フルート記事
ワルター・アウアー│THE FLUTE vol.195 Cover Story

ウィーン・フィルに入団して20年。今も昔も変わらない、音楽への愛と情熱。

2003年にウィーン・フィルハーモニー管弦楽団、ウィーン国立歌劇場管弦楽団へ入団し、今年で在籍20年を迎えるワルター・アウアーさん。世界中を駆け巡り多忙を極める中、その活躍はオーケストラだけにとどまらず、ソリストや大学での後進の指導なども務めている。トップクラスのオーケストラで演奏し続ける中でのエピソードや、音楽に対しての思い、プライベートとのバランスなど、節目となるこのタイミングでお話を伺うことができた。
インタビュアー・翻訳:中田裕文、写真:河野英樹、取材協力:株式会社三響フルート製作所/株式会社プロ アルテ ムジケ

ウィーン・フィルでの20年

2003年にウィーン・フィルに入団されて今年で20年ですね。ご自身の気持ちや音楽に対する考え方に何か変化はありましたか? 逆に揺るがないものは何でしょうか?
Auer
(以下A)
それはいい質問ですね。何が変わって、何が変わっていないのかということですよね。変わっていないと思うことは音楽に対する愛情です。それはDNAの基本的な部分に違いないと思います。体の中に流れているものです。フルートが好きなことは当然ですが、基本的には音楽が好きなのです。
今度の9月で入団20年目の記念の年になります。ありがたいことにオーケストラ自身も変わってきています。そうじゃないと退屈すぎますからね。それに加えて優秀な若い人たちが入ってきて、彼らはたくさんの新しいことを持ち込んできてくれます。10年前または私が入団した20年前にも、それぞれそういう新しいものがオーケストラに持ち込まれています。新しい人たちがオーケストラに入団するとき、もちろん皆さんとても上手いのですが、結局は「5年後にはもっと良くなっているだろう」とか、まだその人の良さを発見できていないけれど、今後もっと良くなるであろうポテンシャルを感じさせてくれる人と契約します。指揮者が変わったりいろいろな作曲家の作品を演奏したりすることによって、その人自身がどんどん変わっていくんですね。そして私もオーケストラの中で演奏していて変化していきます。音色的な変化や音楽について考えたり、作曲家について考えたり。そういうことが毎日を、そして人生を楽しくしてくれます。
例えばベートーヴェンの『交響曲第5番』は偉大な曲ですよね。そしてこの曲に対してできることの可能性はたくさんあります。音楽の質には限界がありませんが、根本的なその曲の偉大さは変わらない。ベートーヴェンの5番はいつまでたっても5番のままです。100年経っても、我々がこの世からいなくなっても、この曲、音楽は残り続けます。だから芸術は大切なのです。
そして変化についてのポジティブな考え方として、オーケストラの技術面が向上していくための努力をすることです。もちろん昔のオーケストラも技術はありましたけれども、楽器もどんどん変わっていきますし、音程については常に問題意識を持っています。どんどん進歩させていかなければなりません。音色についての感覚、音楽に対する感覚、解釈はいろいろあり様々な方向へ発展していきます。それは時間をかけてゆっくりと変わっていくもので、それを見ていくのはとても楽しいです。ウィーンではすばらしい歌手もたくさん来ますが、彼らと指揮者のコンビネーションによる相乗効果によって生まれてくるものがたくさんあります。
ウィーン・フィルでの20年間で、印象的な出来事を1つ挙げるとしたら何ですか?
A
それはたくさんありすぎて。例えばロストロポーヴィチの最後の演奏会でドヴォルザークの『チェロ・コンチェルト』がありました。指揮者は小澤征爾さんで、そのとき私もフルートで参加していましたが、その2人が揃っているというのも印象的でした。2003年の入団したての頃には、午前中にズービン・メータ氏とのリハーサルがあり、午後はリカルド・ムーティーとの録音があり、夜は小澤征爾さんの指揮でオペラの演奏会がありました。1日に3人の指揮者と仕事をするなんてウィーンらしいですよね。この20年間にすばらしい方々と共演して自分も発展することができました。
そうそう、今思い出したけれども、ムーティーとウィーン・フィルとの日本ツアーや、ティーレマンと『英雄の生涯』のプログラムで初めて演奏旅行に行ったときのことは印象に残っています。ここではどういうふうに響かなければいけないのか、この展開はどういうふうになるのか、カーネギーホールの響きはどうか、ザルツブルクのホールの響きはどうかなど、私はいつも驚かされていました。このオーケストラはなんてすばらしい演奏をするんだと、若いながらにとても誇りに感じていました。オペラは事前練習なしに演奏するのですが、オーケストラは信じられないくらい良い反応を示しながら演奏します。 決して忘れられないのは、2006年にニコラス・アーノンクールと『フィガロの結婚』をザルツブルクで共演したときのことです。このときの上演は「私はなんて幸せなんだろう」と感じさせてくれました。もう、喜びしかなかったです。
オーケストラに入って20年。忘れてはならないのは、まずはこのオーケストラに入団させてもらえて、そのあとも団にいさせてもらえたこと。信じられないくらい親切で良いフルートのグループだったこと、とてもすばらしいチームで密に働けたこと。そして一番大事なことは一緒に音楽を作り上げたことです。ウィーンの仲間たちと一緒に働けて、お互いに助け合いながら仕事をしていくという、シンプルでとても良い仕事環境を持つことができました。

次ページにインタビュー続く
・私が生徒に問う理由
・たくさんのアイデアを与えてくれる楽器
・音楽を愛情深く表現する
・仕事にプライベートに
・モーツァルト、そして邦人作品 \THE FLUTE ONLINE限定!/

 
Profile
ワルター・アウアー
ワルター・アウアー
Walter Auer
ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団、ウィーン国立歌劇場管弦楽団首席フルート奏者。ソリストとしてウィーン・フィルハーモニー管弦楽団、ブルサ国立交響楽団、日本センチュリー交響楽団、京都市交響楽団、九州交響楽団、山形交響楽団など、世界各国のオーケストラと共演している。ヨハネス・フォン・カルクレウスに学んだ後、ザルツブルク・モーツァルテウム音楽大学にてミヒャエル・コフラー、ベルリン・フィルハーモニー・オーケストラアカデミーにてアンドレアス・ブラウに師事。オーレル・ニコレに薫陶も受ける。その後ドレスデン・フィルハーモニー管弦楽団、ハノーファー北ドイツ放送フィルハーモニー管弦楽団の首席奏者を経て、2003年よりウィーン・フィルハーモニー管弦楽団、ウィーン国立歌劇場管弦楽団の首席奏者を務めている。ウィーン国立音楽大学教授。
 
Information
ワルター・アウアーさんCDリリース情報
 

「SEGUE」(8月リリース)
[演奏]ワルター・アウアー(Walter Auer/flute)
ヤネス・グレゴリッチ(Janez Gregorič/guitar)
[収録曲] A.ピアソラ:タンゴの歴史/ L.アルカレイ:アン・パッサン ほか
[CD紹介] 「Segue」はお馴染みのものと馴染みのないものをシームレスに組み合わせたCDで、ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団ソロフルーティストのワルター・アウアーの黄金の音色と、ヤネス・グレゴリッチの7弦 Kreul-Carlevaroモデルのギターとの組み合わせによる演奏。言うまでもなくピアソラの「タンゴの歴史」とドビュッシーの「シリンクス」は、いずれも20世紀の傑作で、ルナ・アルカレイの「アン・パッサン」や、ヤネス・グレゴリッチの初録音とともに感動を引き出している。「Segue」は「移り変わる音」と解釈できる。

 
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