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vol.26「ご質問にお答えします」

THE SAX vol.48(2011年7月25日発刊)より転載

最近のスガワ

読者の皆さん、こんにちは。今年も暑い夏がやってきました。今年は日本国民全員が力を合わせて節電などに取り組み、震災からの復興を目指す“熱い夏”とも言えます。とはいえ、身体を壊してしまっては本末転倒。節電もほどほどに、好きなことに没頭して、健やかな毎日を過ごしましょうね。
さて、僕が当コーナーを担当して早4年以上が経ちました。この間、読者の皆様から励ましのメッセージやご質問をいただいています。今回はそのいくつかにお答えしてみましょう。

 

 

ご質問にお答えします

教えて須川さん

サックスが大好きで、音楽大学に進学したいと考えています。担任の先生に相談したところ、「音楽は趣味で続けたほうが、ずっと楽しく接することができる」と言われました。須川さんはどうやってプロになることを決めたのですか?

もちろん、人一倍練習をしたり、自分をプロデュースしなくてはならない大変な苦しみはあるけれど、音楽家は、たくさんの人に喜んでもらえる素敵な仕事のひとつではないでしょうか。ただ、プロになれるかなれないかというのは本人も周りも分からないことだし、なるとしても相当な努力を積まなければならない。そしてなによりチャンスに恵まれなくてはなりません。その覚悟ができるのであれば、目指してみてもいいと思います。
バロメーターとしては、自分が音楽を大好きであることも大事ですが、普段、周りの人たちが自分の演奏を聴いて幸せな気持ちになってくれたという実感があれば、チャンスかもしれません。要するに、人の心を動かせたかどうか。いくら自分は大好きだと思っていても周りの人があまり反応してくれないようであれば、一回慎重になる必要があるかもしれません。その時に専門の先生にしっかりとレッスンを付けてもらいながら決断してもらう方法もあると思います。
趣味で楽しく続けるにしても、努力はしないといけません。趣味というのはコツコツやって上達するからこそ楽しいものなのですから。いずれにしても、好きだという気持ちだけではなくて、目標のために努力を続けていけるか、自己成長と周りの反応のバランスを取りながら研鑽を積んでいけるかが見えた時に、決められるんじゃないかと思います。

 

教えて須川さん

サックスを始めて1年半です。なかなか良い音が出ないので曲を吹いても気分が悪く、このごろはサックスを吹くのがつらくなってしまいました。スランプでしょうか。こうした状況を抜け出すには、どうしたらいいのでしょうか。

だいたいスランプというものは、自分が作り出してしまうものです。サックスを始めて1年半。今まではきっと、いろんなことが“できるようになる”という実感があったでしょう。そして、“これからこうしたい、こうなりたい”という自己主張が出てくる時期でもあり、どうにももどかしさを感じる時期です。そう、ここがあなたにとって最初の壁。あなたは今成長しているんです。とても大事な時期ですよ。
残念ながらこれから先、1日や2日で突然上手くなれるものではありません。それをスランプと思わずに「成長している時なんだ」と思って自分をやさしく見ていきましょう。
レッスンに通っているならば、先生から与えられた曲(課題)があると思います。それは自分のやりたい曲と少し違っている時があるかもしれません。それで「できない」と感じてしまう。ならば、大好きなスタイルの曲……どんなジャンルの曲でもいいので吹いてみてワクワクすることがあったら、それがチャンスです。できないからといって与えられた課題曲だけに向かい合っていると自分をどんどん追い詰めてしまいます。そういう時は以前自分が大好きだった曲を吹いてみると、最初のころの楽しい気持ちがよみがえってくる。最初に「音が出た!」「メロディが吹けた!」という喜びを振り返ってみるだけでも良いかもしれませんよ。曲を変えて様子を見てみましょう。

 

教えて須川さん

ロングトーンをしてもいまいち音が良くなりません。音が良くなるロングトーンとは、どんなものですか?

まずは、何のためにロングトーンをするのか、何のためにこの曲を吹いているのかということを考えてみましょう。ロングトーンはただ伸ばすだけで良いわけではありません。金管楽器全般では「口を安定させるために」とか「楽器を良く響かせるために」という意味合いもありますが、リード楽器の場合はリードが鳴ってくれているので、「そのリードをどのように振動させるか」ということの訓練です。つまり、リードを振動させていて、1つ目の音から2つ目の音にどのように音楽を持っていくかということがロングトーンの練習と言えます。たとえば、「ド」から「レ」にいくのに音が震えないように繋げたいのであれば、それに適したロングトーンの練習があります。サックスの場合は、一例として音階を使って全音域をどのように繋げていくかを考えながらやります。ほとんどの音楽は次の音に繋げていくものですから、進んだり落ち着いたりする、その方向を考えながらロングトーンを行なっていると、先が見えてきます。ただ音を作るためだけ、音が震えないようにするためだけにと思ってしまうともったいない。ロングトーンの方向性を考えて、緊張感を持たせたり安堵感を感じて吹いてみたり、いろいろと考えながら吹いてみるだけでも変わるのではないでしょうか。

 

次回のテーマは「本番ステージに臨むにあたって」。
本番に向けて一生懸命に練習するのはもちろんのこと、ステージに出る心構えや衣装など、準備しておきたいことについてお話しします。お楽しみに!

※このコーナーは、「THE SAX」誌で2007年から2015年にかけて連載していた内容を再編集したものです

 

須川展也 Sugawa Nobuya

須川展也
日本が世界に誇るサクソフォン奏者。東京藝術大学卒業。サクソフォンを故・大室勇一氏に師事。第51回日本音楽コンクール管楽器部門、第1回日本管打楽器コンクールのいずれも最高位に輝く。出光音楽賞、村松賞受賞。
デビュー以来、名だたる作曲家への委嘱も積極的に行っており、須川によって委嘱&初演された多くの作品が楽譜としても出版され、20-21世紀のクラシカル・サクソフォンの新たな主要レパートリーとして国際的に広まっている。特に吉松隆の「ファジイバード・ソナタ」は、須川が海外で「ミスター・ファジイバード」と称される程に彼の名を国際的に高め、その演奏スタイルと共に国際的に世界のサクソフォン奏者たちの注目を集めている。
国内外のレーベルから約30枚に及ぶCDをリリース。最新CDは2016年発売の「マスターピーシーズ」(ヤマハミュージックコミュニケーションズ)。また、2014年には著書「サクソフォーンは歌う!」(時事通信社)を刊行。
NHK交響楽団をはじめ日本のほとんどのオーケストラと共演を重ねており、海外ではBBCフィル、フィルハーモニア管、ヴュルテンベルク・フィル、スロヴァキア・フィル、イーストマン・ウインド・アンサンブル、パリギャルド・レピュブリケーヌ吹奏楽団など多数の楽団と共演している。
1989-2010年まで東京佼成ウインドオーケストラ・コンサートマスターを22年余り務めた。96年浜松ゆかりの芸術家顕彰を表彰されるほか、09年より「浜松市やらまいか大使」に就任。2016年度静岡県文化奨励賞受賞。
サクソフォン四重奏団トルヴェール・クヮルテットのメンバー。ヤマハ吹奏楽団常任指揮者、イイヅカ☆ブラスフェスティバル・ミュージックディレクター、静岡市清水文化会館マリナート音楽アドバイザー&マリナート・ウインズ音楽監督、東京藝術大学招聘教授、京都市立芸術大学客員教授。
 
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