サックス記事

Pianists Insight 第2回 小柳美奈子

ピアニストの目線で、クラシックサックスを鋭く斬る!

クラシックサックス奏者にとってピアニストは必要不可欠なパートナー。一番近い存在だからこそ気づくこと、言えることがきっとある。このコーナーでは、サックスの伴奏を長年勤める名ピアニストたちに、クラシックサックス習得の秘訣をご教授いただく。2回目となる今回はサックス奏者の夫を持つ小柳美奈子氏だ。
text:佐藤淳一 企画:Turn Around Artists Org.

健康で幸せに楽器を吹いてほしい

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クラシックサックスの作品を初めて演奏した時、どのようなことを思われましたか?
小柳
なんだか申し訳ない話なのですが、大学に入るまでサックスの生の音を聴いたことがなかったんです。同級生のサックスの友だちに伴奏を頼まれた最初の曲がボザの『アリア』だったんですね。『アリア』は込み入った曲ではないですけれど、和音とかあまり耳馴染みがない響きだと感じました。綺麗な曲だなと思いながら新鮮でした。
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ご主人の須川展也さんはクラシック・サックス界のパイオニアで、クラシック・サックスの新しい方向性を次々に開拓している方ですが、それを側で見ていてどのように感じられましたか。
小柳
私が言うのもなんですが、須川はとても努力家だとは思います。そして、周りにすごく恵まれてきた人だとも思います。例えばピアソラを取り上げた時、最初に「今、ピアソラがすごいよ」と話してくださったのは吉松隆さんだったと思います。その後、パリの楽譜屋さんで『タンゴの歴史』のスコアを見つけ、「これだっ!」とビビっときたのだそうです。それから、どんどんピアソラにのめり込んでいった。興味があることを突き詰めていくタイプなのですね。もしかしたら、そのことと出会いがうまく合致したのかもしれません。私もクラシックに限らず、いろいろなスタイルの音楽が好きなので、ピアソラを聴いた時にはすごく心惹かれ、ワクワクしました。今も大好きで、弾くと燃えます(笑)。
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須川さんの演奏活動の中でターニングポイントのようなものはどこだったのでしょうか。
小柳
もしかしたら吉松隆さんの『ファジーバード・ソナタ』かもしれません。想像もしていなかったんですけど、あの曲が世界中に広まったことが大きかったですね。マスタークラスでいろいろな国に行くんですけれど、ほとんどの国でこの曲のレッスンをしたようです。一楽章はジャズ、ロックの要素、二楽章はオリエンタルな風情をだすもの……と、サックスのキャパシティをかなり表現できる曲なので、世界中でみなさんが面白いと思って取り上げてくださったのかなと思います。その分、それらのスタイルを生かすためにピアニストにも厳しい要求がありましたけれど(笑)。
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須川さんと小柳さんは現代作品も積極的に演奏されていますよね。
小柳
須川は大学時代に作曲や楽理科の方たちと即興演奏をしたり、いろいろ面白いことをやってきたようで、現代作品を取り入れるのもすごく好きでした。例えばデニゾフの『ソナタ』。私が学生の頃はほとんど演奏されなかった作品です。ゴトコフスキーの『ブリヤンス』は当時の日本音楽コンクールの選択曲の一つで、須川は演奏したそうですが、ほとんどの人がこの曲を知らなかったと聞きました。それが30年前の話です。ちょっと驚きますよね。デニゾフの楽譜を最初に見た時は少しクラっとしましたよ(笑)。「この○対○(注、比例記譜法16:9のこと)っていうのは何かな」と思って。最初は線を引いて点を書いてみたりして(笑)、でも分からなくて……「どういう意味だろう?」と、すごく譜読みに時間がかかりました。
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トルヴェール・クヮルテットと一緒に活動されていますけど、日本ではピアノ・クインテットは、まだあまり多くないスタイルですよね。
小柳
初めてのカルテットとピアノの曲は、伊藤康英さんが書いてくださった『ポーギーとベス』(二十数年前のこと) でした。そのアレンジでは、全員にソロの役割が回ってくるようになっていたんです。私がいわゆる支え役になってバリトンがソロを吹いたりとか、それまでのカルテットの曲では見られない面白い仕掛けがたくさんあって。トルヴェールは、メンバー全員が結成当時からソロの活動をしていたので、ピアノが入ることでメンバーの個性を際立たせる場面ができる。そうすると、聴いてくださるお客様にとっても、演奏しているメンバーにとっても楽しい、ということがわかったのです。それで「次の曲どうしよう?」となったときに、メンバー全員が「ピアノありがいいね」と言い、以来トルヴェールの委嘱作品に、サックス4本+ピアノが増えていったのです。5人での演奏は、長年積み重ねてきたことで生まれた音楽、また信頼があるので、特別なアンサンブルだと思います。なにより楽しいです。
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プロを目指す学生にアドバイスをお願いします。
小柳
私自身が、身体を壊してピアノを弾けなくなった時期があったので、是非、お伝えしておきたいのは「どうぞ身体の声を聞きながらサックスを演奏してください」ということ。楽器の演奏をするには、アスリート的な要素が求められると思うのです。サックスは首に重い楽器を下げて演奏しますから、思わぬ負担が身体にかかっていると思います。首が痛い、肩が凝るなど辛い症状を持っている人も多いのではないでしょうか? それらを放っておくと、本当に身体を壊してしまうこともあります。どうぞストレッチをするとか、マッサージを受けるとか、身体のメンテナンスにも気を配ってください。身体が苦しいと、良い音が出ないし、なかなか自由には演奏できないと思います。健康で幸せに楽器を吹いてほしいと、心から思います。
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ありがとうございました。
 
小柳美奈子 Minako koyanagi
東京藝術大学音楽学部器楽科卒業。国内での活動はもとより欧米等海外での演奏も積極的に行ない、いずれも高い評価を集める。須川展也氏をはじめとした共演での録音は十数枚を超える一方、ソロに加えて山口多嘉子氏とのデュオ・ユニット「パ・ドゥ・シャ」でもCDをリリース。トリオ「YaS-375」のメンバー。ピアノを安川加寿子、梅谷進、秦はるひ、今井正代、長谷川玲子、本村久子の各氏に師事。
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