フルート記事 第31回|「Lux Aeterna」
  フルート記事 第31回|「Lux Aeterna」
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kokoro-Neがお届けする〜フルートで彩る フィギュアスケートの世界〜

第31回|「Lux Aeterna」

こんにちは! 2本のフルートとピアノのトリオ【kokoro-Ne(ココロネ)】です。このコーナーも7年目となりました。今シーズンもよろしくお願いいたします。
ミラノ・コルティナ五輪を控え、熱戦が期待される2025-26シーズン。ペアのゆなすみ組が出場2枠目を獲得、アイスダンスではいくこう組、りかしん組が誕生、そして、シゼロンの競技復帰! シングル競技も楽しみなプログラムが続々発表されて、次々と演奏したい曲に出会う日々です。今年の1曲目は松生理乃選手の昨シーズンのフリー『Lux Aeterna』をご紹介します。

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Christopher Tin(クリストファー・ティン 1976-)

アメリカの作曲家で、映画、テレビ、ゲームのサントラを手がけています。スタンフォード大学で英文学(頭脳も明晰!)と作曲を専攻し、イギリス王立音楽大学で映画音楽作曲修士課程に入学しました。クラシック音楽とワールドミュージックを融合させた壮大でドラマチックな作品で知られていまおり、2009年に発表されたアルバム「Calling All Dawns」は、第53回グラミー賞(2011年)で Best Classical Crossover Album を受賞しました。代表作になるとともに、彼の世界的評価を確立する作品にもなりました。

「Calling All Dawns」より『Lux Aeterna(邦題:絶えざる光が)』(2009年)

「Calling All Dawns」は12の言語で歌われる全12曲からなるコンセプトアルバム(※)で、全体を通して聴くと人生の輪廻を体験できるそうです。大きく分けて

・Day (昼)
・Night (夜)
・Dawn (夜明け)

の3部で構成されていて、人生の「生 → 死 → 再生」の循環が音楽で表現しています。『Lux Aeterna』は[Night (夜)]のパートに収録されており、人生の終焉=死を象徴する楽曲であるとともに、「Night」パートの核心曲でもあります。
曲の基本は短調。ラテン語の歌詞でカトリックのレクイエムの部分が歌われます。暗さよりも落ち着き、神秘的、広がり、といった形容詞が思い浮かぶ曲調。死を単なる悲しみではなく、救いや安らぎに導くような美しいメロディと和声が特徴です。次項でプログラムとともに追っていきます。

※島田真央選手もこのアルバムの中から「Mado Kara Mieru」を使用しています。

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松生理乃選手『Lux Aeterna』2024-25 FS, 2025-SP

2024-25FS、4大陸選手権の演技を楽曲構成とともに追っていきたいと思います。振り付けはローリー・ニコル。理乃ちゃんのスケーティングを見て「魔法のようだ」と絶賛した思いがそのまま詰め込まれたような作品です。

ハープがf-mollの主和音、fm(ファ・ラ♭・ド)を冷静に紡ぐイントロ。十字架のように手をクロスした印象的な振り付けで演技が始まります。イントロは2小節カットされ、Aメロ①で滑り出すとともに早速、柔らかく美しいスケーティングが拝めます。

 Lux aeterna luceat eis — 「永遠の光が彼らに輝かんことを」
 Requiem aeternam dona eis, Domine — 「主よ、彼らに永遠の安息を与えたまえ」

ヴォーカルの“aeternam(永遠の)”に当たる部分と3ループが一致するのも素敵です。歌はここだけ、この後はインストになります。

Aメロ②は、原曲では同じメロディを4度上のb-mollでフルートが演奏していますが、編集されて終盤に進みます。ここのコード進行がCm→D♭。上昇感とともに明るさも帯びた響きになります。プログラムを通して鳥や天使の羽をイメージした動きが随所に散りばめられいて、次のジャンプに向けて加速しながら天に羽ばたくような振付が美しい!

