サックス記事
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雲井雅人×須川展也 日本のサクソフォーン界を率いた二大プレイヤーの共演

THE SAX vol.64 Cover Story

互いに今年デビュー30周年を迎える雲井雅人、須川展也両氏。歩んできた道のりは違えど、現在のサクソフォーン界をこの二人が率いてきたことに異論はないだろう。一方は雲井雅人サックス四重奏団の、もう一方はトルヴェール・クヮルテットの主軸として活躍しており、そのフィールドは似ていながらも重なる部分は少なかった。しかしついに昨年のサクソフォニーフェスティバル沖縄で、二人のデュオが実現。そこで巻頭インタビューはキャリアスタートからの30年をたどっていく対談を敢行。それは日本のサクソフォーン界がたどってきた道のりとも言える。
(写真:土居正則 取材協力:株式会社ヤマハミュージックジャパン)


サックスの世界を広げたコンクール

昨年11月に行なわれたフェスティバルで初共演されました。
須川
僕がモダンの楽器を、雲井さんがアドルフ・サックスのヴィンテージを使ってのデュオでした。
雲井
ふたりとも違和感なく吹けました。実はその夏に行なわれた香港国際サクソフォンシンポジウムでも二人ともゲストで呼ばれたんです。デュオではなかったのですがこの仕事を引き受けるか、すごく迷いました。というのは、須川さんが美味しいところを持っていくのがわかっていたから(笑)。だからプログラムだけでなく、演奏する曲の傾向も被らないようにとかなり考えました。
須川
僕が吹奏楽とコンチェルトを演奏することになっていましたからね。僕に何を求められるかというと、パッと見の派手な演奏でもあるんです。
雲井
それだけじゃないと思いますよ。僕は作品を委嘱しました。そこまで考えないと須川さんには太刀打ちできないからね(笑)。その他は極端に音の少ないデイヴィッド・マスランカの『トーン・スタディーズ』を吹きました。ピアノパートが美しく、それに合わせてサックスが音を伸ばす曲です。香港の人もこんな曲を聴いたのは初めてだと思いますよ。
須川
音色ひとつですべてを語る素晴らしい演奏でした。サックスってテクニカル的な面に注目が集まる傾向があるけれど、それに対しての警鐘だったと思います。
雲井
沖縄でのフェスティバルのとき、須川さんはテクニック的に難しい新曲を一生懸命さらってたでしょう。そのとき僕は「自分が撒いた種だよ」って言ったよね(笑)。須川さんがサックスのテクニック、表現、レパートリーを広げたからね。
須川
それには反論があるんですよ。昔二人ともジュネーブ国際音楽コンクールに出たことがあったでしょう。その時に雲井さんが課題曲であるイベールの『コンチェルティーノ・ダ・カメラ』第2楽章で、アドリブで(どちらで演奏しても良い)オクターブ上げるという指示がある部分で見事に演奏していました。マルタンの『バラード』の最後もスーパーHigh Gを吹いていた。それを見て「これが世界のスタンダードになるんだな」と思ったんです。
雲井さんのジュネーブの演奏を憧れて見ていたから、僕が作品を委嘱するときにはテクニカルなことを入れるようになったんです。雲井さんはあのとき入賞されたんですけど、僕にとってはバイブルになる演奏でしたね。

