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close up 柴田俊幸 演奏家は垣根を越えて、常に走る

THE FLUTE vol.170 ONLINE版

ベルギーを拠点にしながら日本でも活動の幅を広げる、柴田俊幸さん。前回本誌に登場したのは、「たかまつ国際古楽祭」を立ち上げて2年目。「古楽で故郷に恩返しがしたい」と語り、出身地の香川県高松市に世界の古楽奏者たちを招聘した。古楽祭が3年目を迎えた今年も盛況のうちに幕を閉じたことに水を向けると、少々意外な答えが……。(取材協力: 管楽器専門店ダク)

予想外の展開に..

2月に行なったリサイタルにて (名古屋・宗次ホール)
柴田
「たかまつ」は今まで兼任していた実行委員長を人に任せて、芸術監督だけに集中することにしました。僕なしでも運営できるようにしていきたいと思っていて、そのためには運営における責任を分散しなければならないと思ったからです。というのも、ちょうど昨年の古楽祭の準備時期に、僕がビザの関係でベルギーから帰って来られなくなったことがありまして、そのときに運営が全部止まってしまったんです。自分一人でやっていたら、また同じことが起こってしまうなと思って、浜松市楽器博物館の前館長だった嶋和彦さんや香川の音楽プロデューサーさん達にアドバイスをいただきながら、新しいチームをつくっています。
 
――
自治体の協力を受けられるようにしたり、何より毎年たくさんの人が集まっていますね。わずか3年で、そこまで大きなムーブメントを育て上げたというのは、稀有な才覚だと思います。
柴田
多くの人に喜んでいただいて、少しでも恩返しができたならば幸いです。ただ、いろいろな方から音楽イベントの立ち上げや立て直しや、そういった依頼をいただくことも多くなっていて……僕は演奏家として、縁が深い香川で何か役に立ちたいと思っています。しかしコンサルタント的なことはまったくわかりません。「頑張れば上手くいくかもしれません」くらいしか言えないし、そもそもいちフルーティストでしかないので、予想外の反応に驚いています。
――
柴田さんのエネルギーと人を引き込む力が成功を呼ぶのだろうな、ということはよくわかります。それに頼りたくなる気持ちも……。最近は「トラヴェルソ奏者」の肩書で呼ばれたり書かれたりすることも多いのだとか。
柴田
僕自身、まずフルート奏者で、そのうえでトラヴェルソ奏者でもあるつもりですが、「トラヴェルソ奏者」とだけ書かれていたりすることもあって。古楽はあくまで活動の中の一つで、垣根を越えた、モダンあり古楽ありの演奏家でいたい気持ちがブレたことはありません。21世紀は多様性の時代、それは音楽であっても同じであって欲しいです。

「バロックはロックだ!」

――
そんな柴田さんがこの9月凱旋ツアーを行なうそうですね。初来日のベルギー発の古楽オーケストラ「B’Rockオーケストラ」と共演する日本ツアーが予定されています。B’Rockオーケストラは「バロックはロックだ!」というテーマを掲げています。
柴田
なぜ「バロックはロックだ!」なのかというと、このキャッチフレーズは学問から出発し“答え探し”の色が強かった古楽へのアンチテーゼだからです。昔の音楽がどのような楽器でどういうふうに、どんなピッチとスタイルで演奏していたのか、そういう答えを探すための学問から始まった古楽。特にベルギーはそういうアカデミックな古楽にこだわる傾向が強いのですが、そもそも音楽解釈は時代とともに代わるものじゃないですか。学問としての古楽を理解した上で、その先にある音楽そのものを楽しみたい!......僕の演奏に対する考えを代弁してくれているかのような素敵な名前ですね。
――
柴田さんのほか、リコーダーのルーシー・ホルシュさんがソリストとして共演するのですね。メンバーは、どんな方々なのでしょう?
柴田
B’Rockのメンバーたちは、普段はそれぞれフリーランスとして活動しています。古楽を学び、精通している奏者たちです。ルーシーは今は19歳ですが、名門DECCAレーベルからアルバムを出してもいる実力派。そんなメンバーたちとともに、確固とした古楽の土台にロックの精神をもって新しい風を吹き込む――と、言葉で伝えるのはなかなか難しいですね。コンサートに足を運んでいただければ、必ず楽しめると思います。東京公演はおかげさまで完売になりました!西日本のほうは香川、あと長久手市での公演がありますので是非お越しください。
2月に行なったリサイタルにて (名古屋・宗次ホール)
2月に行なったリサイタルにて (名古屋・宗次ホール)
――
日本では、古楽はいま静かなブームが続いている感じがします。フルート奏者でトラヴェルソも吹く人たちがずいぶん増えましたし、アマチュア奏者でもトラヴェルソに興味を持っている古楽ファンを、よく見聞きするようになりました。
柴田
一つには、国内外で勉強されている方々が多くなり、国際的なコンクールなどでも日本人受賞者が増え、そういった若き世代が日本での古楽の普及に貢献していることも大きいと思います。今や東京で行なわれる古楽のコンサートの数は、ヨーロッパの主要都市並みとも言われているそうです。日本でもこの時代になってやっと、古楽が当たり前に存在するようになったんじゃないかな、と思います。一昔前まで、古楽とかトラヴェルソというのはちょっと特別なもので、普通に演奏したり練習したりすることは少なかったですよね。まさにこの流れが、垣根がなくなる第一歩になってくれたらいいな、と僕は思っています。
 