Also30-3_4F

Bメロは、フルートのメロディにオーケストラがじわじわ加わります。コードもB♭m7→E♭(シ♭レ♭ファラ♭→ミ♭ソシ♭)、光への期待感のような進行が繰り返されたところで、3ルッツ+3トゥ+2トゥのコンボ。

Also30-4_20小節目

Bメロの最後に夜明けを思わせるようなフレーズがホルンで奏でられ、
Cメロは同じ形の明るい3和音が連続するF→D♭→E♭(ファラド→レ♭ファラ♭→ミ♭ソシ♭)という印象的なコード進行に。

F→D♭
F(ファ)を共通点として3度下降すると、ピカルディ終止に似た効果も得られます。
それまで短調で醸し出されてきた美しくも不穏な空気から救われるような雰囲気に。

D♭→E♭
長二度上行して、上昇感や開放感をもたらします。

Also30-6_3A

和音とともにサウンド全体は低音が温かく響いて、ロングトーン率の高かったメロディはそれに対して動きのある下降系のフレーズに。落ち着きとともに肩の荷が降りたような印象も受けます。この部分で3フリップからコレオシークエンスに入ります。

ここで、前半で編集されたフルートによるAメロ②に戻ります。♪ファラ♭ッ♪のスラーの切れ目でバレエジャンプみたいに飛ぶ振り付け、よく伸びたアラベスク、2アクセルと隙間なく理乃ちゃんの魅力が畳み掛けられていきます。もう一度ある♪ファラ♭ッ♪は足変えフライング・コンビネーション・スピンの入りに音ハメ。

再び使用されるBメロでは終わりに3ルッツ–2トゥ 。Cメロの曲調に合った力強く深いエッジから加速して3フリップ。2回目は原曲どおりに進み、Aメロ③に向けてオケの厚みが薄くなっていくタイミングで3サルコウ+2アクセル。

そしてAメロ③がd-mollに転調してハープのソロで再現されます。前半に出てきたAメロとコード進行が異なり、同じメロディに同主調D-Durの和音が当てられるの展開が特徴です。そして、ここからのステップが垂涎もの! 柔らかく、氷に吸い付くスケーティング。アラベスクの姿勢で描く図形とエッジの深さに悶絶です。

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ここで2小節、1小節半、2箇所カットされて(よく繋げたと思います!すごい✨)ハープのグリッサンドが山場の最後のAメロ④を呼び込みます。

Aメロ④はAメロ①→②と同様に、Aメロ③から4度上のg-mollに転調し、G-Durの和音が添えられる場面もあります。弦楽器のメロディと金管の裏メロの掛け合いにより、曲もクライマックスの重厚感で満たされます。そこに理乃ちゃんの真骨頂、深く柔らかいステップが噛み合って、壮大な世界観が見事に表現されます。

ラストは足変えコンビネーション・スピン、レイバック・スピンと畳み掛けて祈りが終わります。

今シーズンは『Lux Aeterna』のアレンジバージョンが新SPとして発表されています。心が洗われるような美しいプログラム、是非ご覧ください。松生選手の今シーズンの活躍を応援しています!

演奏動画

kokoro-Ne YouTubeチャンネル

とてもシンプルで美しい曲なので、なるべく余計なことはせず、原曲に忠実なアレンジを心掛けました。
主にヴォーカルやホルンのパートをアルトフルートに置き換えて、フルートのメロディの部分を音色の違いを出しています。
ピアノもハープのパートをほぼ再現しつつ、サウンドが厚くなる部分ではオーケストラの荘厳な響きを添えるようにしました。

原曲が弦楽器の曲とは違い、フレーズの合間に休符も設けられています。管楽器奏者の最低限の人権が守られている幸せに感激しながら練習しました( ´ ▽ ` )

とは言え、長いフレーズはフルートとアルトフルートともにご多分に漏れず苦しいです。特に同じフレーズが4回続くと、1回は大丈夫でも、回を追うごとにダメージが溜まりがちでした=ロングトーンの練習にもなりました……(笑)。

コンサートのお知らせ

【大和田真由プロデュース アルカス 気ままにコンサートVol.3】

[日時]11/2(日)13:30開場 14:00開演
[会場]コンサートサロンALKAS(千葉・西船橋駅徒歩5分)
[出演]伊藤邦恵(#ソプラノ) 加藤義男(#テノール)
kokoro-Ne(門井のぞみ、田仲なつき、大和田真由)
[曲目]クリストファー・ティン :『Calling All Dawns』より「Lux Aeterna 」、L.バーンスタイン:『ウェスト・サイド・ストーリー』ハイライト、G.フォーレ: 蝶と花、F. シューベルト:鱒、A.マルチェロ:オーボエ協奏曲二短調(J.S.バッハの装飾付き) 他
[料金]全席自由¥4,000(税込)

