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田中覚のリペアマンへの道! マレット編

Wind-i mini 26号 第5回

第5回 マレット編

来年度4月から「島村楽器テクニカルアカデミー」と改称することに合わせ、日本で唯一「コンサートパーカッションリペア科」を新設する代官山音楽院。本格的なリペア・メンテナンスだけでなく知識、社会性・音楽性をも身につけることができる新学科の開講に先立ち、主任講師の田中覚先生に「楽器別リペア・メンテナンスについて」お話しいただきました! 第5回目は「マレット編」です。

 

マレットのヘッドや持ち手(シャフト)にはどんな素材がありますか?

マレットは楽器ごとに用意されており、そのバリエーションは軽く数千種類を超えます。
シロフォン用やグロッケン用マレットの頭部は両方が叩ける樹脂系・プラスチック系・木製、そしてグロッケンしか叩けない金属のものがあります。樹脂系が一番使われており、日本では籐製(ラタン)のシャフトが圧倒的に多いです。
マリンバはシロフォンに比べ音板が薄く広いので、頭部はほとんどが毛糸巻きのマレットになります。一方、ヴィブラフォンはかなりの割合で綿巻きのものが使われています。そして、ティンパニは毛糸を巻いたものはほぼ使わず、ほとんどがフェルトです。流行りのタイプはドイツスタイル(竹柄)です。フェルト内部(頭部の芯)はコルク、木、木綿などで作られています。
以前より打楽器では、高額なものはオートマチックにいい音がするという考え方を持った方がいます。その傾向に照らし合わせて選ばれることが多いのがこの竹シャフトのマレットです。

竹製

現在のシャフトのトレンドは竹

竹シャフトのマレットは重さや密度、重量バランスが個体ごとに違うため加工の工程が多くペアリングもなかなか作れないのでコストがかかります。だから高額になっているだけで、良いか悪いかはまた別の話です。木のシャフトのマレットにも良いものがあり、吹奏楽にも向いていると思います。

 

マレットの取り扱い方法は?

竹シャフトは、エアコンの風を直接あてたり、直射日光にあてるのはよくないです。特に冬場は乾燥によって割れることもあります。竹はシャフトの中心部、芯の部分が完全に割れてしまうと直らないこともありますので注意してください。
頭部に関しては、直に音楽室の床に置くと汚れて表面が固くなることもあります。衛生的にも良くないので、大事に扱ってもらいたいですね。また、フェルトの頭部はだんだんと毛羽立ってきますが、多くのプロ奏者は比較的使い込まれた状態のものを好みます。新しいものは表面が突っ張っており、大きな音で連打するのは良いですが、弱音の豊かな単打やロールが難しく、表現の幅が半分制限されてしまいます。ちなみに鍵板のマレットもティンパニマレットも毛糸やフェルトを巻き直せますが知らない学生が多いです。もし気に入ったマレットがあれば、巻き直して使い続けてください。

ティンパニマレット

左:フェルトは少し痛んでいるが、このくらいがいいという人もいる。右:芯は馴染んできたが、フェルトがまだ少し突っ張った状態

 

マレットを長持ちさせる方法は?

ティンパニマレットでは、頭部同士が強く擦れ合うようなケースには入れないほうが良いと思います。
マリンバやヴィブラフォンでは、無意識にやるグリッサンド遊びはやめてください(笑)。当然ですけど、毛糸や綿の束を木や鉄でこすっているわけですから、消耗が激しいです。演奏で必要な時以外はやらないようにしてくださいね。

 


Profile|田中 覚

1993年4月から2007年9月まで株式会社コマキ楽器パーカッション・シティに勤務。この間、新日本フィルハーモニー交響楽団の近藤高顯氏にティンパニ演奏とティンパニマレット・リペア、作成を師事。2007年9月より打楽器リペア業務を主としたマチュア・パーカッションを立ち上げた。2008年~ 2014年の7年間、札幌で毎夏開催されているPMF 音楽祭で使用される全打楽器の保守管理やセッティングを担当。国内外の多くの奏者や専門家と交流を持つ。

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