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vol.8「演奏する曲によってセッティングは変えたほうがいい?」

THE SAX vol.30(2008年7月25日発刊)より転載

最近のスガワ

読者の皆さん、こんにちは。いつも僕のコーナーに感想や質問を寄せてくれてありがとうございます。たくさんの人が「ためになった」「次回が待ち遠しい」などのコメントをくれて、とても嬉しく思うのと同時に気の引き締まる思いです。
さて、このところ僕はヤマハ吹奏楽団の指揮者(!)としてカナダへの演奏ツアー、帰国後は東京佼成ウインドオーケストラの国内ツアー等々、いろいろなところで演奏させてもらい、多くの人と触れ合う機会をいただきました。「移動が多くて大変そう……」というようなお気遣いのメッセージもいただきましたが、僕の活力はサックスを演奏すること、皆さんの声援を聞くことなんです! これからもたくさんメッセージをくださいね。
さあいよいよ夏本番。今年も暑〜い毎日が待っていますが、バッチリ体調管理をして、楽しくサックスを演奏していきましょうね。

 

 

演奏する曲によってセッティングは変えたほうがいい?

教えて須川さん

「吹奏楽で普段はクラシック向きのマウスピースやリードで演奏していても、ポップスやジャズを演奏するときはセッティングを変えて音色を変えたほうが良いのでしょうか?」

 

うーん、これは人それぞれに考え方があって、正解・不正解のない問題だと思います。今回は、「こうしたほうがいい/悪い」の話ではなく、僕個人の考えとして話をさせてください。

結論から言うと、僕はどんなジャンルの曲を演奏する際でもセッティングは変えません。僕の頭の中にあるのは、スタイルという発想。僕はクラシックプレイヤーなので、そのフィールドで自分が培ってきた能力の中で、その都度取り組む作品のスタイルを大事にして演奏するものだと思っています。ジャズだったら、そのスタイルに必要なアクセント、リズム、アーティキュレーションに向き合い、自分の使える奏法を駆使して演奏します。

マウスピースは、それぞれが“音色”に個性を持っていますから、変えた瞬間は「おっ!」と感じますよね。でも僕は、ジャズやポップスに対して、音色のイメージだけで成り立つとは思っていないんです。もちろん音色も大事だけど、それは表現のひとつであり、それに加えてリズム、フレーズ、ノリをしっかり出していかなければ成り立ちません。ですから、普段使い慣れたマウスピースで奏法をコントロールしながら、それらのジャンルを演奏するんです。使い慣れたものだと、「僕がこうアプローチするとこうなる」ということが解っている。その中で、タンギングの種類を変えたり、アンブシュアを少し変えたりしながらニュアンスをつけていきます。

マウスピースに関しては、本当にいろんな意見があります。人によっては「このマウスピースはジャズの音じゃない」とか「このセッティングでジャズをやるなんて」とか……。それは、その人にとって違うということで、別の人からみれば正解かもしれない。一口にジャズと言っても、過去の偉大なプレイヤー、そして現在活躍されているたくさんのジャズプレイヤー、一人として同じ音色ではありませんよね。だから、「これはジャズ」「ジャズじゃない」、その問題は音色などで判断できるものではなく、スピリットの問題だと思います。ジャズを演奏するスピリットを持ち、深く追い求めていく過程で、「このマウスピースじゃないと出せない音がある!」と感じた時が、セッティングを変えるタイミングなんだと思います。

その過程が、自分の音楽のバックグラウンドになっていきます。例えば僕は、クラシックがバックグラウンドにある。バッハやモーツァルトから伝統的に流れてきている音楽をベースとしていて、その中で作曲家や時代によって表現方法=吹き方を変えます。それと同じように、ジャズやポップスにアプローチしているんです。演奏する作品に対して練習段階で深く掘り下げていきますが、その時にマウスピースで変化する音色だけに頼らず、音楽のスタイルの深いところにたどり着き、こだわっていく中で、どうしてもこれは我慢ができないというくらい自分のマウスピースが物足りないと感じたら……もしかしたら変えることもあり得るでしょうけど、ここ20年、そういった理由で変えようと思ったことはありませんね。変えてしまうと自分の吹き方が安定しないし、キリがない(笑)。

