サックス記事

vol.23「東京佼成W.O.ヨーロッパツアー記 後編」

THE SAX vol.45(2011年1月25日発刊)

最近のスガワ

こんにちは。新年を迎え、早一ヶ月。皆さん、今年の目標は立てましたか? 「夢」を持つことはとても大事ですが、そこに繋げるため、少し近いところに「目標」を設定することは、毎日の生活に張りを与えてくれます。僕は今年も、一人でも多くの方に「何か」を感じていただける演奏を目指して、一回一回のステージを大事にしていきたいと思っています。
さて、当コーナーでは前回から、2010年9月中旬から10月初旬にかけての、東京佼成ウインドオーケストラ創立50周年記念ヨーロッパツアー記をお届けしています。イタリアのトリノ、ヴィツェンツァ、ポルデノーネ、スイスのルツェルンと巡り、各地で温かいお客様に迎えられた我々一行、いよいよツアーも終盤。ドイツ、トルコを訪れます。

 

 

東京佼成W.O.ヨーロッパツアー記 後編

ドイツは今、特に南ドイツ地域で吹奏楽が盛んに演奏されています。我々はミュンヘン近郊のウルム、ローレン湖のほとりにあるフリードリスハーフェンという街の2カ所でコンサートを行ないました。市民バンドで吹奏楽をやっているアマチュアプレイヤーや、先生方、もちろんプロフェッショナルのプレイヤーなど、その地域の吹奏楽関係者のほとんどがお客さんとして、集まってくださいました。ドイツで吹奏楽をやる人たちにとっても、佼成W.O.は広く知られていて、「やっと来てくれた!」と歓迎を受けてうれしかったですね。最初は正直なところ、ドイツと言えば歴史的に見ても「オーケストラの国」というイメージがあったので、受け入れてもらえるか不安でした。また、オーケストラには登場が少ないクラシック・サクソフォンも、ドイツは今発展途上にあります。でも、こうして南ドイツで吹奏楽が盛り上がっているということは、ドイツ全土に広がっていく可能性があり、吹奏楽が発展すれば、サックスの存在も広く知られていくでしょう。我々の演奏がきっかけになって、サックスに興味を持つ人たちが増えたらいいな……、そんな期待も込めてステージに臨みました。

ドイツ公演のあとは、最終公演となるトルコです。トルコと言えば軍楽隊。トルコ軍の、太鼓とトランペットとオーボエに似たような楽器で構成される軍楽隊の音は、ヨーロッパ人のモーツァルトやベートーヴェンたちをも刺激したという伝統があります。そういうところで「吹奏楽」を演奏できるというのは、原点に返らせてくれるいい機会になりました。我々が演奏したのは、エスキシェヒルという、トルコの中でもすごい勢いで発展している都市で、オペラ劇場を建設したり、多くのコンサートを開いたりと、文化的な事業に力を入れています。我々のコンサートは、たくさんのお客さんを迎え、市長さんのスピーチから始まるという……これはすごく名誉なことでした。

さて、今回のツアーで僕は、協奏曲『ウズメの踊り』のソリストも務めました。毎回アンコールとして、栃尾克樹くん(東京佼成W.O.バリトンサックス奏者)のアレンジによる『浜辺の歌』を、僕のソロとサックス3人で演奏していましたが、エスキシェヒルでの最終公演日、突然のサプライズが僕を待っていたのです。

いつものように『浜辺の歌』をサックスセクションだけで吹いていたところ……「えっ?」。後半からふいにサックス以外の音が聞こえたのです。最初のうちは「空耳か?」と思うようなさりげなさで、するとハーモニーや対旋律など、どんどん音が増えてくるではありませんか! なんと、栃尾くんがこの最終公演日のために、僕やスタッフには内緒で、バンド全体の伴奏アレンジをしてくれていたんです。ですから当然、バンドは指揮者なしのぶっつけ本番。そのことをまったく知らなかった僕は、めちゃめちゃ驚き、感激し、吹きながら涙が出そうになりました。
このツアー、僕は東京佼成W.O.のコンサートマスターとして、またソリストとして、とても大きな責任を負っていました。それをやり遂げた僕へのプレゼントという気持ちだったのでしょう。栃尾くんの友情に、そして演奏してくれた東京佼成W.O.のみんなに、この場を借りてもう一度御礼を言わせてください!ありがとうございました!

