ドニ・ヴェルスト氏が見てきた巨匠ランパル
ジャン=ピエール・ランパル——その名前からも輝かしさを感じてしまうのは、きっと読者の皆さんも同じだろう。
その名からは“巨匠”“名フルーティスト”というだけでなく、フランスの薫風をその演奏から感じ取ることができるからではないだろうか。
ただ没後25年を迎えた今年、残念なことにランパルの名を知らない若者がいるという話をフルート奏者から耳にすることが増えた。またランパルの名前を知っていたとしても、その演奏を耳にしたことのない若者も多いという。
ランパルの功績は演奏家としてだけでなく、多くのフルート作品の発掘、校訂、さらに400枚以上にわたる録音を残しており、フルート界の枠を越えた貴重なものとなっている。
そこで、生前のランパルと親交が深く、ジャン=ピエール・ランパル協会創設者で現会長のドニ・ヴェルスト氏に全協力を仰ぎ、ヴェルスト氏から見たランパルのこと、そして貴重な音源の中からピックアップしてお届けすることにした。
さらには、本号のダウンロード音源に、ヴェルスト氏が貴重なランパルの音源も提供してくれた。ぜひその音色に触れて、フルートの世界を広げてほしい。
協力:ドニ・ヴェルスト(ジャン=ピエール・ランパル協会会長)
写真:David Hecht, Copyright Sony Music Entertainment.

DENIS VERROUST(ドニ・ヴェルスト)
ブール=ラ=レーヌ公立音楽院、サン=モール=デ=フォセ地方音楽院卒。フルートをピエール・ポーボン、イダ・リベラ、レジス・カル、フランシス・ギャバンに師事。1980年からパレゾー音楽院で教鞭を執る。演奏、教育、音楽学的研究を並行しながら、欧米各国で招待公演や講演を行ない、ジャン=ピエール・ランパル、クラウディ・アリマニー、フィリップ・ベルノルドらと共演、録音も行なう。雑誌寄稿や著作も多く、1991年には『ジャン=ピエール・ランパル 半世紀の録音』を出版。2000年までの10年間、「トラヴェルシエール・マガジン」の編集長を務め、2004年までのおよそ15年間「ラ・トラヴェルシエール協会(仏フルート協会)」の会長を務める。1996年から2025年まで「フランス・フルート・コンベンション」を組織するなどフルート界の発展に大きく寄与する。
現在は、2005年に設立したジャン=ピエール・ランパル協会(AJPR)の会長を務め、同協会のレーベル「プルミエ・ホリゾン」を主宰。2022年にはランパルの伝記『普遍のフルート奏者』を刊行した。これまでに約200タイトルの再発事業を牽引し、代表講演「ランパル:現代のヴィルトゥオーゾの始祖」は世界各地で40回以上開催。さらにマクサンス・ラリュー、オーレル・ニコレ、ピーター=ルーカス・グラーフ、アラン・マリオン、ロジェ・ブルダン、アンドラーシュ・アドリアンら巨匠を扱った研究と執筆、再発盤のリリースも行ない、その講演ではエマニュエル・パユ、アンドラーシュ・アドリアンらとともに登壇している。
(以下V)
当時私は、フルートに関するある企画を実現するため、奨学金を得るべく財団に企画書を提出しようとしていました。そのためには大きな権威ある人物の署名が必要で、私の師であるピエール・ポーボンの紹介により、ランパルと連絡を取ることができました。 ランパルはとても親切に必要書類へ署名をしてくれました。当時の私はまだ若く、少し夢見がちなところもあり……その企画は結局実現しませんでしたが、この経験が私の情熱を決定的に育て、その後多くの別のプロジェクトを成功させる原動力にもなりました。
彼は本当に人に対してオープンな人でした。私にとって、その瞬間は素晴らしいものでした。彼は常に多くの人から求められる存在で、私のことなど全く知らなかったにもかかわらず、なんと2時間以上も時間を割いてくれたのです。そして何より強烈に記憶に残っているのは、彼の放つ“光”のような存在感でした。彼は人生そのものを楽しみ、音楽に対して純粋な喜びを持ち、それを全身で表現していました。最近再発見した作品や、新しく紹介された作品をこれから初めて演奏するのだと、とても嬉しそうに語る姿は本当に魅力的でした。彼の熱意と音楽への情熱は、まさに伝染するような力がありました。一度ジャン=ピエール・ランパルに出会ってしまうと、人はもう以前と同じではいられません。世界が以前よりもはっきりとした意味を持つようになるのです。
さらに彼の教養も驚くべきものでした。フルートだけでなく、ほぼすべての管楽器について深い知識を持っていました。18~19世紀転換期のクラシック作品について話していたときには、フランソワ・ドゥヴィエンヌのファゴット協奏曲や、フランツ・クロムマーのオーボエ協奏曲の話題なども出ました。私は質問をいくらでも投げかけることができ、会話は作曲家から時代背景まで、あらゆる方向へ突然広がっていきました。それは本当に魅力的な時間でした。
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ジャン=ピエール・ランパルとドニ・ヴェルスト『ジャン=ピエール・ランパル-録音の半世紀』発表時にて
(ラ・フリュート・トラヴェルシエール刊、パリ、1991)
(パレゾー・エコール・ポリテクニーク、1990年5月29日)
(写真:J.P.ランパル/D.ヴェルスト アーカイブ)











