THE SAX vol.91

アレックス・テリエ & ルイージ・グラッソ インタビュー 〜BCJ ジャズ・サックス・アカデミー

アレックス・テリエ ルイージ・グラッソ Alex Terrie Luigi Grasso
(from Left to Right) Alex Terrier, Luigi Grasso

この夏、ビュッフェ・クランポン・ジャパン主催によるジャズ・サックス奏者のための強化合宿、BCJジャズ・サックス・アカデミー2018が開催された。そのアカデミーの講師を務めたのがフランス出身で現在N.Y.のジャズシーンで活躍するアレックス・テリエと、イタリア出身で現在フランス在住の鬼才ルイージ・グラッソだ。アカデミー終了後、両氏へのインタビューが実現した。
(取材協力:ビュッフェ・クランポン・ジャパン)


 

以前の自分と比べて、いまの自分がどれだけ成長したか

――
記念すべき第1回目となったBCJジャズ・サックス・アカデミーの講師に選ばれた経緯を教えてください。
Alex
ビュッフェ・クランポン・ジャパンの社長さんから、1年半ほど前にジャズ・サックス・アカデミーをやりたいというお話を持ちかけられたのが始まりでした。よく話し合った上で、僕の他にもう1人講師が必要だろうということになり、ルイージ・グラッソを推薦しました。
Luigi
去年の5月の日本公演の際に、初めてビュッフェ・クランポン・ジャパンを訪れたのですが、その直後に、アカデミーの話をいただきました。もう1人の講師、アレックスは新しい世代を代表する素晴らしいサックス奏者であるとともに教育にも熱心であるということ、また“フランス”という共通点もあり、とても共感が持てました。
――
日本の受講生の印象はいかがでしたか?
Alex
フランスの生徒との一番大きな違いは、真面目さですね。レッスンの5分前には席に着いて準備ができている。あと特に感動したのは、様々な年齢の受講生たちがお互いにサポートし合っていたこと。ヨーロッパ諸国では自分のレベルアップが最優先という人が多い。日本の受講生のほうがコラボレーションの精神がありますね。
Luigi
僕はパリに住んで数年経っているのですが、向こうでは、同年代の人たちと小さいグループで行動することが多いです。今回の日本のアカデミー受講生は、グループレッスンにおいて、年齢やレベルの違いで、他の人を見下すような態度は一切見られませんでした。とても賢いです。レベルの高い人にとって既に知っている内容でも、ずっと勉強していけるのです。それは講師にとっても勉強になります。
――
プライベートレッスンにおいては、アレックスさんもルイージさんも受講生のレベルに応じてカスタマイズされていました。多くの受講生に見られた傾向があれば教えてください。
Alex
これは日本の受講生に限ったことではないのですが、“リズム”に関することでしょうか。世界的に見ても音楽理論、特にスケールやソルフェージュに集中してしまう傾向が多いように思います。でもジャズに関して最も大事なのはリズムです。リズムは体に例えると背骨部分。
Luigi
とても重要な“支え”の役割を担っています。それには生の音楽を聴きに行くことが一番のレッスン。なのに、パリで僕の授業を受けている生徒で、僕のライブを聴きに来た生徒は1人もいない(笑)。僕だったら、ライブを観ない限り、その先生のことを信用できませんけどね。あと大事なのは、演奏する曲が、どのような歴史・背景で作られたのかを知って、自分の言葉で語ること。ジャズはもともと、多くの黒人にとって解放の手段であり生活の糧だった。 そういうことをもっと勉強して自分なりに考えることで、音楽も深まっていくはずです。あと、日本の受講生のみなさんはシャイなので、もっと自信を持って吹いてください。
――
練習時間が限られた人たちに、アドバイスをお願いします。
Alex
今日何を練習するのかを前もって決めることが大事です。自分がいまどこにいるのか、そしてどこまで行きたいのかを知ること。小さなゴールに辿り着けば、また新たなゴールが生まれるでしょう。あと大事なのは、以前の自分と比べて、今の自分がどれだけ成長したかを確認すること。ゴールと現在の自分を比較することは心が折れるのでやめたほうがいいです。
――
プロを目指す若者にとって大事なことは何でしょうか?
Luigi
プロとはそもそも何か?ということから考えなければなりません。アマチュアでもプロと同じくらいレベルの高い人は結構います。つまり違いはレベルではなく、音楽で稼いでいくということです。 音楽には職人的な部分と芸術的な部分の2つの側面があります。2つとも深く関係していますが、芸術の部分は職人の部分より少し後にくるんです。それは技術を持って芸術的な部分を表現するからです。これは、プロを目指す方だけでなく誰にもあげられるアドバイスなので、ぜひ覚えておいてほしいです。
――
ジャズをプレイする上で、お二人が最も大切に思っていることは何ですか?
Alex
とにかく楽しむこと。共演者と楽しみ、ジャズを通して自分を表現して幸せになること。僕は、表現力のあるドラマーと共演することがとても好きなんです。ドラムの音を聴いて、リズミックな会話を交わすことはとても楽しい。また、演奏を通してお客さんを楽しませることにも喜びを感じます。
Luigi
ジャズに限らず、僕はとにかく吹くことが好きです。幼い頃から音楽をやっていたので、音楽なしの思い出はないくらい。5歳の誕生日にもらったチャーリー・パーカーのライブ盤は、今でもよく聴くのですが、そのときが一番野性的になります(笑)。幼い頃から弟のギターと一緒に演奏することが好きでしたね。共演というのは人間関係と同じで、やればやるほど関係が深まるもの。音楽というのは、唯一手で触れられない芸術です。自分が音楽をやることで人を楽しませることができることは、奇跡だと思うのです。
アレックス・テリエ ルイージ・グラッソ Alex Terrie Luigi Grasso
Profile
Alex Terrier(アレックス・テリエ)