毎回好評いただいている、2人のヴォーカリストとkokoro-Neのコンサートです。
今回ご紹介した『Lux Aeterna』はこの日、初のお披露目となります。過去イチの大作となったメインの『ウエストサイド・ストーリー』もお聞き逃しなく! 音響とピアノも素晴らしい会場でお楽しみください。

【門井のぞみフルートリサイタル】
[日時]11/30(日)13:30開場 14:00開演
[会場]やなか音楽ホール(東京・JR・千代田線 西日暮里駅より徒歩約5分)
[出演]門井のぞみ(Fl)、小川沙織(Pf)
[曲目]W.A.モーツァルト:ロンド二長調 kv373、F.プーランク:フルートとピアノのためのソナタ、福島和夫:フルート独奏のための「冥」、尾高尚忠:フルート協奏曲 Op.30b 他
(曲目は変更になる可能性があります)
[料金]前売¥3,500 当日¥4,000

 
 

門井、数年ぶりのソロリサイタルです。
声楽家の方々から絶大な信頼を得ているピアニスト小川沙織さんとガチンコプログラムに挑戦します。
今の私に出来るすべてを絞り出しますので、是非見守っていただけましたら幸いです。

【フルートとピアノの煌めくハーモニー】
[日時]12/7(日)14:30開場 15:00開演

[会場]パウエル・フルート・ジャパン アーティストサロン“Dolce”(東京・各線「新宿」駅より徒歩5分)
[出演]野口みお、東貴美子、武井彰子、ゲスト:白尾絵里(ピアノ)、大和田真由
[料金]全席自由 一般¥3,500 学生¥2,000
[曲目]F.ジャン=ジャン:スキー・シンフォニー、G.Ph.テレマン:四重奏曲 ニ短調「ターフェルムジーク」第2集より WV43:d1、A.F.シェーンベルク:夜想曲、C.A.ドビュッシー:『小組曲』、M. ロシアク:パガニーニ VS チャイコフスキー、A.スコット:地の塩、D.F.R.クーラウ:三重奏曲 OP.13 第2番、M.ラヴェル:マ・メール・ロワ 他(変更する可能性がございます)
[問い合わせ・予約]チラシのQRコードもしくはコチラのお申し込みフォームにご記入ください。

 

新日本フィルハーモニー交響楽団で長年フルート奏者を務める野口みお氏と門下生によるアンサンブルの第2回。今回はゲストにピアニストの白尾絵里さんをお迎えし、さらに充実したプログラムでお届けします。
”煌めく”を至近距離でご堪能いただける貴重な機会です。ご来場お待ちしております!

(大和田は微力ながら、ドビュッシー『小組曲』、シェーンベルク『ノットゥルノ』2曲は、この日に向けてバス、アルト入りの編成で楽譜を書かせていただきました)。

 

kokoro-Ne(ココロネ)プロフィール

kokoro-Ne (ココロネ)
門井のぞみ・大和田真由・田仲なつきによる、2本のフルートとピアノのトリオ。
クラシックで培った確かな技術と表現力を基に、色彩豊かなアレンジやハイレベルな演奏で好評を博している。
2007年結成当初より、ジャンルを超えたレパートリーに挑みながらも、リズムセクションや打ち込みなどを敢えて加えず室内楽トリオの可能性を追求し続けている。
TPOに合わせた演奏を得意とする一方、CD・楽譜・オリジナル作品の発表にも力を入れており、オーディエンスはもとより多くのプレイヤーからも支持を得ている。
主な作品
・2009年 1st Album 「 kokoroーNe/ココロネ 」
・2013年 「 コンサートで使えるフルートデュエット曲集kokoro-Ne編 」(ドレミ楽譜出版社)初版以降も増刷を重ね、ロングセラーとなる
・2016年 2nd Album 「 Microcosmos 」
同収録のオリジナル曲「 ミクロコスモス 」楽譜出版
・2017年 楽譜出版「 kokoro-Ne Library 」を立ち上げ、これまでに30タイトルを超える楽譜を発表。続々と新作発表を控えている。

kokoro-Ne公式HP https://www.kokoro-ne.net/
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フルート奏者カバーストーリー