使命感、劣等感がモチベーションを上げた

現在のクラシックサックスのレベルの高さはお二人が作られたものですよね。
須川
僕は藝大に入ったら自然にプロの演奏家になれると思い込んでいたんです。でも実際はサックス奏者がソリストになれるという雰囲気ではなかった。ソロコンサートもなければ、仕事も少ない状態で、ピアノやヴァイオリンなどと違って「クラシックのサックス吹き」という仕事が系統立っていなかったんです。
そこで僕は「サックスを聴いてくれる人を増やさなければ!」と思って、お客さんが好みそうな曲をメインにして、間にハイテクニカルな曲を入れてコンサートをやってきました。吹く場所があればどこでも吹くというスタンスでね。それでサックスの良さがわかってもらえれば、サックス奏者という仕事が成り立っていくようになると思ったんです。さらにサックスは、他の楽器に比べて歴史が浅いためレパートリーが少ない。だから雲井さんもやっているように、親しい作曲家に曲を委嘱して基盤を作ってきました。
雲井
以前、雑誌のインタビュー記事で須川さんがサックスを広めていくことに「使命感を持っている」と書いてあったんですよ。それを見てびっくりしてね。使命感を持っているからエネルギーがこんなにも持続するのかと。僕が持っているのは逆に劣等感かな。サックスのことしか知らないで、コンクールで入賞して舞い上がっていた時期があった。
日本音楽コンクールのあと、受賞記念コンサートがあって、ピアノの仲道郁代さん、ヴァイオリンの竹澤恭子さん、声楽の釜洞祐子さんなど錚々たるメンバーと一緒のステージに立ったんです。僕の演奏が終わって客席で聴いた釜洞さんの歌は本当に素晴らしく、その演奏を聴いたとき自分が恥ずかしくなったんですよ。声だけでホールを響かせ音楽ができることに、ものすごく劣等感を感じた。焦りだったかもしれないね。
それ以来、僕の関心事はホールで音が響くかどうか、ということなんです。ホールが響く素晴らしい演奏を聴くとコンプレックスが刺激されて、モチベーションが上がる。自分もうまく吹けたならそういう音が出せているかもしれないと思うと、それがエネルギーになるんです。 須川さんはデビューしてすぐに脚光を浴びたでしょう。それがうらやましくて須川さんのレパートリーの真似をしたいと思って練習したこともあるんです。でも何ひとつうまくいかなかったので、真似するのはやめました。
須川
雲井さんは自分に厳しすぎたんでしょう。
僕は雲井さんが留学を終えて帰国したときにレッスンを受けに行ったんですよ。僕は留学をしていないから、自分の音に何か足りないものがあると感じていた。レッスンのときに雲井さんがおっしゃっていたのが「オーバーブレスになっている」ということ。具体的には演奏するときにもっとリラックスして喉を開いてオープンにすることなんですが、当時はよく理解できなかったんです。それから演奏活動をしていくうちにホールを響かせるという感覚、脱力することがわかってきたように思います。雲井さんに音に対するアプローチのレッスンを受けたことが今に生きていますね。

さらに取材のしめくくりとして、二人から「ザ・サックス」読者に向けてのメッセージ、そしてなんと演奏のプレゼントが贈られた。両巨匠の息の合った掛け合いによるコメント、そして即席の共演の模様は、以下の動画をCLICK!

 

雲井雅人

Profile
雲井 雅人(くもい まさと)

1957年、富山県生まれ。国立音楽大学を経てノースウェスタン大学大学院修了。第51回日本音楽コンクール、第39回ジュネーヴ国際音楽コンクールで入賞。1984年東京文化会館小ホールでリサイタル・デビュー。ソリストとして、新日本フィルハーモニー交響楽団、ソルノク市立交響楽団(ハンガリー)などと共演。2007年インディアナ大学にてマスタークラス開催。2013年「香港国際サクソフォンシンポジウム」で教授を務める。ソロCDに「ドリーム・ネット」、「シンプル・ソングズ」がある。1996年、富山県ひとづくり財団より「とやま賞」(芸術文化部門)受賞。大室勇一、フレデリック・ヘムケの各氏に師事。尚美学園大学、国立音楽大学各非常勤講師。「なにわオーケストラル・ウインズ」メンバー。
●使用楽器 Alto:YAS-875(ラッカー)、マウスピース:セルマー180、リード:バンドーレン V12 2½ Soprano:YSS-875EXHG、マウスピース:Woodstone、リード:バンドーレン V12 3

須川展也

Profile
須川 展也(すがわ のぶや)

