フルート記事 水の精霊と大地の響き─物語と自然を描く二人のまなざし
[1ページ目│記事トップ
THE FLUTE vol.209 特別企画│物語を紡ぐ美しき旋律 UNDINEとEARTH

水の精霊と大地の響き─物語と自然を描く二人のまなざし

MUSIC

今号は特別号として、ライネッケの『フルート・ソナタ“ウンディーネ”Op.167』と、村松崇継作曲『EARTH』の2作品を収録した。なかでも『ウンディーネ』は根強い人気を誇り、「いつか取り上げてほしい」という声が以前から寄せられていたものの、ソナタやコンチェルトのように本格的な構成を持つ作品は難易度が高く、伴奏音源付きで紹介する本誌ではなかなか実現に至らなかった。しかし「本格的な作品に取り組む機会があってもよいのでは」という意見が後押しとなり、ついに収録が実現した。
一方の『EARTH』は、高木綾子氏に献呈された美しいメロディが印象的な名曲で、フルート愛好家からの支持も高い。『ウンディーネ』に挑戦するには少しハードルを感じる読者にも手に取りやすい作品として選んだもので、難度と親しみやすさのバランスを意識した本誌らしい組み合わせとなった。

録音を担当してくれたのは実力派フルーティストの鎌田邦裕氏。ダイナミックさと繊細な音色とを巧みに使い分ける実力派フルーティストである。ぜひ音源と本誌後半のアナリーゼ楽譜で、作品とその音色をお楽しみいただきたい。(文:編集部)

鎌田 邦裕 Kunihiro KAMATA
1993年山形県鶴岡市生まれ。鶴岡市立鶴岡第三中学校、山形県立鶴岡南高等学校、京都市立芸術大学音楽学部を卒業し、同大学大学院音楽研究科を修了。第91回日本音楽コンクール フルート部門 第2位及び岩谷賞(聴衆賞)、イギリスで開催された第1回リバプール国際フルートコンクール第1位、スロバキアで開催されたブラチスラバ舞台芸術アカデミー国際フルートコンクール 第3位など多数受賞。また、京都市より「京都市文化芸術きらめき賞」を受賞。ソリストとしては、2014年より山形にて毎年リサイタルを開催。2021年より京都・東京・鶴岡の3都市にて リサイタルツアーを開催。2023年3月には山形県での開催10回記念公演を行った。2023年9月に在スロバキア日本国大使館の協力により首都・ブラチスラバでコンサートを開催。これまでに、松尾葉子指揮・セントラル愛知交響楽団、Konstantin Ilievsky指揮・スロバキア放送交響楽団、工藤俊幸指揮・山形交響楽団、井﨑正浩指揮・酒田フィルハーモニー管弦楽団と共演している。さらに朗読劇など劇伴音楽の演奏出演や、クラシックと昭和歌謡の響宴による演奏会の企画・開催といったジャンルを超えた多岐に渡る活動にも注目が集まり、ラジオなどメディアへの出演や、フルート専門誌『THE FLUTE』には単独インタビューが掲載された。これまでにフルートを佐藤裕里、故・足達祥治、大平記子、大嶋義実、富久田治彦、藤井香織、中川佳子、ワルター・アウアーの各氏に、室内楽を安藤史子、大嶋義実、上田希の各氏に師事。現在は東京、鶴岡、京都の三拠点で、オーケストラへの客演や、ソロ・室内楽の演奏、後進の指導に力を注ぎ、演奏会では一流の音楽はもとより、分かりやすい解説と軽快なトークによって、初めてでも楽しめるクラシック音楽を届けている。さらに鶴岡市より「鶴岡ふるさと観光大使」を委嘱され、故郷の魅力を発信している。

三上 翼 Tsubasa MIKAMI
青森市出身。12歳よりピアノを始める。青森県立青森高等学校を経て、京都市立芸術大学音楽学部音楽学科ピアノ専攻を首席で卒業。卒業時に京都市長賞、および第1回真声会賞を受賞。卒業後に渡欧し、オーストリア国立モーツァルテウム音楽大学大学院修士課程ピアノ演奏科を満場一致の最高点を得て首席で修了。その後ドイツ国立ライプツィヒ音楽演劇大学マイスター課程にて学ぶ。ピティナピアノコンペティションYbカテゴリー全国決勝大会第1位。第17回フッペル鳥栖ピアノコンクール第1位。第6回オーディン国際音楽コンクール第1位(エストニア)、第3回ダヌビア・タレンツ国際音楽コンクール第2位(ハンガリー)。第17回パオラ・サロモン・リントベルク歌曲コンクール優秀伴奏者賞(ドイツ)。ソリストとして、京都市立芸術大学管弦楽団、バートライヒェンハル管弦楽団(ドイツ)と共演。これまでに青山音楽財団および、教育活動においてDAAD(ドイツ学術交流会)より奨学金を授与。令和6年度秋吉台国際芸術村やまぐちアーティスト支援事業採択。ピアノを対馬正道、浜田ゆか、植田克己、上野真、ロルフ・プラッゲ、クリスチャン・A ・ポールの各氏に、室内楽をボツェーナ・アンゲローバ、テュンデ・クルツ、ボリス・クズネツォフの各氏に、歌曲解釈法を上野洋子氏に師事。山口県美祢市の公立小学校(全教科・学級担任)を経て、現在、慶應義塾幼稚舎、初台音楽教室に勤務。

