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vol.29「イメージを実際のものにするために」

THE SAX vol.51(2012年1月25日発刊)より転載

最近のスガワ

読者の皆さん、こんにちは。輝かしい新年を迎えられ、新しい目標に向かって前進されていることと思います。今年もサクソフォーンとともに、充実した一年にしたいものですね。
さて、2012年最初のShall We SAX!では、「良い音を作るにはどうしたらよいか?」について考えてみたいと思います。このコーナーにも「良い音を作るための練習方法を教えてください」という趣旨の質問を多数いただきます。果たして良い音を得るための「誰にでも効果テキメンな方法」が存在するのでしょうか? たとえば、ただロングトーンをすればいいのでしょうか? この機会に根本的なところから考え直してみましょう。

 

 

イメージを実際のものにするために

「良い音を作るには、好きなプレイヤーの音をイメージしなさい」とアドバイスされたことがあるでしょう。読者の皆さんにはもちろん好きなプレイヤーはたくさんいるでしょうし、いろんな演奏も聴いているけれど、果てさてそれが自分の音にどう生かされてくるのか、よくわからないという方が多いと思います。「好きなプレイヤーの音をイメージする」。この言葉はとてもよく的を得ているのですが、たしかに具体性には欠けますね。しかし、そのアドバイスをくれた人も、その言葉の意味を考えていろいろと模索して実践してきた中で「良い音」を得ていったのだと思います。と言うのも、先生に「自分がこうしたからこうしなさい」という方法論をアドバイスされたところで、誰もがその方法で良い音をつかめるとは限らないのが、楽器の難しいところであり、面白いところでもあるんですね。

人間はひとりひとり骨格も違うし、「良い音」とするものも違います。良い音のイメージは人それぞれであり、それにいかに近づいていくかは、それぞれ相応の道を見つけ出さなければならないんです。もちろん、イメージがあれば指導者もアドバイスしやすいでしょうし、「良い音とするもの」のイメージを持ち、その音をよく聴いておくことによって、上達していく過程で「どうしようかな」と迷った時の道しるべになります。今はいろんなスタイル、いろんな音色を持ったプレイヤーがたくさんいますから、その中から一番自分が素直に「いいな」と思える音を見つけておくこと。たくさんの音を聴いておくことで、選択肢を得ることができるんです。


逆に、その目標とする音を見つけることをしなかったらどうなるでしょうか。漠然とただ、「サックスの良い音」と考えても、思い浮かばないんじゃないでしょうか。だって、サックスの音に正解はないのですからね。好きな音を持っていれば、おのずと練習の時にその音を目指しているはずです。

楽器の道というのは、「こういう音を出したい」と思ってはじめて、音作りが始まるんです。自分の中に「良い音」のイメージがあれば、楽器やマウスピースが持っている音色がそれに近いのか遠いのか、判断できると思いますし、指導者も、その人のイメージに近いものを紹介してあげられるのです。

好きな音はみんなあると思います。その音にあこがれる気持ちがあるからこそ、練習するわけですよね。吹いてみたい曲も、あなたの頭の中ではあこがれの音で奏でられているはずです。

ではその音に近づくには? これはもう“継続”しかありません。ここで大事なのが、ただずっとやればいいのではなく、頭の中に好きな音を思い浮かべながらの継続です。イメージをすることによって練習の目的が見つかり、練習が好きになる。目指すものが明確でない練習など、練習ではないですからね。
サックスの音に好奇心を持つこと。好きな音を見つけられれば、おのずと自分の音にも好奇心がわいてくると思います。「どこがどう違うのか?」そう考えることで、練習でやるべきことが見つかると思います。好きなプレイヤーの演奏を繰り返し聴くことで、自分の演奏との違いが見えてくる。「音の切り方が違うんだ!」と気づけば、その練習をするでしょうし、「もっと明るい音色だな」と思えば、マウスピースやリードを探すきっかけにもなります。とにかく好奇心を持つことが、上達の第一歩なんです。
僕がクリニックなどで中高生と接すると、彼らはよく「基礎練習の仕方を教えてください」と言ってきますが、基礎練習というものはいろんな内容のものがあるし、その人のレベルによっても変わってきます。クリニックの1~2時間の中で語れるようなものじゃないんですね。そんなときに僕が話すのは、教則本と吹奏楽部で用意された曲だけを練習するのではなく、少しの時間でもいいから自分の好きなメロディをソロで練習してみてください、ということ。好きこそものの上手なれとはよくいったもので、やはり好きな曲を吹けるように努力することが、一番の上達に繋がるんですね。「好きなこの曲を上手に吹きたいから、どうすればいいか」という観点で、自分の演奏を聴くことができる。自分の足りない点を見つけられるんです。何のために楽器を吹いているのか、サックスにあこがれた当初の気持ちを振り返ること、そこから発想がわくと思います。目的意識をはっきり持ち、自分からポジティブに動いていく。たくさんの演奏を聴いて、良い音を見つけて、そのためにどういう練習をしたらいいか考えて、実践する。目的意識を持つことこそが、上達につながるのです。「良い音をみつけた、そんな音を出したい」と気づいた時点で、次に何をすればいいのかは、おのずと見えてくるでしょう。

 

次回のテーマは「良いパートリーダーって??」。
パートリーダーとしてのプレッシャーに悩む人は多いもの。役割を果たすためにはどうすればいいのでしょう?そんな質問にお答えします!

※このコーナーは、「THE SAX」誌で2007年から2015年にかけて連載していた内容を再編集したものです

 

須川展也 Sugawa Nobuya

須川展也
日本が世界に誇るサクソフォン奏者。東京藝術大学卒業。サクソフォンを故・大室勇一氏に師事。第51回日本音楽コンクール管楽器部門、第1回日本管打楽器コンクールのいずれも最高位に輝く。出光音楽賞、村松賞受賞。
デビュー以来、名だたる作曲家への委嘱も積極的に行っており、須川によって委嘱&初演された多くの作品が楽譜としても出版され、20-21世紀のクラシカル・サクソフォンの新たな主要レパートリーとして国際的に広まっている。特に吉松隆の「ファジイバード・ソナタ」は、須川が海外で「ミスター・ファジイバード」と称される程に彼の名を国際的に高め、その演奏スタイルと共に国際的に世界のサクソフォン奏者たちの注目を集めている。
国内外のレーベルから約30枚に及ぶCDをリリース。最新CDは2016年発売の「マスターピーシーズ」(ヤマハミュージックコミュニケーションズ)。また、2014年には著書「サクソフォーンは歌う!」(時事通信社)を刊行。
NHK交響楽団をはじめ日本のほとんどのオーケストラと共演を重ねており、海外ではBBCフィル、フィルハーモニア管、ヴュルテンベルク・フィル、スロヴァキア・フィル、イーストマン・ウインド・アンサンブル、パリギャルド・レピュブリケーヌ吹奏楽団など多数の楽団と共演している。
1989-2010年まで東京佼成ウインドオーケストラ・コンサートマスターを22年余り務めた。96年浜松ゆかりの芸術家顕彰を表彰されるほか、09年より「浜松市やらまいか大使」に就任。2016年度静岡県文化奨励賞受賞。
サクソフォン四重奏団トルヴェール・クヮルテットのメンバー。ヤマハ吹奏楽団常任指揮者、イイヅカ☆ブラスフェスティバル・ミュージックディレクター、静岡市清水文化会館マリナート音楽アドバイザー&マリナート・ウインズ音楽監督、東京藝術大学招聘教授、京都市立芸術大学客員教授。
 
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