フルート記事
「有暮れのアリア〜歴史を受け止め、今奏でる〜」を出版

[Interview]山村有佳里

コロナ禍だからこそ伝えられることを

もともと本を読むことも好きだったのですか?
山村
そうなんです。同じシリーズの本を続けて読んだり、同じ本がボロボロになっても読んだりしています。そんな本でも、読むたびに新しい発見があります。
生徒さんを見ていて感じることは、本はそれなりに読んではいても推論をできる子どもが少ないと思っています。その本が伝えたいものまで読み込めてないというか……。
インターネットの普及で、読み込むということが少なくなったことが原因の一つのように思います。
山村
そうですね。情報が小出しになって、深く読み込まなくても理解できるものが多いのかもしれません。
だからレッスンをしているときもいろんな表現を駆使しています。「このフランスの楽曲は肉食系なのよ」とか「この曲の恋愛観は草食ではない」とか(笑)。
そういうものが伝わってコンクールや発表会でいい演奏をしてくれたときはすごく嬉しいですね。
若い頃に先生に言われた言葉を何十年をも経ってから、ふと思い出したりすることもありますね。
山村
だからこそ、そのときには伝わらなくても、あえて伝えておきたいと思うんですね。
コロナのために2020年は全日本吹奏楽コンクールも中止になりました。何人かの吹奏楽部の顧問の先生からメールをいただいたのですが、熱心な先生ほど落ち込まれていたんです。日本の吹奏楽シーンって音楽界の中では一種独特の雰囲気があります。短い期間にコンクールなどの目標があって、そのためにどうしても詰め込んで教えざるを得ない。でも、コロナでシンプルに音楽の楽しさを教えることもできるようになったと思いますよ。もちろんコンクールでいい賞を取ることを目標として練習に励むことはいいことだと思いますが、小編成のアンサンブルやソロの面白さを教えるいい機会だと思ってほしい。
子育てが落ち着いたからとか、楽器を演奏する楽しみをまた感じたいと、大人になって楽器を再開する生徒さんは多いでしょう。長期的に見て、「吹奏楽で音楽をやることは楽しかった」と生徒に思ってもらえるような生徒を育てることが大事だと思います。
コロナ禍でコンサートやレッスンがなくなったと思いますが、山村さんはどのように過ごされましたか?
山村
いろんな方から「コンサートがなくなって大変でしょ」と言われたのですが、ずっと次のコンサートの準備のために走り続けたものが、この時期に一回立ち止まり、俯瞰することができました。本当に伝えたい音楽やレパートリーを見直すことができましたね。またこの本の出版に向かってやっていけたのも良かったと思います。エンターテインメント業界は大変だけど、コロナはみんな平等に起きていること。私たちだけが困っているわけではないですし、これから自分がどうしていくのかを考える時期だと思っています。
 
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