1980年、フランス・パリ生まれ。
幼い頃よりクラシックピアノを学び、12歳の時、デューク・エリントン・オーケストラとそのメンバー、ジョニー・ホッジスのサックスを聴いて衝撃を受け、以降ジャズに傾倒する。2004年にアメリカのバークリー音楽大学に入学、2007年に2つの学位を得て卒業。その後、ニューヨークに活動の拠点を移し、「ミンガス・ビッグバンド」の一員となる。バンドリーダー、作曲家、編曲家、教師など多くの顔を持つ。2014年秋には、ジャズピアニストの大御所ケニー・バロンをフィーチャーした最新アルバムを発売するなど、これまでに多くのアルバムをリリースしている。また、指導者としても高く評価されている。その知識を伝授することに対する情熱と、生徒の上達へ向ける純粋な想いを称賛する声は多い。

[楽器]ビュッフェ・クランポン SENZO 銅製/銀メッキ仕上げ [マウスピース]アイゼンNY [リガチャー]BG duo

オフィシャルサイトhttps://alexterriermusic.com/home
レッスンサイトhttps://jazzvideolessons.net/
 
アレックス・テリエ ルイージ・グラッソ Alex Terrie Luigi Grasso
Profile
Luigi Grasso(ルイージ・グラッソ)


1986年生まれのルイージ・グラッソは、イタリアで最も人気のあるジャズプレイヤーのひとり。5歳からサックスと音楽を独学で学び、11歳より、バークリー音楽大学が行うセミナーに参加するようになり、後にボストンへ渡る。1999年、13歳という若さでデビューアルバム「ア・ラブ・スプリーム」をリリースする。アゴスティーノ・ディ・ジョルジョ、バリー・ハリスに師事。2010年にはパリに渡り、パリ地方音楽院やPSPBBなどでも教鞭をとっている。 2011年には、弟のパスカーレ・グラッソ(Guit)らとともに「ルイージ・グラッソ・カルテット」を結成し、アルバム「サ・マーシュ」をリリース。また、2016年には、ビュッフェ・クランポン主催のプロジェクト「ポップアップ・ザ・ジャム!」のディレクターを務め、次世代の音楽シーン創造に尽力している。


[楽器]ビュッフェ・クランポン SENZO 銅製/銀メッキ仕上げ [マウスピース]バンドーレン A45 [リガチャー]リガフォン

オフィシャルサイトhttp://luigigrassomusic.com/
 

Live Report
Buffet Crampon Presents
The Night of Jazz Sax〜アレックス・テリエ&ルイージ・グラッソ
@JZ Brat(東京・渋谷)2018年8月11日

[演奏]アレックス・テリエ、ルイージ・グラッソ(Sax)、佐藤浩一(Pf)、古峯勇二郎(Bass)、山田玲(Ds)

[曲目]1st ステージ: Star Eyes、 Nico's Tempo、Fears Disappear、 Anthropology、 Ballad Medley (Chelsea Bridge、 Day Dream 、Isfahan )、Alligator Blues 、 Last Minute
2nd ステージ: I Remember You 、I'll Remember April、 Question Mark、Night in Tunisia、Ballad Medley (Round Midnight 、Everything Happens to Me、Body and Soul)、Tokyo Blues

アレックスとルイージをフィーチャーしたライブが、渋谷JZ Bratで開催された。NYとParisからいま最も注目されているトッププレイヤーの共演とだけあって、会場には多くのプロ・ミュージシャンも駆けつけた。1stセットでは、隠れた名曲や二人のオリジナル曲を中心に、2ndセットでは耳馴染みのあるスタンダード曲を中心に演奏された。アレックスの確かな技術に裏付けされた歌心のあるプレイ、ルイージの泉のように湧き出るアイデア満載のフレーズとそれを表現する高度なテクニック、すべてがアカデミーで教わったことに繋がる。最後の曲で、会場に来ていたアカデミー受講生二人がステージに引っ張り出され、アレックスとルイージの共作、『Tokyo Blues』をフロント4管で演奏して締めくくった。世界のトッププレイヤーと共に、受講生二人も素晴らしいアドリブを聴かせてくれ、会場からは称賛の拍手が送られた。

アレックス・テリエ ルイージ・グラッソ Alex Terrie Luigi Grasso
サックス