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vol.37「音を磨く[その2]」

THE SAX vol.59(2013年5月25日発刊)より転載

最近のスガワ

読者の皆さん、こんにちは。前回からこのコーナーでは今一度「音を磨く」ということをテーマに、ポイントを3つに絞ってお話ししています。前回は1つ目、「のびやかな響きのある豊かな音作り」について、姿勢やアンブシュア、ロングトーンについてアドバイスしました。2つ目のポイントは「発音と音の処理」です。メロディを吹いたり伴奏をするにしても、その時の音の出方と終え方が雑になると、どんなに真ん中の音が響いていても美しく聞こえるものではありません。そのために、発音と音の処理のトレーニングは日頃短い時間でもいいので心がけるようにするといいと思います。

 

 

音を磨く[その2]

まず、発音の時の一番の問題となるのはタンギングです。タンギングのことを口で例を出すときによく「タタタ」とか「タン」とか言いますね。人差し指をあごに当てて「タタタタタ……」と言ってみるとわかると思いますが、あごが動きます。発音の時にあごが動くと、最初に音が詰まってその後開いてしまうので、「タ」ではなく「トゥ」と考えましょう。「トゥ」も同じように、人差し指をあごに当てて言ってみると、あごは動きません。そしてさらに、舌の先に意識を集中してみましょう。「トゥ」と言った瞬間、舌の先にちょっと緊張感というか、堅くなる感覚、わかりますか? それが、いい発音のポイントになります。ここをうまくコントロールできると、強いタンギング、やさしいタンギングなど、発音の能力は相当高くなります。とはいえ、いざ楽器を吹くとなると感覚がかわってうまく発音できないという人が大多数だと思います。そこで、具体的な練習方法を紹介しましょう。

楽器を構え、マウスピースをくわえたら、アンブシュア一定のまま、息を入れていきます。最初から音を出すのではなく、少ない量の息からだんだん増やしていくと、必ずどこか音が出るポイントがあります。この練習を何度も繰り返して「このくらいの量の息が入ったら音が出る」というポイントをつかんだら、今度は音が出る瞬間に、舌を使って「トゥ」と言ってみます。そのタイミングがピッタリ合うようになれば、良い発音で音が出る可能性が高くなります。

これが難しい人は、最初から舌をリードにつけておき、息を入れていって鳴りそうになった時に舌を軽く素早く離してみることによって音が出る、ということを何度も体験してみると良いでしょう。息を入れていって音が鳴るポイントのところで軽く舌がリードに触れる。イメージ的には、熱いものに手が触れたときパッと離しますよね。その感じで舌がパッと離れると、いいタンギングになるんです。ベチャッと触ってしまうのではなく、あくまで軽く、速く離すことです。この練習に慣れてきたら、スケールを使って全部の音を試してみると、さらに良いと思います。

自分はタンギングが得意!という人でも、もう一度確認してみてください。音によって微妙に出るタイミングが違いますから、全部できているとは限りません。音によっては、舌先を軽くではなくベチャッとつけることで、無理矢理出しているものもあるかもしれません。

あとは、簡単な8分音符が続くスケールやエチュードで、8分音符を16分音符に分けて練習することによって、舌の敏捷性を高めることができます。8分音符のスタッカートが続いた時などに音がはじけてしまったり、つぶれてしまったりすることに悩んでいる人も多いと思いますが、16分音符2つにして綺麗な音が出るようにしてからスタッカートにする練習をすると、だいぶスムーズにいくのではないかと思います。

発音のトレーニング、舌のことというのは、実は上級者にとっても大事なことなのです。例えば、低音のシの音をピアニッシモで出すというのはもう、至難の業です。こういう時は、僕も未だに「ノータンギングから音の出るポイントを確認する」練習を時々やっています。