今回の東京佼成W.O.ヨーロッパツアー。何度も行ったことのある地域で確実な手応えを得たこと、普段吹奏楽のコンサートが行なわれていない地域に東京佼成W.O.を紹介できたこと、軍楽隊発祥の地・トルコで原点回帰を感じたことなど、すごく幅広いツアーになり、たくさんのことを感じてきました。日本は吹奏楽が盛んな国だからこそ、吹奏楽を世界的に発展させるために果たすべき役割が、我々にはあるんじゃないかということ。それと同時に、今度は僕たち日本人が、西洋の音楽のルーツ、伝統から学ばなければいけないことも……。

日本では、例えば吹奏楽のコンサートを聴きに行くお客さんは、実際に吹奏楽をやっていたり、若い方が多い。もちろんこれはとても大事なことで、僕たちの誇りでもあるのですが、ドイツなどでは、年齢層も高めで、「自分は音楽をやらないけれど、音楽を聴くのが好きだ」というお客さんも多いんですね。いろんなスタイルの音楽を聴きに行くという習慣が、何百年という歴史の中で根付いているんです。だから、オーケストラでない編成の、あまり馴染みのないサクソフォンが入っている吹奏楽であれ、土壌の広さがそれを認め、いいものであれば心から喜んでくれる。それが今回のツアーでわかりました。その、聴く側の土壌の広さを、日本人は学ぶべきじゃないかなと思うんです。

それは、「サクソフォン音楽を一般の方々に広めたい!」という僕の夢にも通じることです。このツアーで僕は、個人的にも、サクソフォン奏者として一般の大人の方が楽しみのために演奏会に通えるような環境を作るために、これからも努力していこうという思いを新たにしました。

 

※このコーナーは、「THE SAX」誌で2007年から2015年にかけて連載していた内容を再編集したものです

次回のテーマは「コンクールに向かって何をどうする?」。
コンクールを受ける上での心構えをアドバイスします。お楽しみに!

 

須川展也 Sugawa Nobuya

須川展也
須川展也
日本が世界に誇るサクソフォン奏者。東京藝術大学卒業。サクソフォンを故・大室勇一氏に師事。第51回日本音楽コンクール管楽器部門、第1回日本管打楽器コンクールのいずれも最高位に輝く。出光音楽賞、村松賞受賞。
デビュー以来、名だたる作曲家への委嘱も積極的に行っており、須川によって委嘱&初演された多くの作品が楽譜としても出版され、20-21世紀のクラシカル・サクソフォンの新たな主要レパートリーとして国際的に広まっている。特に吉松隆の「ファジイバード・ソナタ」は、須川が海外で「ミスター・ファジイバード」と称される程に彼の名を国際的に高め、その演奏スタイルと共に国際的に世界のサクソフォン奏者たちの注目を集めている。
国内外のレーベルから約30枚に及ぶCDをリリース。最新CDは2016年発売の「マスターピーシーズ」(ヤマハミュージックコミュニケーションズ)。また、2014年には著書「サクソフォーンは歌う!」(時事通信社)を刊行。
NHK交響楽団をはじめ日本のほとんどのオーケストラと共演を重ねており、海外ではBBCフィル、フィルハーモニア管、ヴュルテンベルク・フィル、スロヴァキア・フィル、イーストマン・ウインド・アンサンブル、パリギャルド・レピュブリケーヌ吹奏楽団など多数の楽団と共演している。
1989-2010年まで東京佼成ウインドオーケストラ・コンサートマスターを22年余り務めた。96年浜松ゆかりの芸術家顕彰を表彰されるほか、09年より「浜松市やらまいか大使」に就任。2016年度静岡県文化奨励賞受賞。
サクソフォン四重奏団トルヴェール・クヮルテットのメンバー。ヤマハ吹奏楽団常任指揮者、イイヅカ☆ブラスフェスティバル・ミュージックディレクター、静岡市清水文化会館マリナート音楽アドバイザー&マリナート・ウインズ音楽監督、東京藝術大学招聘教授、京都市立芸術大学客員教授。
 
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