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vol.38「音を磨く[その3]」

THE SAX vol.60(2013年7月25日発刊)より転載

最近のスガワ

読者の皆さん、こんにちは。このコーナーでは今一度「音を磨く」ということをテーマに、3回に渡ってお話ししています。初回は「のびやかな響きのある豊かな音作り」について、前回は「発音と音の処理」について考えてきました。そして今回は最後の項目として、音楽的な話をしてみたいと思います。一つひとつの音を美しく出すのはもちろん大切ですが、我々はその音のみを人に聴かせるのではありません。美しいメロディを奏でるには、その美しい音同士をどうつなげていくかを考え、実践しなければならないのです。

 

 

音を磨く[その3]

メロディは、音の繋がりで成り立っています。いくら最初の音が美しかったとしても、次の音に移るときに脈絡なく大きな音を出したり、最後まで変わらず同じ調子で音を出してしまったらどうでしょう? それは機械的なロングトーンと同じことですよね。

というわけで早速具体的なことを挙げてみると、特別にアクセントやフォルテなどの指示がない限り、基本的にフレーズの最後の音は前の音よりもちょっと小さく吹きます。これが一つめ。二つめは、メロディの中で短い音と長い音が続くときには、短いほうに少し息を多めに入れて、長いほうをちょっと少なめにします。8分音符4つと2分音符があった場合は、8分音符のほうに息を多めに入れて、2分音符をちょっと弱めに吹いてあげる。これで音の繋がりがなめらかに聞こえますが、あくまで“ちょっと“の世界です。この“ちょっと”のさじ加減が、ステキなニュアンスを生むか生まないかの勝負になってくるわけですね。

三つめは、アウフタクト(弱起)について。例えば4分の4拍子の曲において最後の4拍目から音楽が始まることをアウフタクトと言います。その4拍目は音楽のエネルギーとしては次の1拍目に向かいたいわけで、こういうとき、基本的に向かいたい音のほうが到達した音より大きいんです。

このように、僕がいつも強調するのは「音の方向を意識しましょう」ということです。「この音は、感情が高まって次の音に向かっているのか?」それとも、「同じ状態で続いているのか」、はたまた「落ち着いていくのか」。この3つに多くのものは大別できると思います。緊張か解放か。これもキーワードです。メロディを構成する一つひとつの音について、そのイメージを意識することで音の方向を出せます。だいたい、短い音は長い音に行きたい、調和したいという感情の場合が多いですから大きく吹いて、到達した長い音は少し落ち着いて小さめの音になる、というわけですね。

そして四つめは、ヴィブラートの問題。ヴィブラートも、音の方向を示す材料のひとつになります。長い音符にヴィブラートをかけていくわけですが、全体にわたって均等なヴィブラートをかけているだけだと、音楽の方向性が見えにくくなってしまいます。例えば2分音符だとして、次の音に向かいたいときはちょっとヴィブラートの波を速くしていこうとします。「いこうとする」とは、運動量としてたくさんの波が入る速さにするという問題ではなく、速いヴィブラートになるような感情の高まりを表す、ということです。厳密に言うとヴィブラートで方向を出すというよりも、向かう音は微妙なクレッシェンドがあって、同じ音を保つ場合は平静に、落ち着いて行く場合はディミヌエンドを伴ったヴィブラートにすると、方向性が出せると思います。

音楽の方向性については、ここではイメージの部分だけを話していますが、とても奥深いものです。例えば<ドミナント、サブドミナント、トニック>といった和音の流れにも、トニック(主和音)に向かおうとする音の方向はもちろんあります。メロディの進行を和声と共に感じられると音の方向性もより具体的に理解できると思いますが、今言いたいのは「ストイックに分析しなさい」ということではなく、「音楽が好きな人だったら感じられるでしょう」ということ。例えばハ長調で「ドミソ」→「ソシレ」→「ドミソ」という和音が連続するとして、「ソシレ」は生き生きとした感じで「ドミソ」は安堵感がある、と「感じられる」でしょう?
ちなみにドミソは主和音、ソシレは属和音です。属和音から主和音に戻ったとき、ちょっと小さめに弾くとホッとすると思います。メロディの中にはこうした場面がいたるところに見られますので、生かしていってほしいと思います。

