第32回|「プレリュード Op.28-4」(ショパン)
こんにちは! 2本のフルートとピアノのトリオ【kokoro-Ne(ココロネ)】です。グランプリファイナル、全日本と熱戦が繰り広げられました。オリンピック代表も決まり、楽しみも増してきました。
今シーズンから島田高志郎選手と“いくこう”カップルを結成して、アイスダンスとシングルの二刀流で活躍する櫛田育良選手のシングルフリー『プレリュード Op.28-4』(ショパン)をご紹介します。

フレデリック・ショパン(Frédéric François Chopin 1810または1809-1849、ポーランド)

“前期ロマン派を代表する”
“ピアノの詩人”
“誰でも知ってる(聞いたことがある)”
いくつも代名詞をつけられるほど、作曲家どストライクのショパン。その名がついたピアノコンクールがあるくらいですもんね。肺結核に悩まされた40年という短い生涯をほぼピアノ曲に費やし、今も多くの人に愛される多くの名曲を生み出しました。
フィギュアスケートでも
・『幻想即興曲』荒川静香さん
・『ノクターン』浅田真央さん
・『ショパン・メドレー』パトリック・チャン
・『バラード 第1番』羽生結弦さん
など、挙げきれない名プログラムがあるように、稀代のメロディメーカーでもあります。内側にある感情を繊細に音で表現しているから聴く人の心を動かし愛され続ける、なんていう解説もよく耳にしますが、その辺りのショパン論はその道の方にお任せするとして。
難易度も曲の魅力も兼ね備えた上に、作風も「ショパンっぽい」とわかる中にもバリエーションの豊かさがあって、聴くたびにこの世に誕生してくれたことを尊く思います。それ故、「幻想即興曲」や「バラ1」のように、フルートでは再現が難しい(もしくは残念なことになる)曲も多々です。
『プレリュード Op.28』(1839年)
全24曲の小さなピアノ曲集。第7番は「太田胃酸」のCM(*)で日本でもお馴染みです(若い方は知らない!?)。
文字通りの何かの導入で演奏するためではなく、前奏曲風の作品として出版の数年前から着手していたそうです。ショパンはこの時期、作家ジョルジュ・サンドと深い関係にあり、彼女の支えと自身の体調不安の両方を抱えながら作品を書いていたと言われています。
長短24調のすべてを使用して書かれ
第1番:C-Dur 第2番:a-moll
↓
第3番:G-Dur 第4番:e-moll
のように、長調と平行短調→そのまた属調(5度上)で並べられています。全体的に派手ではないけれども、1曲ごとのコントラストが素晴らしく、そして美しい。ただ単に、全24調性を制覇!というよりは、曲調と各調性のキャラクターの組み合わせに必然性があるように思います。
第29回の『サウンド・オブ・サイレンス』で、調性の大切さや試作したe-mollがボツになった話を書きましたが、この曲は逆に♪シーシシー♪以外考えられません!
と言いながら、この超個人的な調性感も、もしかしてショパンに躾けられたのものではないか!?と疑いを持ち始めてしまう……それくらい調性との調和が素晴らしい作品です。全曲でも45分くらいですので、機会があれば是非通しで聴いてみてください。
映画「落下の解剖学」(2023年)
第76回カンヌ国際映画際でパルム・ドール賞などを受賞した作品。劇中で「プレリュード Op.28-4 ホ短調」が演奏されるシーンがあります。櫛田選手のプログラムでは、エンドロールで流れるベノワ・ダニエルのアレンジ・演奏が使用されています。
ここで簡単に映画のお話しを。
[登場人物]
・ドイツ人の女性作家、サンドラ
・フランス人の夫
・視覚障害を持つ11歳の息子、ダニエル
[あらすじ]
3人暮らしの自宅で夫が不審な転落死をしてしまいます。捜査が進むにつれて、容疑をかけられ裁判にまでなってしまったサンドラ。事故か、自殺か、はたまた事件か。検察から執拗なまでに問い詰められるサンドラ。自身の障害まつわる話や両親の秘密、様々な視点から関係性が露わになって、知らなくてよかったはずの大人の事情を突きつけられてしまい苦しむダニエル……。
無実が晴れなければ地獄、仮に裁判で無実を勝ち取ったとしても事件(事故)が起きなかった頃に戻ることはできません。名誉は取り戻せても得るものはなく、夫(父親)も帰って来ない……いわゆる「考えさせられる系」の映画です。
新しめの映画なので結末は伏せますが、俳優さんたちは素晴らしかったと思います。ご興味があればご覧ください。
ベノワ・ダニエル「VARIATION AUTOUR D’UN PRÉLUDE」
ベノワ・ダニエルはフランスの作曲家・編曲家で、映像音楽を中心に活動しています。クラシック音楽を土台にしつつも、音数が少なく余白が多い作風が特徴です。ヴァリエーションものというと、シンプルなメロディが回を追うごとに技巧的なフレーズを盛って、盛って、これでもか!というくらい盛り尽くされるイメージがありますが、ベノワ版は引き算アレンジで原曲の新たな魅力を引き出しています。
原曲より1オクターブ上でユニゾンでメロディをやや自由に紡ぎながら、ロングトーンで和音が置かれていきます。音数を減らしても、空白にならず、むしろ儚さで満たされるような素敵なアレンジ。その後は、原曲の後半を複数回重ねていく構成です。事項でプログラムとともに追っていきます。
櫛田育良選手『プレリュード Op.28-4』(ショパン)2025-FS
初めて櫛田選手の演技を見た時に、とてもジュニアとは思えない表現力にびっくりしたのですが、今回のショパンは音楽との一体化が半端ない!振り付けはケイトリン・ウィーバーさんです。
冒頭でメロディにカチッと合わせた振り付けから一気にプログラムの世界に惹き込みます。この時点で既に「ショパンをより深く弾けるようになりたかったら育良ちゃんの演技を観たらいいんじゃないか」とさえ思わせてくれる風格があります。

