THE SAX vol.76(2016年3月25日発刊)より転載

最終回 26回 | たなばた(酒井格作曲)

吹奏楽コンクールでは近年日本人の吹奏楽オリジナル作品が増えてきたことで、それらの作品を演奏するバンドが増えてきています。コンクールの自由曲で演奏される機会が多くなることで、さらに新しい作品が増えるという相乗効果があり、とても素晴らしいことだと思っています。
さて今回は、その盛り上がっている日本人作品の中でもとても人気の高い、酒井 格作曲『The Seventh Night of July(たなばた)』を取り上げてみます。
By 田中靖人

─ 今回のPick Up 曲 ─

The Seventh Night of July (たなばた)(酒井 格作曲)

 どんな曲?
『The Seventh Night of July』は、ご存じ『たなばた』のことですが、正式タイトルは英語表記のほうだそうです。
酒井氏が1988年に作曲した初の吹奏楽作品で、演奏されることがとても多い、酒井氏の代表作です。シンプルで美しいメロディ、ポップなリズムが印象的で楽しい作品です。
作品についての解説は、酒井氏自身が書いていらっしゃいます。その文章が最もわかりやすいと思いますので、以下流用させていただきます。

1987年から88年にかけて書いた、私にとって初めての本格的な吹奏楽のための作品。当時、高校の吹奏楽部に所属していた私が親しんだ数多くの作品に影響を受けています。
七夕は、天の川によって離ればなれにされてしまった若い男女、彦星と織姫が、年に1度、7月7日の夜だけ逢う事を許されるという伝説ですが、この作品の中間部ではその2人が再会する場面(Alto Saxophoneが織姫、Euphoniumが彦星)を描いています。
私が生まれ育った枚方市は、七夕伝説との関わりが深く、星ヶ丘や星田、天の川、逢合橋(あいあいばし)や、かささぎ橋など、この伝説にちなんだ数多くの地名やスポットがあることも、この伝説を題材に作品を書いた事に大きく影響しているでしょう。(酒井 格氏、プログラムノートより)

楽譜を見たらすぐに演奏したくなりますが、その前に作曲者や作品を知るのは、演奏するうえでイメージを膨らませるために大切なことです。では楽譜を見てみましょう。

サクソフォンの演奏ポイント!
11から33までの旋律(譜例1)は、サクソフォンとホルンのユニゾンです。ここでのサクソフォンは、ホルンのサポート役となって音色を作るようにしましょう。吹奏楽作品ではよく使われる手法ですが、ホルンの音色とブレンドするように演奏すると、ホルンが引き立つように聴こえてとても効果的です。ホルンが弱いバンドの場合は、サクソフォンが少しリードするようなバランスでも良いでしょう。※数字は小節番号を表しています

譜例1 (クリックして拡大)

34から52の前までは、サクソフォンとクラリネットなど木管セクションのアンサンブルになります(譜例2)。ホルンとのアンサンブルとは違う音色で、クラリネットとブレンドするようなバランスで、少しだけヴィブラートを使うと旋律の色が変わって楽しいですよ♪

譜例2 (クリックして拡大)

59からの4小節間は、ホルン、ユーフォニアムとのユニゾンになりますが(譜例3-1)、そのあと63からの3小節間は木管セクションとのアンサンブルになりますので(譜例3-2)、ここではクラリネットとのバランスを聴きながら、少し音色を変えるようにヴィブラートを使うのも良いでしょう。

譜例3 (クリックして拡大)

66からの4小節間は、サクソフォン四重奏のアンサンブルになります(譜例4)。その先の場面に移る前の短い繋ぎになりますが、はっきり色が変わるよう印象的に、そして1stアルト・サクソフォンのメロディに寄り添うように演奏しましょう。

譜例4 (クリックして拡大)

70からは、酒井氏の解説にありました、彦星と織姫が七夕に再会するロマンティックな場面です(譜例5)。

譜例5 (クリックして拡大)

織姫であるサクソフォンのソロがリードして、彦星であるユーフォニアムのソロが寄り添うような旋律です。ダイナミクスはfと書かれていますが、優しい音色でロマンティックな雰囲気ですので、からfくらいの音色が良いでしょう。特に70の5小節目アウフタクトからの2小節間は、2人の少し切ない気持ちを表現しているのか、ハ短調(c-moll)の旋律に転調しています。ここを見逃さずに演奏できると、76アウフタクトから希望に満ちた旋律へと雰囲気を変えることができます(私が感じている個人的なイメージですが……)。
この中間部のあとはTempo Primoで再現部までのブリッジになり、再現部以降は前半とは少し違う華やかさがあります。エンディングまで駆け抜けてゆくようなエネルギッシュな演奏が楽しいと思います。
全体的には、メロディ、ハーモニー、リズムがシンプルではっきりしている作品なので、お互いの役割をよく理解して、聴き合いながらアンサンブルを楽しんでくださいね。


このコーナーを約4年間執筆させていただきましたが、今回をもって最終回にさせていただくことになりました。
始めはQ&Aというかたちでみなさんからの素朴な疑問にお答えするコーナー、その後吹奏楽作品を取り上げて、ポイントをアドバイスするかたちになりました。専門家としての立場というより、読者のみなさんの立場で細かなことをいろいろ考えていくことで、私もより謙虚な姿勢で音楽に取り組むことの大切さを再認識することができ、とても楽しく執筆することができました。
このコーナーは今回で終了となりますが、今後も各地のコンサートやクリニックなどで、皆さんとお会いできることがあると思います。その時はぜひ声をかけてくださいね。
それではまたお会いしましょう! お元気で。

 


※この記事はTHE SAX vol.76を再構成したものです

田中靖人さん
田中 靖人 Yasuto Tanaka
和歌山県出身。国立音楽大学在学中に第4回日本管打楽器コンクール・サクソフォン部門で第1位。矢田部賞を受賞し卒業後より、ソリストとして各地でリサイタルなど幅広いコンサート活動を行ない、テレビやラジオにも数多く出演。また、サクソフォン四重奏団《トルヴェール・クヮルテット》のバリトン・サクソフォーン奏者として国内外で活躍し、これまでに10枚を超えるCDをリリース。2001年には文化庁芸術祭レコード部門“大賞”を受賞。ソロ・アルバムに1991年「管打楽器ソロ名曲集・サクソフォーン」95年「ラプソディー」(東芝EMI)97年「サクソフォビア」(東芝EMI)2003年「ガーシュインカクテル」(佼成出版社)12年「モリコーネ・パラダイス」(EMIミュージック)をリリース。03年、和歌山県より「きのくに芸術新人賞」を受賞。サクソフォンを大室勇一氏に師事。現在、昭和音楽大学客員教授、国立音楽大学教授として後進の指導にもあたっている。


▷田中靖人オフィシャルホームページ◁

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