以上、3回にわたってお届けした「音を磨く、演奏を洗練するコツ」。いかがでしたか? 音の響きや処理についてのベーシックなことと、今回お話しした音楽のことがありました。音楽を美しく聴かせるためには、一生懸命ロングトーンばかりして音だけを磨くだけでは、実際にメロディを演奏した時にはもの足りません。その美しく磨いた音は、どう使うかによって生かせるものなんです。僕がよくするアドバイスは、例えば吹奏楽でサックスを吹いている人は、自分のパート譜だけを練習するので精一杯かもしれませんが、時間を見つけて、お気に入りの名曲の“歌う”メロディをキレイに格好良く吹こうと思って、実際にやってみてください、ということです。好きなメロディだったら、「こう吹きたい」という意思が生まれてきますから、そのイメージに近づくためにこの1〜3章のことを照らし合わせてみてほしいですね。

また、特に今回の内容はプレイヤーのセンスにかかってくる問題ですが、皆さんがステキだと思う演奏を聴く時にその部分に注目(聴)するだけでも、自身の演奏に影響を与えてくれると思います。音色に注目する、ヴィブラートに注目する、強弱や音の処理の仕方に注目する。楽譜には書いてない微妙な音の抑揚(ニュアンス)に皆さんが気付くことができれば、自分の演奏にも取り入れることができ、美しいメロディを奏でるという大きな目標に近づくことができるでしょう。

 

次回のテーマは「サックスバンドでサックスの魅力をまるごとお届けします!」。
ソロやカルテットだけではない、大きな編成で表現できるサックスの魅力について伝えます。お楽しみに!

※このコーナーは、「THE SAX」誌で2007年から2015年にかけて連載していた内容を再編集したものです

 

須川展也 Sugawa Nobuya

須川展也
日本が世界に誇るサクソフォン奏者。東京藝術大学卒業。サクソフォンを故・大室勇一氏に師事。第51回日本音楽コンクール管楽器部門、第1回日本管打楽器コンクールのいずれも最高位に輝く。出光音楽賞、村松賞受賞。
デビュー以来、名だたる作曲家への委嘱も積極的に行っており、須川によって委嘱&初演された多くの作品が楽譜としても出版され、20-21世紀のクラシカル・サクソフォンの新たな主要レパートリーとして国際的に広まっている。特に吉松隆の「ファジイバード・ソナタ」は、須川が海外で「ミスター・ファジイバード」と称される程に彼の名を国際的に高め、その演奏スタイルと共に国際的に世界のサクソフォン奏者たちの注目を集めている。
国内外のレーベルから約30枚に及ぶCDをリリース。最新CDは2016年発売の「マスターピーシーズ」(ヤマハミュージックコミュニケーションズ)。また、2014年には著書「サクソフォーンは歌う!」(時事通信社)を刊行。
NHK交響楽団をはじめ日本のほとんどのオーケストラと共演を重ねており、海外ではBBCフィル、フィルハーモニア管、ヴュルテンベルク・フィル、スロヴァキア・フィル、イーストマン・ウインド・アンサンブル、パリギャルド・レピュブリケーヌ吹奏楽団など多数の楽団と共演している。
1989-2010年まで東京佼成ウインドオーケストラ・コンサートマスターを22年余り務めた。96年浜松ゆかりの芸術家顕彰を表彰されるほか、09年より「浜松市やらまいか大使」に就任。2016年度静岡県文化奨励賞受賞。
サクソフォン四重奏団トルヴェール・クヮルテットのメンバー。ヤマハ吹奏楽団常任指揮者、イイヅカ☆ブラスフェスティバル・ミュージックディレクター、静岡市清水文化会館マリナート音楽アドバイザー&マリナート・ウインズ音楽監督、東京藝術大学招聘教授、京都市立芸術大学客員教授。
 
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