フルート記事
ヤーノシュ・バーリント│THE FLUTE vol.194 Cover Story

コミュニケーションを楽しみながら、音楽が彩る人生をともに歩む

コロナ禍を経て7年ぶりの来日、そして本誌のCover StoryにはVol.151以来の登場となるバーリント氏。今回初演の『シェエラザード組曲』を含む濃厚なプログラムを演奏し、大盛況となった東京公演の直前にお話を伺うことができた。教え子や同僚など周りの人々を大切にする慈愛に満ちた人柄が、文面からも伝わるだろう。
取材協力:パール楽器製造株式会社/通訳・翻訳:横内絢/Photo:森泉 匡(屋外写真のみ)

パンデミックを経て

パンデミックで音楽活動に変化はありましたか?
バーリント
(以下B)
パンデミックには本当にすべての人々がショックを受けました。演奏会はキャンセル、すべての芸術活動は休止となりました。リハーサルが始まっていたハンガリー国立フィルハーモニー管弦楽団の公演もすべてキャンセルで、コンサートホールも学校も、どこもかしこも閉鎖。これがハンガリー国内の状況でした。
それまで25年間の音楽活動は、いつも目まぐるしく息つく間もなかったので、私にとっては歩みを緩める本当に良い休息の時間となりました。移動、リハーサル、演奏と3、4ヶ月の間にたったの1日も休みがないことも多かったのです。“週末”なんてありませんでしたから。
2学期制の春学期はオンラインの授業でした。バラトン湖(ブダペストから130㎞ほど西にある中央ヨーロッパ最大の湖)のほとりにセカンドハウスがあり、妻と娘とずっとそこで過ごしました。その夏の終わりにハンガリーは一度規制が緩くなりましたが、11月にはまた行動制限で閉鎖となりました。ドイツも同様に2、3か月オンライン授業をしては規制緩和、そしてまた行動制限。その繰り返しでした。
その後、世の中ではゆっくりと演奏活動の再開が認められていって、現在ヨーロッパでは演奏会や音楽祭なども行なわれ、以前とほぼ同じような状態に戻っています。ハンガリーでもオーケストラをはじめとする様々なコンサート活動は従来どおりになっていますし、どのコンサートも会場はいつも満席です!
音楽活動が再開となったことはとても嬉しく思います。レコーディングや演奏会、オーケストラや室内楽との共演など、主にソロの演奏で多くの招待を受けています。
特に印象的なのは「フィレンツェ5月音楽祭管弦楽団(指揮ズービン・メータ氏)」の首席フルート奏者を決めるオーディションに、特別審査員として招待されたことです。このオーディションは第4次審査まであって、最後の第4次審査ではオーケストラと共演します。しかもそのオーケストラはズービン・メータ氏自らが指揮を振るのです。メータ氏は大変優しい人柄で、受験者が間違っても「失礼! 今のは私のミスですから!」なんて声をかけることもあるんですよ(笑)。
メータ氏とは「どのようなタイプのフルート奏者を必要としているのか?」を入念に話をして、彼の求める演奏家を探すようにしました。審査は順調に良き信頼関係で進み、最後の瞬間まで揉めることもなく満場一致で決定し、大変雰囲気の良いひとときとなりました。メータ氏が私の方針を信じてくれたことが嬉しかったです。

次ページにインタビュー続く
・パールフルートとの出会い
・世界初演『シェエラザード組曲』
・母国・ハンガリーの音楽教育について
・ドップラー兄弟の作品について \ONLINE限定!/
・先生として個々と向き合う
・一流の演奏家であり続けるために

 
Profile
ヤーノシュ・バーリント
ヤーノシュ・バーリント
János Bálint
1961年ハンガリー生まれ。ブタペストのフランツ・リスト音楽院卒業後、84年のアンコーナ(イタリア)をはじめライプツィヒ等の国際コンクールに入選。81〜91年にはハンガリー放送交響楽団、2000〜07年までハンガリー国立フィルハーモニー管弦楽団の首席奏者を務める。86年よりシフラ財団のソリストとして国際的なキャリアを広げ、ヨーロッパの主要都市、イスラエル、アメリカにも招かれる。90年からセゲド音楽院、94年からロヴィゴ音楽院、96年からはリスト音楽院でも教授を務めた。多くの現代作曲家が彼のために作品を書いており、その世界初演も多く、数々の賞を受賞している。2008年にはハンガリー最高位の音楽藝術賞を受賞。文科省によるフランツ・リスト賞とハンガリーの教育賞の両賞を受賞。元ハンガリー国立交響楽団首席奏者。現在、デトモルト音楽大学教授。
 
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