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ホラークイーンとなった首を狩る美女は、どこから来たのか?

木村奈保子の音のまにまに|第59号

最近話題の北海道、ススキノの首狩り事件がなんとも衝撃的だ。
「レイプ、女装、LGBT,SM、首狩り、復讐、快楽趣味、刃物コレクション、ダンスクラブ、多重人格、ゴスロリ、仮面、ドクロ……」
さまざまな要素が、ニートの美女、瑠奈と父親の精神科医がからみ、まるで映画のサイコサスペンスのような様相で興味深い。
いまのところ、解明に向けて親子3人ともが「鑑定留置」で、異例の半年もの期間、精神鑑定を行なうことが決定した。

そもそも、なぜ「3人とも逮捕」からスタートしたのか。
まさか、女性ひとりの力では物理的に不可能という発想からだったが、結果としては女ひとりで実行したことが明らかになる。
それでも、瑠奈がひとりで現場にいたことがわかってもなお、親子計画説は消えていない。

それは、殺人に関する買い物から現場への送迎まで、父親の密着した娘へのケアサポートがあったからだろう。
自立していない娘のあとをついてまわる父親=ヘリコプター・ペアレントとの過保護な環境がどんな事件を生みだすのか?
精神科医なら、想像は難しくないはずである。

昨今、親の過保護は、虐待と同義語になり、愛し方を間違った親への警告として使われる。
そこには、無意識でも親の子供に対する支配力があり、自分の元から羽ばたいてほしくない親の気持ちが根っこにあるとされる。
子供が自立するための羽根をもぎとってしまう親の誤った愛の支配感によるものでもある。
もっとも、犯罪者の脳の問題、生育歴は重要な犯罪の要因となるが、ただ本件を追うと、29歳でも、未成年女子のような扱いのような気がする。

瑠奈の家族は、父親が医師というステイタスがあるため、一見普通の家族に見えるが、実際は今回の犯罪を起こさなくても、すでに大きな問題を抱えていたのではなか。一番の問題は、子供の心を知ることより、世間体、体裁を保つ親の姿勢にあるのかもしれない。
ハリボテのような空虚な家族ごっこのなかで、いつ、子供の心が爆発するのか?
親はやがて支配関係の逆転を受け入れるしかなく、子供の止められないスイッチ・オンに至るまでただ、なすすべもなく曲がった道をひきずりまわされていただけなのかもしれない。
親は、少なくとも事件の計画や指示まではしていないと私は思うのだが。
娘に対して、対面する会話などなく腫物を触るような関係で、話ができるような状態ではなかったと推察するが、どうだろう。

刃物のコレクターである29歳の女性、瑠奈は、用意周到に、女装した男をおびき出し、ホテルの一室で首を狩る光景を自身で撮影。
わずか3時間で、部屋を汚さず、首を手土産に帰り去った。
同日深夜2時、事件直後というのに、瑠奈は父親の送迎付きで、別のディスコになにごともなかったかのように出かけたという。
またその後、獲得した首を瑠奈がお風呂場で眺めながら撮影している動画も確認されたという。

この動画を誰が撮影したのか、という疑問符をいくつかのニュースで投げかけていたが、瑠奈本人に決まっている。
すでに殺人動画をスマホではなくビデオカメラをセッティングしてまで撮っているのだから、家での自撮りも自ら行うと思う方が自然だ。
スマホに瑠奈と被害者が連絡しあった形跡がないというが、いまどきいろんなアプリがある。
マッチング系アプリ等でやりとりが先にあり、出会いの場となったディスコイベントの日には、親密なダンスができたのではないだろうか?

それにしても、動機が不明だ。
初期のニュースで報じられた女装男にレイプされた瑠奈の復讐なのか、はたまた女装男は快楽殺人のターゲットに選ばれただけなのか?
あるいは、いずれにも、当てはまるのか? どれも当てはまらないのか?
容疑者の家から猟奇的ホラー映画のDVDが出てくることが少なくない。
今は、配信もあるので、どんなものを見ていたのか、知りたいところ。
いや、瑠奈は、むしろ自分が撮った映像を特殊なルートで配信しようとしていたのではないか?

こうした異常な事件で、たいてい発見されるのは、一般のホラーファンが見るタイプとは別ランクの残酷映画の部類である。
この事件が起こったときに、昨年公開の日本映画「オカムロさん」が思い浮かんだ。

江戸時代から伝わるという集団首狩り事件を題材にしたスラッシャー・ホラーで、「オカムロ来りて、首を狩る」をキャッチに、首がすぱんすぱんと血しぶきとともに飛びはねる。
少女が首を狩るシーンは、気合いの目つきも血しぶきもリアルで、なんともグロい。
ホラーファンの私でも、一人で夜に見るのは怖すぎる。
おちゃめでクリエイティブなホラーキャラなら余裕で楽しめるのだが、という私の感性はもう古いのか、その線引きが現代変わってきている。
若者の間では、刺激度を競う傾向にあるようで、残虐すぎ、とはならないのようなのだ。

 

一方「マスクガール」(NETFLIX 8月より配信中)では、仮面をつけたナイスバディのヒロイン、マスクガールが、BJ(ブロードキャスティングジョッキー=韓国の動画配信でパフォーマンスを配信する人)として登場したことから、性的事件に巻き込まれ、これを機に復讐劇が雪だるま式に展開するドラマシリーズ。

ことの始まりは、ヒロインがオタク男に追われ、レイプされてしまうところから。
一見、野暮でまじめそうな男が、期待を裏切り、豹変して自分の欲望だけを満たそうと襲ってくるのだ。
マスクガールは、犯されたその場でナイフを首に突きつけ、スパーンと斬りつける。彼女のスイッチ・オンの緊迫感がリアルでこの迷いのない復讐の運びは、立て続けに関わった悪い男たちに対する悲しみの感情によりはじき出されたエネルギーだろう。

そもそもが、顔に自信がなく、仮面の中に顔を隠しながらパフォーマンスを提供していたマスクガールが、怒りの方向にスイッチ・オンした瞬間に、アサシン的ダークキャラが全開となる。

ススキノ事件の容疑者、瑠奈も仮面マスクをコレクションしていたというから、もしレイプされていたとしたら、本作のダークなヒロイン像に重なる部分があるかもしれない。
何重もの仮面をかぶらざるを得なくなった瑠奈が心の扉を、あけるときは来るのだろうか?

 

MOVIE Information

『オカムロさん』
[監督・脚本]松野友喜人
[出演]吉田伶香、バーンズ勇気、伊澤彩織、内田寛崇
[原題]オカムロさん/173分/R15+/日本
[配給]エクストリーム
[公式HP]https://okamurosan.com/

『マスクガール』
[監督]キム・ヨンフン
[出演]コ・ヒョンジョン、アン・ジェホン、ヨム・ヘラン、ナナ、イ・ハンビョル 他
[原題]마스크걸/7部作410分/韓国
※Netflixで配信中
[公式HP]
https://www.netflix.com/jp/title/81516491

 

N A H O K  Information

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