Information
鎌田邦裕CDセカンドアルバム
「U-N-I-T-Y」好評発売中!
2025年8月に故郷の山形県鶴岡市で開催されたリサイタルのライブ音源を収録。女性作曲家たちが紡いだ調和と共鳴の響きが、会場の空気とともに甦る。
〈収録曲〉
プロイセン王女 A. アマーリア:フルート・ソナタ ヘ長調/C. シューマン:3つのロマンス Op.22/M.ボニス:フルート・ソナタ Op.64/C. シャミナード:コンチェルティーノ Op.107/L.ブーランジェ:春の朝に/S.グバイドゥーリナ:森の音/上林裕子:廃墟の風/V.コールマン:ファンミ・イメン

ライブ録音:2025年8月5日 @荘銀タクト鶴岡 大ホール(山形)
演奏:鎌田邦裕(フルート)、三上翼(ピアノ)
☆購入は、鎌田邦裕オフィシャルホームページ
https://www.kamatakunihiro.com/ にて

 

楽曲紹介

フルート・ソナタ 『“ウンディーネ” Op.167』

それぞれの作品を見ていこう。
まずは『ウンディーネ』から。

フーケの「ウンディーネ」

先に書いたように1882年に書かれたこの作品は、フーケの小説「ウンディーネ」に着想を得て作曲され、ライプツィヒ音楽院教授でありゲヴァントハウス管弦楽団首席フルート奏者のヴィルヘルム・バルゲ(Wilhelm Barge/“バーゲ”とも言われる)に献呈されている。1884年1月12日、アメデ・ドゥ・フロエ(Amédée de Vroye) のフルートと作曲者ライネッケ自身のピアノ伴奏により、ライプツィヒで初演された。全楽章にわたり“水”を想起させるような美しいメロディがふんだんに盛り込まれている作品だ。悲恋の物語ではあるものの、ロマン派の作品らしい美しいメロディが印象的である。

◆第1楽章 Allegro
ホ短調 6/8拍子 ソナタ形式。フルートがウンディーネを想起させる第1主題を提示する。水や波のテーマと人間の魂への憧れが書かれている。

◆第2楽章 間奏曲:Allegretto vivace
ロ短調 2/4拍子 スケルツォ楽章。中間部は Più lento, quasi Andante。精神の飛翔と、人間の世界を対比している楽章。

◆第3楽章 Andante tranquillo
ト長調 4/4拍子 三部形式。愛情あふれる楽章で、途中、水の世界からの邪魔が入る。

◆第4楽章 Allegro molto agitato ed appassionato, quasi Presto
ホ短調 4/4拍子 ソナタ形式。フルートが第1主題を提示し、ピアノは後を追う形になる。最後はホ長調に転じて静かに結ばれる。騎士フルブラントの裏切りにより大洪水が起きてしまう。水の精の掟に従いウンディーネは水によってフルブラントの命を奪うことに。そしてその後、水がいつまでもフルブラントの墓の周りを流れる。

Carl Reinecke カール・ライネッケ

ライネッケは『ウンディーネ』以外にも、『フルート協奏曲 Op.283』『フルートとピアノのためのバラード Op.288』を作曲している。またモーツァルトの『フルートとハープのための協奏曲』のカデンツァを書いたことでも知られている。
ライネッケは1824年6月23日にドイツのアルトナに生まれ、7歳のころには作曲をし、12歳で初の公開演奏を行なっている。後にライプツィヒに移り、メンデルスゾーンやシューマンに師事し、作曲家フェルディナント・ヒラーに請われてケルン音楽院で教えるようになり教授となる。1860年にはライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団の楽長も務め、ブラームスの『ドイツ・レクイエム』の初演の指揮を担当した。ライプツィヒ音楽院の院長を務めた後、1902年にすべての公職から引退し1910年3月10日にライプツィヒで没した。
当時としては85歳という長寿のため、多くの作品を遺した。晩年になってからの自作の演奏なども録音に残っており、特にモーツァルトの『ピアノ協奏曲第26番“戴冠式”』の2楽章が有名で、CDにもなっている。
ライネッケが遺した作品で現在出版されているのは300曲ぐらいだが、未出版を含めると1000曲以上と言われており、その分野も多岐にわたる。彼自身がピアニストでもあったことから、ピアノ作品がもっとも多い。ライネッケの楽曲の特徴は初期にはショパンやシューマンの影響が色濃く、晩年にはブラームスの堅固な構成力が加わった。
ただ一貫してテクニック的に難易度の高いものは用いなかったため、死後はそれほど頻繁に演奏されてはいなかったようだ。