あっという間に3ルッツ+3トゥループ。次のジャンプに入るまでの滑りも緩急があって美しいです。

このアレンジでは1度しか出てこない原曲のフレーズが落ちつく部分で3サルコウ。降りた瞬間から隙間ない演技にもグッときます。ここまで短い間隔でジャンプが続きますが、静かな曲調に馴染む演技が私の大好きなポイントです。
原曲の後半に当たるフレーズに差し掛かると、演奏もやや熱量を帯びてきたところで3ループ。この後は後半のみを繰り返すアレンジになります。メロディに装飾を入れて音数を増やすバリエーションではなく、メロディを活かしたまま、左手の和音の当て方で変化を出していきます。
2回目は内声で8分音符が刻まれ、静かなGroove感が現れ始めたところで3フリップ+2アクセル。着氷と同時に抜かりなく8分音符に音ハメ。もうプログラム全部に楽譜とシルエットを貼りたいくらいなんですが!!!泣く泣く先に進みます(笑)。メロディの山からフライング足替えコンビネーションスピン。
3回目は、2回目より少し力強くなった内声の8分音符に合わせるような足捌き。そこから加速して山場を通過したあたりで3ルッツ+2トゥループ+2ループ。内声とメロディフェイクに少し16分の繊細な動きが出たところで2アクセル。
4回目に入ってからのコレオが美しい……!

後奏に入っていき、3フリップ、スピンが2つ畳み掛けて最後のポーズがまた素敵。かれこれずっと同じメロディを繰り返してるだけなのに、飽きない! ピアノの一音一音を単なる減衰ではなく余韻に変えて見ている人を惹きつける力。息を呑んで見続けている間に終わってしまいます。
映画の内容まで考慮されているかわかりませんが、喪失感を静かに受け入れていくような。また、ショパンとベノワが置いていった一音一音を、最適な熱量で代弁していくような。最早、無音でも育良ちゃんの演技を見たら、ショパンみたいな曲が書けるんじゃないかという妄想すら抱いてしまう、そんなプログラムです。
結成間もないに“いくこう”も既に素敵なプログラムを披露してくれています。シングルとダンス、どちらかだけでもものすごく大変ですが、これからも活躍を期待しています!
演奏動画
kokoro-Ne YouTubeチャンネル
楽譜のご紹介
音域的に合いそうなのでアルトにしてみました。フルート(H足部管)でも演奏できます。
ピアノのメロディをそのままアルト(フルート)に当てて、ピアノの左手もほぼ原曲のまま。ピアノの減衰感が出るよう、多少スラーの調整をしています。練習にもなるフレーズですので、ダウンロードでお手軽にご利用ください(お値段もお手頃120円!)
ショパン「前奏曲 作品28 第4番 ホ短調」
アルトフルート(またはフルート)とピアノのための
https://store.piascore.com/scores/382086
10月号でご紹介した『コーリング・オール・ドーンズ』“パートⅡ:長い、長い夜” より「No.6 絶えざる光が」の楽譜が12/29(月)に発売されました。

クリストファー・ティン「Lux Aeterna」
フルート、アルトフルート(または2本のフルート)とピアノのための
アルトフルートを使用せずフルート2本でも演奏できるオプション譜付きです。運指や音域で難しい所がほぼなく、多くの方に取り組んでいただきやすい曲です。コンサートでお聴きいただいたお客様からも大変好評いただいております。是非お手にとって演奏してみてください。
※クーポンはkokosroneshop内でご利用いただけます(Piascoreは利用不可)
これまでにご紹介したkokoro-Neの楽譜はkokoroneshop https://kokoroneshop.thebase.in/でお求めいただけます。
kokoro-Ne(ココロネ)プロフィール

門井のぞみ・大和田真由・田仲なつきによる、2本のフルートとピアノのトリオ。
クラシックで培った確かな技術と表現力を基に、色彩豊かなアレンジやハイレベルな演奏で好評を博している。
2007年結成当初より、ジャンルを超えたレパートリーに挑みながらも、リズムセクションや打ち込みなどを敢えて加えず室内楽トリオの可能性を追求し続けている。
TPOに合わせた演奏を得意とする一方、CD・楽譜・オリジナル作品の発表にも力を入れており、オーディエンスはもとより多くのプレイヤーからも支持を得ている。
・2009年 1st Album 「 kokoroーNe/ココロネ 」
・2013年 「 コンサートで使えるフルートデュエット曲集kokoro-Ne編 」(ドレミ楽譜出版社)初版以降も増刷を重ね、ロングセラーとなる
・2016年 2nd Album 「 Microcosmos 」
同収録のオリジナル曲「 ミクロコスモス 」楽譜出版
・2017年 楽譜出版「 kokoro-Ne Library 」を立ち上げ、これまでに30タイトルを超える楽譜を発表。続々と新作発表を控えている。
kokoro-Ne公式HP https://www.kokoro-ne.net/
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