さて、これでいい発音ができるようになれば、もうかなりのものです。ただし我々サックス奏者は、音をどう止めるか、ということにも注意しなければなりません。きれいなメロディは、最後音が終わっても「〜ン」と余韻が残っていると思いませんか? これは意識してやらなければならないことです。4拍の長さの音を出すとしたら、1、2、3、4拍目の頭で切って余韻、いわゆる響きを残します。最後の響き「ン」は、聴覚上は次の拍の頭まで残っているということを意識しながら、1拍かけて余韻のある切り方を練習していきましょう。

次に、4拍目の頭でフッと息を止めて、余韻があまりないような止め方をやってみます。舌で止めてはいけません。クラシックの場合は、基本的に音を止める時は息を止めるだけです。ただし、息を止めた時にアンブシュアがゆるんだら音程が下がってしまいますから、余韻がなくなるまでちゃんと音程を保たなければなりません。また、音を止める最後の最後までヴィブラートをかけるのも問題です。ヴィブラートの波が下に行っている時に音を止めると低く聞こえてしまいますから、ヴィブラートをかけた状態で4拍目の頭で余韻を持たせて止める場合は、3拍目までヴィブラートをかけ、余韻が出る前に止めるようにしましょう。

この発音と音の処理の仕方は、普段からいつも気にしておくことが何より大切です。特別に発音と処理の練習をしている時でなくても、ロングトーンの時に「最後音程が下がってないかな」とか「ヴィブラートかけすぎてないかな」と気にして、おかしいなと思ったらこの章のベーシックトレーニングをするとよいと思います。

さて次回、3つめのポイントは音楽的な話になります。一つひとつの音を美しく出すのはもちろん大切ですが、我々はその音を人に聞かせるのではありませんよね。美しいメロディを奏でるには、その美しい音同士をどうつなげていくか、というお話です。お楽しみに!

 

次回のテーマは「音を磨く[その3]」。
磨いた音で美しいメロディを奏でるには、音楽的な演奏をして聴く人を感動させるには、どんなことを意識すれば良いのでしょうか?全3回の締めくくりです!

※このコーナーは、「THE SAX」誌で2007年から2015年にかけて連載していた内容を再編集したものです

 

須川展也 Sugawa Nobuya

須川展也
日本が世界に誇るサクソフォン奏者。東京藝術大学卒業。サクソフォンを故・大室勇一氏に師事。第51回日本音楽コンクール管楽器部門、第1回日本管打楽器コンクールのいずれも最高位に輝く。出光音楽賞、村松賞受賞。
デビュー以来、名だたる作曲家への委嘱も積極的に行っており、須川によって委嘱&初演された多くの作品が楽譜としても出版され、20-21世紀のクラシカル・サクソフォンの新たな主要レパートリーとして国際的に広まっている。特に吉松隆の「ファジイバード・ソナタ」は、須川が海外で「ミスター・ファジイバード」と称される程に彼の名を国際的に高め、その演奏スタイルと共に国際的に世界のサクソフォン奏者たちの注目を集めている。
国内外のレーベルから約30枚に及ぶCDをリリース。最新CDは2016年発売の「マスターピーシーズ」(ヤマハミュージックコミュニケーションズ)。また、2014年には著書「サクソフォーンは歌う!」(時事通信社)を刊行。
NHK交響楽団をはじめ日本のほとんどのオーケストラと共演を重ねており、海外ではBBCフィル、フィルハーモニア管、ヴュルテンベルク・フィル、スロヴァキア・フィル、イーストマン・ウインド・アンサンブル、パリギャルド・レピュブリケーヌ吹奏楽団など多数の楽団と共演している。
1989-2010年まで東京佼成ウインドオーケストラ・コンサートマスターを22年余り務めた。96年浜松ゆかりの芸術家顕彰を表彰されるほか、09年より「浜松市やらまいか大使」に就任。2016年度静岡県文化奨励賞受賞。
サクソフォン四重奏団トルヴェール・クヮルテットのメンバー。ヤマハ吹奏楽団常任指揮者、イイヅカ☆ブラスフェスティバル・ミュージックディレクター、静岡市清水文化会館マリナート音楽アドバイザー&マリナート・ウインズ音楽監督、東京藝術大学招聘教授、京都市立芸術大学客員教授。
 
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