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vol.36「音を磨く[その1]」

THE SAX vol.58(2013年3月25日発刊)より転載

最近のスガワ

読者の皆さん、こんにちは。今年もまた、新生活スタートの時期を迎えましたね。春は心も浮き立ち、何をしてもうまくいくような気分にさせてくれるすばらしい季節です。新しいことを始めるにはもってこいの今、僕のコーナーでは今一度「音を磨く」ということをテーマに考えてみたいと思います。

「どうしたらいい音が出せるでしょうか?」これは、このコーナーのみならず僕がいろんなところで尋ねられることです。その答えは一言ではとても言い表せませんし、技術面、メンタル面、いろんな方向からのアプローチもあると思いますが、僕なりの「音の磨き方」として、今回から3回に分けてお届けしていきましょう。

 

 

音を磨く[その1]

サックス奏者のみならず、楽器を扱う人は皆さん常に「良い音を出したい」と思っているでしょう。初心者でも上級者でも、良い音を求める姿勢は同じ。そしてそれは終わりのない永遠のテーマでもあります。

人それぞれ、理想とする音はあるでしょう。その理想の音に近づくためには、長い時間を使ってコツコツと努力し、目標に近づくために練習する根気強さがまず必要だと思います。しかし、ただ理想の音を思い描いているだけでは実際にその音にはなかなか近づけません。

僕は、理想とする音をより明確に、実現に近づけるために、3つのセクションに分けて考えることを提案します。

 

1つ目は、伸びやかな響きのある豊かな音作り

2つ目は、発音音の処理・切り方

3つ目は、隣の音とのつなげ方

 

この3項目を練習し、全部のバランスがとれた時に、美しい音、美しい演奏につながっていくのではないかと思います。

 

では早速、1項目ずつ考えていきましょう。

1つ目の「伸びやかな響きのある豊かな音作り」。これは、純粋にひとつの音をポーンと出しただけで響いた感じを出すためには、どういうことを注意すればいいかということですが、当然、基本的な奏法のチェックが大事になってきます。

まず姿勢。リラックスした良い状態で、正しい姿勢と言われている立ち方、座り方で楽器が無理なく構えられているか。基本的なことですが、そこが偏っていると、音に無理な力が入ってしまいます。一番息が入る姿勢、自然に息が入る姿勢というのは、割と背筋が伸びてまっすぐ立っている状態だと思います。何か特別な姿勢をしようとすると、演奏中に余分なことを考えることになるので、普段から正しく立つ、座ることを意識せずにできるようにしておくことです。

たくさん息が入る状態の身体を保ったら、アンブシュアのチェックです。マウスピースのくわえ方ですね。基本的に、アルトサックスはマウスピースの先端から1cmくらいのところに上の歯が当たるのを理想としています(人それぞれ歯の形によって多少の調整は必要になります)。そして下の歯の位置は、割と上の歯とかみ合わせが合っている状態……というのが、僕がよく言っているアンブシュアの形です。そして口の中は、「イ」とか「ヒ」の形ではなく、どちらかというと舌の真ん中が少しへこんで「オ」や「ホ」と言っているように、口の中に球があるような状態がいいと僕は思います。その状態をうまく保って、上の歯にバランスの良い圧力がかかれば、ピュアな音が出せるのではないでしょうか。

小さい音を吹いているときはきれいでも大きくなると音がつぶれやすい人がいると思いますが、それは口の中が狭くなりすぎていることが原因のひとつかもしれません。音を大きくするときに力が加わって「イー」という感じになる。それがサックスの響きを妨げているんじゃないかと思います。心当たりのある方は、チェックしてみてください。

 

さて、「伸びやかな響きのある豊かな音作り」の具体的な練習方法としては、もちろんロングトーンが有効です。スケールを使って、ひとつの音を4拍程度長く伸ばし、まっすぐきれいに響いているかを考えながら任意の調性(日々変えましょう)を全音域で吹くことを、僕はいつも薦めています。さらに、スケールを使って少し速い動きをした後、最後に長い音をロングトーンする練習を加えると、より演奏の状態に近づけて実感がつかみやすいのではないかと思います。目的は「美しい音で演奏すること」であり、「美しいロングトーンをすること」ではありませんからね!

そしてヴィブラートの練習については、ヴィブラートをかける、かけないという感じで交互にやると、さらに充実したものになります。ヴィブラートをかけるとやはり音の響きが広がった感じがしますし、サクソフォーン独特のやわらかさを出せますから、やはり日頃の練習からヴィブラートをかけてチェックすることも大事です。ヴィブラートのことを書き出すと長くなりますから別の機会にじっくりやるとして、そのトレーニング方法は、メトロノームに合わせて波を均等にかけるといった代表的かつ効果的な練習法がありますので実践してほしいですし、他の資料なども合わせてそれぞれで勉強してみてください。

 

次回は2つめの「発音と音の処理・切り方」について考えていきます。実際に演奏するとき、我々はひとつの音だけで演奏するわけではありませんよね。メロディを吹いたり伴奏をするにしても、その時の音の出方と終え方が雑になると、どんなに真ん中の音が響いていても美しく聞こえるものではありません。それを克服するために、発音と音の処理のトレーニングが必要なのです。では次回をお楽しみに!

 

次回のテーマは「音を磨く[その2]」。
発音のコントロールと、音の処理についてアドバイスします。これに気をつけると、アンサンブルにもまとまりが出てきますよ。お楽しみに!

※このコーナーは、「THE SAX」誌で2007年から2015年にかけて連載していた内容を再編集したものです

 

須川展也 Sugawa Nobuya

須川展也
日本が世界に誇るサクソフォン奏者。東京藝術大学卒業。サクソフォンを故・大室勇一氏に師事。第51回日本音楽コンクール管楽器部門、第1回日本管打楽器コンクールのいずれも最高位に輝く。出光音楽賞、村松賞受賞。
デビュー以来、名だたる作曲家への委嘱も積極的に行っており、須川によって委嘱&初演された多くの作品が楽譜としても出版され、20-21世紀のクラシカル・サクソフォンの新たな主要レパートリーとして国際的に広まっている。特に吉松隆の「ファジイバード・ソナタ」は、須川が海外で「ミスター・ファジイバード」と称される程に彼の名を国際的に高め、その演奏スタイルと共に国際的に世界のサクソフォン奏者たちの注目を集めている。
国内外のレーベルから約30枚に及ぶCDをリリース。最新CDは2016年発売の「マスターピーシーズ」(ヤマハミュージックコミュニケーションズ)。また、2014年には著書「サクソフォーンは歌う!」(時事通信社)を刊行。
NHK交響楽団をはじめ日本のほとんどのオーケストラと共演を重ねており、海外ではBBCフィル、フィルハーモニア管、ヴュルテンベルク・フィル、スロヴァキア・フィル、イーストマン・ウインド・アンサンブル、パリギャルド・レピュブリケーヌ吹奏楽団など多数の楽団と共演している。
1989-2010年まで東京佼成ウインドオーケストラ・コンサートマスターを22年余り務めた。96年浜松ゆかりの芸術家顕彰を表彰されるほか、09年より「浜松市やらまいか大使」に就任。2016年度静岡県文化奨励賞受賞。
サクソフォン四重奏団トルヴェール・クヮルテットのメンバー。ヤマハ吹奏楽団常任指揮者、イイヅカ☆ブラスフェスティバル・ミュージックディレクター、静岡市清水文化会館マリナート音楽アドバイザー&マリナート・ウインズ音楽監督、東京藝術大学招聘教授、京都市立芸術大学客員教授。
 
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