まずは自分のベーシックなスタイルありきです。そこから作品に合わせて広げていくというのが、僕の考え方。僕の演奏がクラシックかポップスかっていうと、それは聴く人が感じて判断してくれればいいと思っているんです。どんな曲であれ、僕は「一つの音楽」だと思い、それを表現しているわけですから。

 

ちょっと難しい話になってしまいましたね。実は、こんなに偉そうに言えるのは、以前ニューサウンズ・イン・ブラスのレコーディングで失敗したことがあるからなんです(笑)。それまでポップスを録音するときにはいつも専門のプレイヤーが吹いていたのですが、ある時僕にポップスのソロを吹いてみないかと声がかかりました。嬉しくて、よーし!と気合いも入り、それ風のマウスピースを準備。そしてパッと吹いたときにそれっぽい音がして、自分では気持ち良く吹いていたつもりですが……録音されたものを聞いて愕然としました。ひどい音程、ひどい音色! そんなことがあって、落ち込み、学んだわけです。

 

楽器、マウスピース、リード。これらは、自分の音楽を出すための一つの手段です。それをどう自分が使いこなすか。現在、この手段にはたくさんの種類があるから迷ってしまうこともあるでしょう。そんな時に、パッと見た判りやすさだけで飛びついてしまわないで、広く長い目で可能性を見極めていくことが大事なのではないでしょうか。
自分の心の中に求めているものと一致するものを見つけられるのは、とても幸せなことだと思います。でもなかなか見つけられないでしょう。時には脱線したり失敗することもあると思いますが、手段を変えることで自分を変えていくよりも、ひとつの手段をコントロールして使いこなすことを考え、そこに限界を感じた時に変更していってもいいと思います。

※このコーナーは、「THE SAX」誌で2007年から2015年にかけて連載していた内容を再編集したものです

次回のテーマは「激動の日々を振り返る」。
世界を飛び回る須川さんの1ヶ月を振り返ります。お楽しみに!

 

須川展也 Sugawa Nobuya

須川展也
日本が世界に誇るサクソフォン奏者。東京藝術大学卒業。サクソフォンを故・大室勇一氏に師事。第51回日本音楽コンクール管楽器部門、第1回日本管打楽器コンクールのいずれも最高位に輝く。出光音楽賞、村松賞受賞。
デビュー以来、名だたる作曲家への委嘱も積極的に行っており、須川によって委嘱&初演された多くの作品が楽譜としても出版され、20-21世紀のクラシカル・サクソフォンの新たな主要レパートリーとして国際的に広まっている。特に吉松隆の「ファジイバード・ソナタ」は、須川が海外で「ミスター・ファジイバード」と称される程に彼の名を国際的に高め、その演奏スタイルと共に国際的に世界のサクソフォン奏者たちの注目を集めている。
国内外のレーベルから約30枚に及ぶCDをリリース。最新CDは2016年発売の「マスターピーシーズ」(ヤマハミュージックコミュニケーションズ)。また、2014年には著書「サクソフォーンは歌う!」(時事通信社)を刊行。
NHK交響楽団をはじめ日本のほとんどのオーケストラと共演を重ねており、海外ではBBCフィル、フィルハーモニア管、ヴュルテンベルク・フィル、スロヴァキア・フィル、イーストマン・ウインド・アンサンブル、パリギャルド・レピュブリケーヌ吹奏楽団など多数の楽団と共演している。
1989-2010年まで東京佼成ウインドオーケストラ・コンサートマスターを22年余り務めた。96年浜松ゆかりの芸術家顕彰を表彰されるほか、09年より「浜松市やらまいか大使」に就任。2016年度静岡県文化奨励賞受賞。
サクソフォン四重奏団トルヴェール・クヮルテットのメンバー。ヤマハ吹奏楽団常任指揮者、イイヅカ☆ブラスフェスティバル・ミュージックディレクター、静岡市清水文化会館マリナート音楽アドバイザー&マリナート・ウインズ音楽監督、東京藝術大学招聘教授、京都市立芸術大学客員教授。
 

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