東京ニューシティ管弦楽団、東京フィルハーモニー交響楽団、JICA東京SDGs吹奏楽団、クレッシェンドインターナショナルオーケストラ(ネパール)、レバノン国立交響楽団(レバノン)、桃園交響管楽団(台湾)を指揮、叙情的かつ情熱的な指揮と、一人二役(指揮しながらフルート演奏)のステージは、多くのファンを魅了している。また音楽コンクール及び吹奏楽コンクール、アンサンブルコンテストの地区、県、ブロック、全国大会の審査員を歴任。 現在、東京フィルハーモニー交響楽団、ラ・テンペスタ室内管弦楽団(フィンランド)フルート奏者、聖徳基督学院音楽科客員教授(台湾)、JICA東京国際協力サポーター及び栃木市文化大使。 桐朋学園大学音楽学部フルート科、同研究科卒業。これまでに、フルートを峰岸壮一、ジュリアス・ベーカー、室内楽を森正、江藤俊哉、指揮法を山本七雄の各氏に師事。



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