東京藝術大学卒業。数々のコンクールで優秀な成績を収める。文化庁芸術作品賞を受賞したサクソフォン協奏曲集「サイバーバード」最新の「サキソ・マジック」など30枚近くのCDをリリース。年間100公演をこなすソリストであると共に、日本のほとんどのオーケストラと共演を果たすほか、イーストマン・ウインド・アンサンブル、パリギャルド・レピュブリケーヌ吹奏楽団とも共演、世界的な評価を得ている。これまでサクソフォンのための作品を積極的に委嘱し、数々の名曲を世に送り出してきた。ヤマハ吹奏楽団常任指揮者、東京藝術大学招聘教授。http://www.sugawasax.com
●使用楽器 Alto:YAS-875EXG、マウスピース:セルマー170、リード:バンドーレン 3½ Soprano:YSS-875EXG、マウスピース:170、リード:バンドーレン 3


次ページにインタビュー続く
・表面的テクニックだけでは足りない
・小品の美しさに改めて気づく

登場するアーティスト

雲井雅人
Masato Kumoi

国立音楽大学を経てノースウェスタン大学大学院修了。第51回日本音楽コンクールおよび第39回ジュネーヴ国際音楽コンクールで入賞した。1984年東京文化会館小ホールでリサイタル・デビュー。2012年ハンガリー・ソルノク市立交響楽団、2013年「香港国際サクソフォン・シンポジウム」、2014年「シンガポール木管フェスティバル」などで協奏曲を演奏。2016年インディアナ大学にてオーティス・マーフィー教授のサバティカルリーブにともなう客員教授を務める。2017年アメリカ海軍ネイビー・バンドのサクソフォン・シンポジウムに招待されて演奏とマスタークラスを行う。同年、準・メルクル指揮、国立音楽大学オーケストラとドビュッシー「ラプソディー」を共演。2018年NASA(北アメリカサクソフォーン評議会)に雲カルとして招待され演奏とマスタークラスを行なう。2005年と2014年「サイトウキネン・フェスティバル in 松本」に参加。
ソロCDに「サクソフォーン・リサイタル」、「ドリーム・ネット」(バンドジャーナル誌特選盤)、「シンプル・ソングズ」(レコード芸術誌特選盤)、「アルト・サクソフォーンとピアノのためのクラシック名曲集」、「トーン・スタディーズ」(レコード芸術誌特選盤)、「ラクール:50のやさしく段階的な練習曲」、「リベレーション 我を解き放ち給え」などがある。雲カルCDに「ソングス・フォー・ザ・カミング・デイ」、「マウンテン・ロード」、「むかしの歌」、「レシテーション・ブック」、「チェンバー・シンフォニー」などがある。大室勇一、フレデリック・ヘムケの各氏に師事。
「雲井雅人サックス四重奏団」主宰。国立音楽大学教授、相愛大学客員教授、尚美学園大学講師。

登場するアーティスト

須川展也
Nobuya Sugawa

日本が世界に誇るサクソフォン奏者。そのハイレベルな演奏と、自身が開拓してきた唯一無二のレパートリーが国際的に熱狂的な支持を集めている。デビュー以来、長年にわたり同時代の名だたる作曲家への作品委嘱を続けており、その多くが国際的に広まっている。近年では坂本龍一『Fantasia』、チック・コリア『Florida to Tokyo』、ファジル・サイ『組曲』『サクソフォン協奏曲』等。東京藝術大学卒業。第51回日本音楽コンクール、第1回日本管打楽器コンクール最高位受賞。出光音楽賞、村松賞を受賞。98年JTのTVCM、02年NHK連続テレビ小説「さくら」のテーマ演奏をはじめ、TV、ラジオへの出演も多い。89年から2010年まで東京佼成ウインドオーケストラのコンサートマスターを務めた。最新CDは16年発売の「マスターピーシーズ」(チック・コリア/ファジル・サイ/吉松隆)。トルヴェール・クヮルテットのメンバー、ヤマハ吹奏楽団常任指揮者、イイヅカ☆ブラスフェスティバル・ミュージックディレクター、静岡市清水文化会館音楽アドバイザー&マリナート・ウインズ音楽監督。東京藝術大学招聘教授、京都市立芸術大学客員教授。

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