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vol.2「お悩み相談 ココロ編」

THE SAX vol.24(2007年7月25日発刊)より転載

最近のスガワ

今年の東京佼成ウインドオーケストラの長いツアーも無事終了。たくさんの温かい拍手をいただきました。各地の会場でお会いした皆さん、読んでくれていますか?

さて[最近のスガワ]情報。前号で少しお伝えした、僕ら「トルヴェール・クヮルテット」結成20年の記念的なニューアルバム『シャル・ウィ・サックス?』が7月25日に発売されました。クラシックをポップに楽しみながら、サックスの深い世界へ誘ってしまおうという気持ちを込めたこのアルバム、たくさんの方に楽しんでいただけたら嬉しいです。また、これからも全国各地でコンサートを開催していきます。CDとライブ演奏では、それぞれ違った魅力を楽しんでいただけると思います。コンサートガイドをチェックして、ぜひぜひ、お越しくださいね。

 

 

お悩み相談 ココロ編

“本番でアガってしまいます。どうしたらいいでしょう?”

 

連載第2回目は、こんなお悩み相談にお答えします。

サックスを演奏している人ならば、一つの目標や楽しみがステージでの本番ですね。日ごろの練習の成果を発表できる良い機会、でもこの「アガってしまう」という悩みは誰しも持っているものです。

やっぱり僕も、未だにどんな本番でも緊張します。アガらないためにはどうしたらいいか悩んで、自己催眠の本などを読み漁った時期もありました。それでもやっぱりトチってしまうことがあったりして、敵は自分にあるということを認めざるを得なくなり、「演奏家に向いてないのかも」と思ったりもしました。そんな中、ある時アガるんだったら仕方ない。そんな中でいいものを演奏していくんだと思って臨んだら、意外とうまくいくことがわかったんです。それからの僕は、「アガる」自分を認めて、それを前提に吹くことにしています。

今でも時々、とても緊張して「大丈夫かな?」と思った時、勝手に足が震え出すことがあります。そうしたときに「ああ、今日またアガってらぁ」って思うと、しばらくするとその状態を忘れて音楽に集中し、いつの間にか震えが止まっています。このように、アガっている自分の状態を認めて受け入れたら、意外とすんなりいくのかもしれません。

僕は経験を積んできたからこんな状態に達したのかもしれないけど、「アガらないようにするにはどうしたら?」と考えるより、「アガってしまう上でどう演奏したら?」と思って策を考えたほうがいいかもしれませんね。

お客さんはミスしない演奏を聴きにきているんじゃなくて、良い演奏を聴きにきています。それなのに演奏者が「ミスしたらどうしよう」とオドオドした演奏をしたらどうでしょう?そんな演奏は誰も期待していませんよね。それに、ステージに立つ時は普段と違う状態になって、緊張感が高まっているし、心拍数も相当上がっています。だからこそできることもあるんです。究極の状況だからこそ緊迫感のあるフレーズが実現したり、より悲しい表現ができたり……。

とは言っても、ここに達するには時間がかかると思うので、自分なりのジンクスを見つけるというのもいいかもしれませんね。おまじないのような言葉をつぶやいてからステージにあがると上手くいく(と思いこむ)とか、お決まりのフレーズをステージ脇で吹いてから出て行くとか。ちなみに、僕の場合は逆ジンクスです。「普段と違うことはしない」。本番前でも、赴くままに周りの人とおしゃべりしたり、コーヒーを飲んだり、一人きりでいる日もあったり、その日の気分を享受してしまうようにしています。

でもコンクールの時は少し様子が違いますね。ミスが命取りになるという強迫観念からスケールの小さい演奏になったりしてしまいがちです。そんな時は、自分はどうしてサックスを吹いているのか、サックスに憧れ、初めて楽器を手にしたときの感動、音が出た時の喜び、そんな気持ちを思い出してみてはどうでしょうか。

それから、緊張すると身体は硬くなっていますから、演奏前に軽くストレッチをして身体をほぐすことは大事だと思います。軽くですよ!疲れてしまっては本末転倒なので、深呼吸をする、手を動かす、胸を張って上半身をほぐす、肩の力を抜く、など。僕も必ずやっています!

深呼吸からの発想ですが、人間の身体は息を吸うとグッと緊張し、吐くとリラックスします。だから、深呼吸をするときはしっかり吐くこと。そしてもっと具体的にそのことを利用してみましょう。「ステージに出て、今から吹く」という時、その曲のテンポ・ニュアンスを感じて、2拍前で息を吐いて1拍前で息を吸って吹き始めると、まずうまくいきます。息が十分に入るので、ブレスコントロールがしやすいんです。でもこれは、普段の練習から「吐いて、吸って、吹き始め」ということをやっておかないと、いきなり本番だけやってもテンポ感が狂ったり出だしがおかしくなってしまいますから要注意です。

本番に臨むときの理想論、現実論、いかがでしょうか?いろいろ方法はありますが、前よりもちょっとでもアガらなくなったら、その時に自分を褒めてあげましょうね。そうすれば1歩ずつ、本番に強くなっていけるかもしれません。

皆さんがそれぞれのステージを楽しめるように、僕も応援しています!

※このコーナーは、「THE SAX」誌で2007年から2015年にかけて連載していた内容を再編集したものです

 

須川展也 Sugawa Nobuya

須川展也
日本が世界に誇るサクソフォン奏者。東京藝術大学卒業。サクソフォンを故・大室勇一氏に師事。第51回日本音楽コンクール管楽器部門、第1回日本管打楽器コンクールのいずれも最高位に輝く。出光音楽賞、村松賞受賞。
デビュー以来、名だたる作曲家への委嘱も積極的に行っており、須川によって委嘱&初演された多くの作品が楽譜としても出版され、20-21世紀のクラシカル・サクソフォンの新たな主要レパートリーとして国際的に広まっている。特に吉松隆の「ファジイバード・ソナタ」は、須川が海外で「ミスター・ファジイバード」と称される程に彼の名を国際的に高め、その演奏スタイルと共に国際的に世界のサクソフォン奏者たちの注目を集めている。
国内外のレーベルから約30枚に及ぶCDをリリース。最新CDは2016年発売の「マスターピーシーズ」(ヤマハミュージックコミュニケーションズ)。また、2014年には著書「サクソフォーンは歌う!」(時事通信社)を刊行。
NHK交響楽団をはじめ日本のほとんどのオーケストラと共演を重ねており、海外ではBBCフィル、フィルハーモニア管、ヴュルテンベルク・フィル、スロヴァキア・フィル、イーストマン・ウインド・アンサンブル、パリギャルド・レピュブリケーヌ吹奏楽団など多数の楽団と共演している。
1989-2010年まで東京佼成ウインドオーケストラ・コンサートマスターを22年余り務めた。96年浜松ゆかりの芸術家顕彰を表彰されるほか、09年より「浜松市やらまいか大使」に就任。2016年度静岡県文化奨励賞受賞。
サクソフォン四重奏団トルヴェール・クヮルテットのメンバー。ヤマハ吹奏楽団常任指揮者、イイヅカ☆ブラスフェスティバル・ミュージックディレクター、静岡市清水文化会館マリナート音楽アドバイザー&マリナート・ウインズ音楽監督、東京藝術大学招聘教授、京都市立芸術大学客員教授。
 

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