バッハの響きと、新たな翼を得た「電子の鳥」 須川展也リサイタル

2018年12月9日 東京

須川展也サクソフォン・リサイタル

2018年12月9日(日)三鷹市芸術文化センター 風のホール(東京)

[演奏]須川展也(As,Ss)、小柳美奈子(Pf)、山口多嘉子(Perc)

[曲目]第1部:無伴奏ヴァイオリンのためのパルティータ第3番より ガヴォット・アン・ロンドー/プレリュード、同第1番より アルマンド/ドゥーブル、同第2番より シャコンヌ(J.S.バッハ)、第2部:トークセッション、第3部:Fantasia for alto sax and piano(坂本龍一)、アルト・サクソフォン・ソナタ(W.オルブライト)、サイバーバード協奏曲 ピアノ・リダクション版+パーカッション(吉松 隆)

写真:須川潔

言わずと知れたクラシック・サックス界のトップランナー、須川展也のリサイタルが開催された。会場となった三鷹市芸術文化センター・風のホールは、中ホールとしては長めの残響を持ち、過去に雲井雅人サックス四重奏団がデビューリサイタルの場として選ぶなど、器楽や室内楽に実績のあるホールだ。プログラム第1部はJ.S.バッハの無伴奏ヴァイオリン・パルティータからの抜粋。バロックということもあってか、普段よりヴィブラートを抑制していた印象だが、表面的な美しさばかりを飾るのではなく、サックスの音色の柔らかさと力強さの両面をバッハの世界観に融合させていたのは見事。特に第2番の『シャコンヌ』は須川が小学生の頃からお気に入りの曲だそうで、「やっとバッハを演奏できる年齢になってきた」と語っていた。須川の実力を持ってしても、「音楽の父」は遥かに仰ぎ見る存在ということか。ちなみに第3番で使用したソプラノは11月末頃に買い替えたばかりということで、今後の演奏活動への意気込みも感じられた。

第2部はリサイタル形式としては珍しいトークセッション。インタビューするのはホールの企画担当者…というと、お役所的な退屈な内容になるかと一抹の不安がよぎる。が、実際はそんな心配は無用。彼女は須川の高校の後輩で、しかも大学時代に副科授業で須川のレッスンを受けていたとのこと。バッハの編曲に苦心した話から、二人の地元(静岡県浜松市)や大学のローカルトークまで含めた、他ではなかなか聞けない、ファンには嬉しいディープなトークとなった。

第3部は現代の作品をラインナップし、前半とは全く異なる世界観を表現。坂本龍一の『Fantasia for alto sax and piano』はまだCD収録されていないものの、須川が近年頻繁に取り上げる作品の一つだ。オルブライトの『ソナタ』は難曲として知られ、国際コンクールなどで取り上げられることも多いが、須川が演奏するのは意外に珍しい。

プログラムの最後は今回注目の『サイバーバード協奏曲』のピアノ・リダクション版。CD「マスターピーシーズ」では打楽器を用いない編曲で収録されていたが、今回はその打楽器パートが復活。オーケストラからの単純な置き換えではなく、原曲でフルートが鳥のさえずりを演じていた箇所をパーカッションによる新たな解釈で表現するなど、随所に新たな創作と工夫が見られた。小柳・山口の各氏とのアンサンブルが絶妙であることに加え、オーケストラを排して編成が絞り込まれることによって楽曲の骨格が浮き彫りとなり、音楽の持つベクトルがより鮮明となった。ピアノ・リダクションというと、「仕方なく」ピアノに置き換えたような物足りない印象を残す編曲が多い中で、この『サイバーバード』のようにリダクション版が高い演奏効果を発揮して強い魅力を放つことは、非常に稀有な例だろう。編成の選択肢が増えたことで、この曲がこれまで以上に重要なレパートリーとして世界に羽ばたいていくことは間違いない。

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