フルートの作品に限ってみていくと、『ウンディーネ』『協奏曲』『バラード』がライネッケの代表的な作品である。
『協奏曲』はゲヴァントハウス管弦楽団首席フルート奏者のヴィルヘルム・バルゲ(『ウンディーネ』を捧げた奏者)の後任のフルート奏者マクシミリアン・シュヴェードラーに献呈された作品で、ライネッケの最後の協奏曲でもある。3曲の中でも技巧的なフレーズも多く、今日でも数多く演奏されている。
『バラード』は、3曲の中でも演奏頻度はそれほど多くはないが、『協奏曲』と同じく晩年の作品で、ロマン派によく見られる様々な表情が表現されている。

村松崇継『EARTH』

『EARTH』の作曲者 村松崇継は、1978年生まれ。18歳でオリジナルソロアルバム「窓」でデビュー。国立音楽大学在学中に角川映画「狗神」の音楽を手がけたことをきっかけに映画、テレビドラマ、CMなど幅広いジャンルの音楽手がけた。
特に映画で印象深いのが映画「64-ロクヨン-前編」だ。「8年越しの花嫁 奇跡の実話」と2年連続の日本アカデミー賞優秀音楽賞を受賞している。
楽曲では、イギリスの少年合唱団リベラの代表曲とも言える『彼方の光』も代表曲の一つ。日本では2006年に放送されたNHK土曜ドラマ「氷壁」の主題歌としてお茶の間の人々の耳を楽しませてくれた。
今号で収録した『EARTH』は、2003年に高木綾子さんがリリースしたアルバム「Earth〜フルート名曲の旅」に収録した楽曲。村松自身がブログで「一人のフルート奏者が世界中を旅しているイメージです。そしてそのフルート奏者は、旅をしている中で大切なことに気づきます」と書いている。
この作品はフルートソロとピアノ伴奏、という概念ではなく、二人で音楽を作り上げるという壮大な内容で、「演奏者の方は、オーケストラだと思い、ここは何の楽器なのか、想像を膨らませてください」と語っている(村松氏のブログより)。
この曲もピアノ伴奏トラックもダウンロードできるので、ぜひチャレンジしてほしい。

 

 

THE FLUTE vol.209 連動音源ダウンロード

鎌田邦裕さん、三上翼さんがが演奏する、フルート・ソナタ『“ウンディーネ” Op.167』と『EARTH』演奏&ピアノ伴奏音源がダウンロードできます!

※定期購読[配本のみ]プラン、定額オンライン[配本セット]プランを含む
・雑誌をご購入の方は、無料会員登録および誌面に記載しているアクセスコードの入力が必要になります。
・定期購読[配本のみ]プランの方は雑誌に同梱の『ダウンロードのご案内』に記載のアクセスコードの入力が必要になります。
・配布期間終了後に定額オンラインまたは定期購読をお申し込みいただいたお客様につきましては、アルソオンライン(info@alsoj.net)までお問い合わせください。

\ダウンロードはこちらから!/

ダウンロード案内

【定期購読(配本のみ)プランの方へ】
音源をダウンロードするためには、アルソオンラインへの会員登録が必要です。電話などインターネット以外で、アルソ出版通信販売部で過去にご注文のある方や、フジサンマガジンサービスで雑誌をご購入いただいた方は、新規で会員登録をせずに、お問合せフォームまたは、info@alsoj.net までメールアドレスとお名前をお知らせください。

【ダウンロードデータ・コンテンツに関して】
掲載されている著作物の全部または一部を、権利者に無断で複製または転載し、頒布し、他に送信することは、著作権の侵害にあたり、著作権法により罰せられます。
ダウンロードデータの提供は予告なく終了することがあります。あらかじめご了承ください。

[CLUB MEMBER ACCESS]

この記事の続きはCLUB会員限定です。
メンバーの方はログインしてください。
有料会員になるとすべてお読みいただけます。

1   |   2   |   3      次へ>      



フルート奏者カバーストーリー