THE SAX vol.101 特集2

消音・防音アイテムは“宅レン”の強い味方!

コロナ禍で、ライブハウスが、どんどん減っている。仕事がどんどん減っている。プロフェッショナルは、本当に大変だ……。
アマチュアだって、大変だ。ともかく練習場所が、ない。カラオケボックスもスタジオも休業中。
オンライン合奏も流行ってるけど、自宅で音が出せるわけもないから参加できない!!
金管楽器はミュート(弱音器)があっていいよね……と、うらやんでばかりのアマチュアサックス吹きのみなさま。
ちょっと待った! そんなあなたのために、いろんなメーカーが知恵を絞ってくれてます。(文:埜田九三朗)

アマチュアサックス奏者のための、あの手この手…

いつ終わるのかわからない「コロナ禍」。みなさん、本当にどうしてます? 我々アマチュア音楽家は、プロほどの深刻さは「ない」けれど、そもそも「密」であることが要求される度合いはアマチュアのほうが強い。なぜなら、プロなら「リモート(もしくはオンライン?)」合奏なんて日常茶飯事。スタジオに集合しても、仕事場はそれぞれのブースに閉じ込められ、仲間と「息を合わせる」のも、モニターを通じてしかできない。いわば、ビフォアコロナの時代でも実はみんな「リモート」だったわけ。そして、規模の大小はあれど自宅に防音室を持ち、自宅練習(略して「宅レン」)自由自在……という方も多い。ところが、アマチュアはそうはいかない。前述のようなスタジオでの経験があるわけもないし、いざ「リモート」合奏を誘われても、全体合奏の音をイメージしながら自分の音だけ録音する……なんて体験はほとんどしたことない、というアマチュアサックス奏者は多いはず。
考えてみたら、サックスほど「宅レン」に不向きな楽器もない。中世時代からミュート(弱音器)が存在していた金管楽器に比べて、もともと木管楽器はその構造上「ミュート」がしづらいし、そのなかでも普通の音量がデカいのがサックス。フルートやクラリネットは素のまま自宅で吹いても、家の構造によってはさほど周囲に聞こえない……けれど、サックスはその種類を問わず音が目立つ。たとえばクラリネットは極限まで音を絞った超ピアニッシモも可能だけど、同じくらい音量を落とすのはサックスでは至難の業(もちろん「腕」にもよるだろうけど)。いずれにしても「宅レン」を余儀なくされる昨今のコロナ禍のただなかで、そろそろみなさんサックス欲がおさえきれないところまで臨界点に達しているのでは?
そんなアナタのために、すでに楽器業界はいろんな「宅レン」グッズを考えてくれていたのです。それらは、大きく分けて3つのタイプに分けられるみたいで……ちょっとこの場を借りて整理してみましょう。

 Part 1  マウスピース周り

Jazzlab
MkⅡサイレンサー
¥8,000(税別)

[問合せ]有限会社セレクト インターナショナル TEL.047-702-9086

マウスピースだけの練習はとかく賛否両論集めるところではあるが、「宅レン」を余儀なくされる現状では「そんなこと言ってられない」というのが正直なところ。いろいろな考え方があるとは思うが、数ヶ月の間、楽器もしくはマウスピースにまったく触らないまま演奏能力をキープするというのは、ほとんど不可能に近い。「サイレンサー」はマウスピースを装着して発音することで、最低限の勘をキープするには最適なアイテム。でも本当に大事なのは、その先にある。使いこなしとしては、装着して一つの音が安定して出せるようになったら、その半音上か半音下をベンドして鳴らせるようにする。それを繰り返しながら出せる音域を広げていくことで、音程をつくる感覚を磨くことが可能になる。巨匠デイヴ・リーブマンを始め、内外のプロがお勧めしているところも心強い。

Gottsu
Silent Reed サイレントリード
¥4,400

[問合せ]株式会社Gottsu TEL.046-205-3612

 

ある意味で究極のサイレントグッズ。つまり「鳴らないリード」。本来振動すべき部分を厚くして、息の通り道をリード中央に設けて鳴らないようにつくられた「反逆」のアイデア。かつて真鍋博は「走れない自転車」という哲学的概念をその著書で提案したが、それに似た哲学的暗示さえ感じさせる……が、これは真鍋案とは違い、リアルな奏者の感覚に基づいた実際的なアイディア。製作者の後藤将彦氏は「音が出たほうが気持ちいいです。それは十分すぎるほどよくわかっています。小さい音で吹く練習もいいと思います。ただ、腹筋、背筋を使って、腹式呼吸で、しっかりと息を入れること! これを忘れないでほしいです。普通の演奏ができるその時まで練習をして、LIVE活動再開!」と語っているが、その言葉に秘められた熱い思いに感動。

 番外編  クラリネット奏者、奥田英之氏のアイデア

イタリアでクラリネットを学んだ俊英、奥田氏のアイデア。それは、リードの装着位置を、振動しなくなるぎりぎりのポイントまで下げてしまうこと。目安としては、マウスピースの内部がちらっと見えるくらいまで。完全に孔がみえてしまうともう鳴らなくなるので、そうなると別記の「サイレントリード」と同じことになってしまうが、このやり方は、かすかに音が鳴る……というところがミソ。「音が出たほうが楽しいでしょ? コロナのせいでなかなか思いっきり吹くことができないお弟子さんに、こっそり教えているんです(笑)」

