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すべてをつなげるのが音楽 フィリップ・スパーク

Wind-i 5号 CLOSE UP

奏楽とブラスバンド(金管バンド)のコンサートで取り上げられる機会が最も多い作曲家であろうフィリップ・スパーク。
3月に行なわれたシエナ・ウインド・オーケストラと尚美ミュージックカレッジ専門学校の選抜学生による尚美ウインドオーケストラのコラボレーションコンサートのために来日する彼にインタビューができないかと打診したのは2月。来日中は両団体のリハーサルもあり、かなりハードスケジュールだったが、インタビューの快諾をいただくことができた。
ここでほんの少しだけ本誌に掲載したインタビュー内容をお届けしよう。

 

フィリップ・スパーク
――
特に吹奏楽とブラスバンドの作曲に力を注いだのはなぜでしょう?
スパーク
この2つの演奏形態では常に新しい作品を欲しているから、というのが大きな理由です。オーケストラやクラシカルな編成にはこの250年の間にすでにたくさんの名曲が書かれていますから、そういった分野では聴衆を含めて新作を待ち望んでいる人が少ないという実情があります。吹奏楽やブラスバンドは真剣に新作を望み、取り組んでくれる。それが作曲家としてとても大きな魅力なのです。

確かに吹奏楽やブラスバンドという分野では、多くの作曲家が作品を作っている。特に日本は吹奏楽大国といってもいいぐらい吹奏楽が盛んな国だ。ほとんどの中学、高校には吹奏楽部があるし、毎年行なわれる全日本吹奏楽コンクールを始めとして、様々な演奏活動が盛んに行なわれている。ブラスバンドにおいては吹奏楽ほどではないけれども、プロ奏者たちによるブラスバンドが国内にあり積極的に活動を行なっている。金管だけによるアンサンブルは吹奏楽とは違う一体感ある重厚なハーモニーが特徴で、この魅力にはまったファンも多い。 スパーク氏はその両分野で作品を書いているが、元々はブラスバンドの曲だったものを吹奏楽にアレンジし直すことは以前よりも減っているという。

スパーク
吹奏楽はオーケストラと同じような要素を持ち、個々の楽器が持つ音色や個性をしっかりと区別して生かしながら作曲しなければいけません。それに対してブラスバンドは、すべてが集まって一つのサウンドになるという点で、パイプオルガンのようなものだと考えています。コルネット、フリューゲルホーン、テナーホーン個々の楽器がオルガンのパイプ一本ずつ、というようなイメージですね。また、高音域が強調された吹奏楽の華やかな響きに対して、ブラスバンドでは低音域が生きてきます。最近はそれらのサウンドの違いがよりよく生かせるように作曲をするので、相互に編曲をして1曲を共有するのは以前より難しくなりました。
フィリップ・スパーク

今回のシエナと尚美のコラボレーションコンサートでは、すべて指揮を行なったスパーク氏。指揮者としての活動も楽しんでいるのかと聴いてみると─

スパーク
とんでもない! 指揮は嫌いなんです。たとえ自分の曲であっても指揮をするのはとても難しいんですよ。私自身、指揮の勉強をきちんとしたことがないので、ほとんど本能にまかせて振っています。
(中略)指揮者と作曲家は二つのまったく違う職業なので、私が自分の作品を指揮するときでさえ、初回は指揮者と同じようにスコアを読むところから始めなくてはなりません。作曲というのは演劇の台本のようなもので、そこにあるのは全体の80%程度にしかすぎません。残りの20%を舞台監督や役者に補完してもらって、初めて作品として生命を得るのです。

指揮者や演奏家と同じ目線に立ってくれるのだと実感できる言葉である。その思いが作品にこもっているからこそ、プロから愛好家まで幅広く彼の作品が愛され、多くのコンサートで取り上げられている理由だろう。 Wind-I vol.5にはもっと多くのインタビューを掲載しているので、是非読んでいただきたい。

 

Philip Sparke│ フィリップ・スパーク

フィリップ・スパークは、1951年イギリスのロンドンに生まれた。王立音楽大学(RCM)でピアノ、トランペット、作曲を学び、学生によるウィンドオーケストラへの参加やブラスバンド活動を通じて、在学中より、吹奏楽およびブラスバンド作品を書き始めた。この頃に出版された最初の作品が、ブラスバンドでは『コンサート・プレリュード』、吹奏楽では『ガウディウム』である。その後、ニュージーランドで開催されたセンテニアル・ブラスバンド選手権の委嘱によって作曲した『長く白い雲のたなびく国』で、一躍世界へ知られるようになる。BBC放送の委嘱により作曲した『スカイライダー(1985)』『オリエント急行(1986)』『スリップストリーム(1987)』の3作品で<ヨーロッパ放送ユニオン(EBU)新作バンド曲コンペティション>3年連続1位に輝いて以来、英国のみならずニュージーランド、スイス、オランダ、オーストラリア等で開催されるブラスバンド選手権決勝のための作品を発表し続け、ブラスバンドの大会が開催されるところでその名を見ないことはない。吹奏楽作品では、東京佼成ウインドオーケストラに委嘱された『セレブレーション』のレコーディングによって世界へ知られるようになり、アメリカ空軍ワシントンD.C.バンドの委嘱による『ダンス・ムーブメント』では1997年、名誉ある<サドラー国際作曲賞>を受賞した。2005年には、大阪市音楽団第90回定期演奏会のために作られた『宇宙の音楽/吹奏楽版』により<NBAレヴェリ賞>を受賞。さらに2011年、それまでの偉大な業績が讃えられ、オランダの作曲者権利保護団体『BUMA』よりインターナショナル・ブラス・アワードと、また本国イギリスで最も権威あるブラスバンド・メディア『4barsrest.com』より特別賞を贈られている。2000年からは自身の出版社『アングロ・ミュージック(Anglo Music Press)』を立ち上げ、作曲活動に専念。現在、ウィンド・ミュージック界の第一人者として世界的な活躍を続けている。 
©黒沢ひろみ 2015

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