サックス記事 14年振りに3rdアルバム 「First Impression」をリリース実力派ジャズバンド
THE SAX vol.96

14年振りに3rdアルバム 「First Impression」をリリース実力派ジャズバンド

espaço(エスパソ)というバンドをご存じだろうか。ポルトガル語で「宇宙、空間」を意味する名を冠したこのバンドは、リーダーである柳原達夫(Bass)を中心とするクインテット。ライブハウスで活動を重ねてきた彼らが満を持して録音した3rdアルバム「First Impression」は、前作から実に14年振りのリリースとなった。このアルバムの手応え、そしてEspaçoのこれからを、柳原氏と青木秀明氏(Ts,Ss)の両名に語ってもらった。

インタビューに答えてくれた柳原達夫(右)と青木秀明
インタビューに答えてくれた柳原達夫(右)と青木秀明

 

わかりやすいメロディと聴きごたえの両立を目指して

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「First Impression」のリリース、おめでとうございます。変拍子、混合拍子を多用したコンテンポラリーな雰囲気と、メロディアスさを両立した大作になりましたね。
柳原達夫
このバンドは「わかりやすいメロディをどうやって聴かせるか」を一貫して追求してきたつもりなので、そう言っていただけるのが一番ありがたいです。たくさんの人に聴いてほしいですね。
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表題曲の『First Impression』はもちろん、アルバム全体を通してジョン・コルトレーンへのオマージュが感じられました。
柳原
まさにこのアルバムはコルトレーンに捧げたアルバムなので、狙いが伝わりうれしいです。ジャズ好きな方にはフリーに傾倒する以前のコルトレーンの雰囲気を感じていただければと思います。このコンセプトを実現するのに、テナーサックスにこだわって吹いている青木君の加入は大きかったです。
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全曲オリジナル曲で構成されていますが、作曲はどのくらいの期間をかけたのでしょうか。
柳原
前作を出してから15年近く経ちましたが、どの曲もその間にやり倒してきた曲たちです。このあたりでアルバムを出さないと、いよいよ次に進めないような感覚がありましたね。
青木
僕はespaçoに加入してからまだ1年強なので、新しい曲たちばかりなのですが(笑)。しかし土台が完璧だったので、その上に乗るのには苦労しませんでした。

 

青木秀明がこの日に使用した愛用のテナー
青木秀明がこの日に使用した愛用のテナー

 

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前作まではライブ録音でしたが、今回のアルバムはスタジオ録音となっています。スタジオ録音を選ばれた理由は?
柳原
ベーシストとしては、ベースの音をしっかり録りたいという思いがありました。そして全体的な音量バランスにもこだわることができました。
青木
それぞれの奏者がブースに入った状態で基本的に一発で録ったのですが、このバンドは普段アイコンタクトを重視しているので、お互いが直接見えないのは苦労しましたね。
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青木さんはどのようなセッティングで録音に臨まれましたか。
青木
楽器はセルマー・マークⅥの12万番台、マウスピースは中古で購入したモーガンの8番、リードはリコロイヤルの4番を使っています。ハードなセッティングに感じられるかもしれませんが、最初に圧力をかけさえすればしっかり鳴ってくれます。
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今後のespaçoの活動予定を教えてください。
柳原
まずはこのアルバムを売らないとね(笑)。ツアーは10月18〜20日に長野県を巡ることが決まっています。九州や北海道出身のメンバーがいるので、そちらにも行きたいですね。このアルバムを出せたので、次のステップとして新しい方向性のものにもチャレンジしてみたいけれど、わかりやすいメロディをどう味付けしていくかというespaçoの芯の部分がぶれることはないと思います。

CD Information
2019年5/26に発売されたアルバム「First Impression」

【MRCD1003】¥2,500(税別)

May Records

[演奏]柳原たつお(Bass)、青木秀明(Ts,Ss)、上村計一郎(Ds)、石田幹雄(Pf)、小野寛史(Guit)

[収録曲]Remember、葉風、CYCLES、まどろみ、盆の窪、River View House、IRAMUSA-2019、J.C.Waltz、彩色、Long Short Story、First Impression

 

レコード発売記念ライブレポート 6/2 新宿PIT INN

レコ発記念ということで、全曲が3rdアルバム収録曲「First Impression」からのラインナップ。演奏者側からすればどの曲も変拍子や高度なアンサンブルを要求される難易度の高い曲であることに疑いはないのだが、聴く側はまったくそのことを感じることなく、それぞれの曲が持つ美しいメロディをじっくり堪能することができた。どのメンバーのソロも濃厚かつ多彩で、バンド全体のグルーヴを主導しつつ、アンサンブルとしての調和と強い一体感を生み出していた。独自の世界観を創り出す彼らの演奏は並外れたクオリティの成せる業といえる。アルバムリリースで新しい段階に進んでいくespaçoの今後から目が離せない。


espaço(左から)石田幹雄(Pf)、柳原たつお(Bass)、青木秀明(Ts,Ss)、小野寛史(Guit)、上村計一郎(Ds)
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