 Part 2  「内部」につめこむ

Magilanck
サックスミュート
¥7,000(税別)

[問合せ]黒澤楽器店 管楽器卸営業部 TEL.03-5259-8193

管楽器を静かに楽しむためには、開口部になにかをつめこめばいい。誰しもそう 思う。金管楽器の場合の「弱音器」は、ほぼこの構造。ベルに「なにか」をつっこん で音を弱くする、もしくは完全にふさいで、マイクで拾ってそれを電気的に拡声してヘ ッドフォンでモニターする……などのアイデアが具現化している。ところが、木管楽 器の場合は「開口部」が多すぎて、すべての開口部をふさいでしまったら木管楽器 としての機能を発揮するのは不可能になる。後述する「包んでしまう」発想が登場 するまでは、木管楽器の「弱音器」は不可能……というのが常識だった。しかし、な にごとも常識に縛られてしまっては発展がない。ということでマウスピースとネック、そしてベル部分に目の粗い多孔質の物体をつめる、という製品がMagilank。完全な「消音」というにはほど遠いが、「どうしても吹きたい!」という欲が爆発寸前の、 このコロナ禍のさなかでは、食指が動かされる妖しい魅力を放ちはじめているのだ。価格も手ごろだし、試してみるのもいいかも。

 Part 3  楽器全体をくるんでしまう

UNISON
アルトサックス用ミュート
オープン価格(実勢価格¥12,800)

[問合せ]黒澤楽器店 管楽器卸営業部 TEL.03-5259-8193

 

一見、ソフトケース。しかし、実はその機能は「なし」で、目的は「消音練習」がメイン。そう、楽器をこのなかにいれて、飛び出してくるマウスピースをくわえ、内部に手を差し込んで操作しながら練習する。楽器を布団に包んで吹くのと意味合い的にはおんなじ発想だが、本器の場合は操作部分にきちんと必要な空間が確保されているから、快適に操作可能。楽器を布団にくるんで練習するのとは雲泥の差……ていうか、楽器を布団でくるんだら重たくて練習しているのか筋トレしているのかわからなくなる(笑)。練習欲が暴発しそうなこの時期には、ありがたい存在かも。

BEST BRASS
e-SAX for Alto TypeII
¥50,000(税別)

[問合せ]株式会社ベストブラス TEL.053-401-5256

 

BEST BRASS
e-SAX for Tenor
¥59,000(税別)

[問合せ]株式会社ベストブラス TEL.053-401-5256

 

木管楽器の中でも通常運転状態で最大音量を誇る楽器であるサックスを「サイレント」化してしまう……ということで、世界中をあっといわせたのがこのシリーズ。繭のようなそのルックスは、まさに音楽の夢を育む繭でもある。優美な曲線は、美学と音響工学の類まれなるハーモニーでもある。楽器を完全にくるんでしまえば、ベルや音孔から発生する音をまとめて消音することが可能になるから、基本的アイデアは誰しも考えるところ。しかしそれを具現化するまでには、涙ぐましい苦労があったことも、いまでは広く知られている。たとえば「蒸れ」(閉鎖空間で、湿った空気が充満した中で必死に指を動かしていれば、蒸れてしまうのは当然のこと)をうまい具合に吸収する素材の「発見」など、その苦労話はマニアの間ではすでに伝説化している。内部で発生する音をマイクで拾い、それを単純に拡声するだけではなく、残響感を付加してヘッドフォンモニターすれば、まるでホールで演奏しているかのような感覚さえ得られる。このアイディアは実に画期的だ。今回紹介した中ではもっとも高価な部類だけど、それだけの価値はある。

そもそも「弱音器」とは……

もともと、管楽器における「消音器」は、古代の葬儀で金管楽器(トランペット)とドラムに用いられた、とされている。だからロマン派あたりまでは、消音器つきのトランペットは「死」のイメージだったりした……んだけど、いまはまさにプロもアマも含めて、世界中で音楽が危機に瀕している。まさに「死」にかけているわけだ。みんなで合奏するのは「三密」に触れちゃうからできないけれど、この「コロナ」期間を(あえて「自粛」とはいいたくないね。自ら粛す、というのはあくまでも自発的な行動で、ひとから強制されるものじゃないですよね)音楽的にクリエイティブなままですごすには、「宅レン」は必須。そして、消音器=ミュートも必須。ところが冒頭に申し上げたように、あらゆる楽器のなかで、木管楽器だけはこの手の「消音練習」が超苦手。しかし、ここでとりあげたように、いろんなメーカーがあの手この手でこの分野を研究してくれている。ここで取り上げた以外にも、もしかしたらもっと優れたアイデアが、いま世界のどこかで生まれているかもしれない。期待をもちながら、静かに「宅レン」を続けましょう。またのどかにアンサンブルできるその日まで。

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