“生きる見本”から学んだこと

――
柴田さんは、前号のインタビューに登場したトラヴェルソ奏者のパトリック・ビュークルスさんに、ベルギーでトラヴェルソを師事したのだそうですね。
柴田
はい。トラヴェルソにおいては、最初で最後の“師”でしょうね。
――
レッスンを申し入れた時に、一度拒まれたとか?
柴田
そうなんですよ。名門コレギウム・ヴォカーレの長年の首席奏者として活動しているせいか、気難しい人という噂でした。電話では「生徒をとらない主義だ」と言われて......でも結局、僕の情熱を理解してもらえたのかわかりませんが、受け入れてもらえることになりました。彼は本当にドラマティックかつユニークな人で、レッスンから学ぶこと以上に、人間としてのインパクトをいろいろ与えてくれましたね。横で見ていて学ぶことがとても多くて、師というよりは“生きる見本”みたいな感じでした。
――
型に嵌まらない人なのだそうですが、どんなことをどんなふうに教わったのですか?
柴田
レッスンに行ったら、一緒にジグソーパズルをやろうと言われて、やっているうちに「あ、もうこんな時間か。じゃあ今日はワイン一本開けて終わり」となったことが何度かありました(笑)。まあそれはともかくとして、彼から最も深く学んだことは、「不完全でいいんだ」ということ。僕は自分自身、不完全なところがあまりに多くてそれがコンプレックスになるくらいなんですが、彼は「不完全だからむしろ、人間らしい魅力的な音楽ができる」ことを見せて、聴かせてくれた。そういうことを教えられる人って、なかなかいませんよ。
――
“不完全”というワードは、柴田さんの経歴からしたら、多くの人にとってちょっと意外かもしれませんが……。取材のたびに、もう前回とは別のことに向かって走り出しているという印象の柴田さんの今後の動きにも、注目していきたいと思います。本日はありがとうございました。

  

プロフィール
柴田俊幸 Toshiyuki Shibata
香川県立高松高校卒業。大阪大学外国語学部入学後、音楽の道を志し中退し渡米。ニューヨーク州立大学を卒業後、シドニー大学大学院音楽学部に奨学生として一時渡豪。その後ベルギーのブリュッセル、アントワープ、ゲントの各王立音楽院にて学ぶ。これまでにブリュッセル・フィルハーモニック、ベルギー室内管弦楽団、ラ・プティット・バンド、ヴォックス・ルミニス、イル・フォンダメント、ル・コンセール・ローランなどトラヴェルソから多鍵式フルートまたベーム式フルートまで楽器を問わず幅広く活動する。現在、演奏活動のほかアントワープの王立音楽院、フランダース音楽研究所の研究員として、時代考証演奏法の研究や18-19世紀のフランダースの作品の発掘、楽譜の校正や編集を行なう。2014年度ベルギー・フランダース政府奨学金受給者。全米フルート協会国際連絡委員理事を2014-17年まで務めた。たかまつ国際古楽祭芸術監督。


Information

室内楽コンサート
浜松市楽器博物館 アフタヌーン・サロンコンサート
7/25 (木) 14:00開演
[会場]浜松市楽器博物館(静岡県)
[料金]大学生以上¥800/高校生¥400/中学生以下、70歳以上、障害者無料(全席自由)
[演目]J.S. バッハ「音楽の捧げ物」よりトリオ・ソナタ、その他
[出演]戸田薫、高橋弘治、戸崎廣乃、柴田俊幸
[問合せ]長久手市文化の家 TEL.0561-61-3411

長久手市、ベルギーナイト!「でら!古楽」
7/27 (土) 16:00開演
[会場]長久手市文化の家 森のホール(愛知県)
[料金]一般¥1,000/学生¥500(全席自由)
[演目]J.S. バッハ「音楽の捧げ物」よりトリオ・ソナタ、その他
[出演]戸田薫、高橋弘治、戸崎廣乃、柴田俊幸
[問合せ]長久手市文化の家 TEL.0561-61-3411

バロックは楽しい!
古楽大国ベルギーで生まれ、躍進を続ける革新的オーケストラ
「B’Rock オーケストラ」2019年9月来日

9/9(月) 19:00開演
[会場]レクザムホール(香川県県民ホール)
[料金]全席指定 一般¥4,800/学生¥1,000
[問合せ]香川県民ホールサービスセンター TEL.087-823-5023

9/12 (木) 19:00開演
[会場]長久手市文化の家 森のホール(愛知県)
[料金]全席指定 一般¥3,000/学生¥2,500
[問合せ]長久手市文化の家 TEL.0561-61-3411

9/13 (金) 19:00開演 (完売)
[会場]武蔵野市民文化会館(東京都)
[料金]全席指定 一般¥6,700/友の会¥6,000 
[問合せ]武蔵野文化事業団 TEL. 0422-54-2011

【共演】
ルーシー・ホルシュ(リコーダー)、柴田俊幸(フラウト・トラヴェルソ)

【曲目】
テレマン: 序曲ト長調「風変り」TWV 55:G2
ヴィヴァルディ:リコーダー協奏曲ハ長調RV443
J.S.バッハ: ブランデンブルク協奏曲第5番ニ長調BWV1050
ヴィヴァルディ:ソプラニーノ・リコーダー協奏曲ハ長調RV444
テレマン: リコーダーとフルートのための協奏曲TWV52-e1

【公演問合せ】
Eアーツカンパニー: info@earts.jp

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