フルート記事
「有暮れのアリア〜歴史を受け止め、今奏でる〜」を出版

[Interview]山村有佳里

ゆるゆるおさらい会で、他の楽器から学ぶ

山村さんは帰国されて10年ほど経ちますね。
山村
帰国した時は、文化や芸術に関する背景が諸外国とは違うので仕方がない部分はあるのですが、日本が浮かれているな、と感じたことを覚えています。当時はバブルははじけていましたが、バブル時のそのままの考え方が続いていた人が多かったように思います。でもそれから年月が経って、私たちの世代が新しいことを工夫しながらやっていかないと、と思います。
ヨーロッパではいくつの大学に行かれたのですか?
山村
6校ですかね。ただベルギーとオランダの先生は同じで、学位を取るのはこちらの学校、というふうにしたものもありますし。学校でのくくりというよりは、国や先生によって区切られていますね。
試験を受けるたびに自分でFAXを送ったり、すべてご自分で準備されましたね。
山村
人のせいにするのが嫌だったんです。自分で決めてやったことはいい結果でも悪い結果でも、自分が責任を負うことで後悔はしない、という思いがありました。日本の音大では自分の意志だけで決めることは難しいけれど、それで良いのかとはたっと気づいたんです。音大を卒業後、誰もがオーケストラでソリストばかりを務めることができるわけではありません。実力だけでなく、人間誰もが持っている徳や運、縁がありますし、それを羨んでも仕方がないので、それはそれとしても、音大を卒業した時に、フルート、チェロ、ピアノのトリオを一回も演奏したことがない、そういうことでいいのかと気づいてしまったんです。
もちろんソロの楽曲は基本だから勉強はしなければいけないけれど、違う楽器から学ぶことを若い時にやっておくことが大事。ですから今はコロナであまりできていませんが、私の教室では2、3ヶ月に一度は「ゆるゆるおさらい会」というのをやっています。
プロを目指す生徒たちはまた別の試演会もやっていますが、発表会ほど堅苦しくないもので、アンサンブル吹き合い会みたいな感じです。フルートだけでなく他の楽器とのアンサンブル曲もみんなの前で吹いてもらうときもあります。初見でもいいし、間違ってもいい、吹き直してもいい。違う楽器を演奏できる友だちを連れてきてもいいんです。
他の楽器と一緒に演奏できる機会はそれほど多くないですからね。
山村
そうです。小さい室内楽をやる機会を生徒に与えられたないいなと思ってはじめました。人と音を重ねる機会を、難しくない状況でやってあげたいんです。ヨーロッパのアカデミーはこういう機会が多いので、日本でも身近に感じてもらえるようになれば嬉しいですね。
留学中もレッスンをしていたのですが、生徒のお父さんのギターやお母さんのヴァイオリンと一緒に演奏する機会を作っていたんです。実はね、ザ・フルートに掲載されているアンサンブル楽譜はよく活用していました。あんなに上手にアレンジされている楽譜はヨーロッパにはあまりないんですよ(笑)。
また役に立つ楽譜を作りたいと思います。最後にこの本をどんな方に読んでほしいですか?
山村
音楽、フルートをやっている方はもちろんですけど、音楽に親しみのない方にも手にとっていただき、自分の状況や経験とトレースして読んでいただきたいと思います。今、留学中で「渦中」にいる人にも。留学したいけれどコロナ禍で行かれない人にも。ビールのコラムから読んでくださっても構いませんし、ヨーロッパでの生活が身近に感じていただけるように書いたつもりです。
ありがとうございました。
 
ラジオのパーソナリティも務めている
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