フルート記事
第26回|「月の光」

kokoro-Neがお届けする〜フルートで彩る フィギュアスケートの世界〜

こんにちは!2本のフルートとピアノのトリオ【kokoro-Ne(ココロネ)】です。今回は世界選手権で今季のSP世界最高得点を叩き出した宇野昌磨選手の『月の光』を取り上げます。既に第13回(2021年6月号) で浅田真央さんの2008-09SPとしてご紹介をしていますが、宇野選手のプログラムのあまりに素晴らしさに「コーナー5年目はこのプログラムで締めたい!」と、おかわり掲載をお願いしてしまいました。是非ご覧ください。

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映画『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』(2022年アメリカ)

2023年の第95回アカデミー賞で、作品賞、監督賞、主演女優賞など7部門を受賞したSF映画です(原題: Everything Everywhere All at Once、通称:エブエブ)。現代の映像技術が駆使されたSF作品を、エレクトリックなサウンドで彩ったのが、アメリカの音楽グループのSon Lux。劇中に「手を上手く使えない人の世界」で足の指でピアノを弾くシーンがあって、その曲が『月の光』なのです。映画の内容はプログラムとかなり乖離しているので割愛しますが(※)、私のひっかりポイントは映画の主人公の夫役のキー・ホイ・クァン。子どものころに観た「インディージョンズ」の少年が、こんなにいいオジ様になってたなんて……! あどけない中学生だった宇野選手が世界王者になった姿にも重なって、別の意味で感慨深い作品でした。

※先にサントラを知ってステファンが『「ショウマに合いそう」と考えていたのに、後から映画を観てその内容に「Crazy!」ってびっくりしちゃった』という話もあるそうです。宇野選手のプログラムを観るにあたって、映画の内容は知らなくても大丈夫だと思います。

ドビュッシー/『ベルガマスク組曲』より「月の光」

第24回「パパシゼ×エレジー」でご紹介したフォーレ(←79歳、当時はすごいご長寿)の生没の間にドビュッシーが入ります。同時代でありながら、ドビュッシーの方がより革新的なイメージです。伝統的な作曲技法手法にこだわらずジャポニズムを取り入れ、自由に和声や音階を駆使して新しい感覚の音楽を生み出しました。
『ベルガマスク組曲』は、第1曲 「前奏曲」第2曲 「メヌエット」第3曲 「月の光」第4曲 「パスピエ」で構成されている組曲です。フルートアンサンブルでもしばしば取り上げられ、特に「月の光」は単独で演奏される事も多いため、馴染みが深い作品かも知れません。

宇野昌磨 2023-24 SP

プログラムの音源は、サントラの「I Love You Kung Fu」に『Clair de Lune[Pied au Piano]』(月の光)』が挟まれた構成です。演技冒頭の「I Love You Kung Fu」は、「月の光」の15小節目のフレーズをコーラスでアレンジした部分が使用されています。神秘的なサウンドに当てられたステファンコーチの振付が秀逸です。アカペラの合間で無音になった時に聞こえてくるエッジ音がたまりません(о'¬'о)

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既に神プログラム確定の雰囲気なのですが、まだ開始数秒。曲が『Clair de Lune [Pied au Pian](月の光)』に変わって1オクターブ上のラ♭で4F。この後が個人的悶絶ポイントで、フレーズと振付の融合、指先まで繊細な動き、美しいスケーティング、すべてが美しくて息を呑んで見入ってしまいます。

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メロディの2回目からピアノソロにストリングスのロングトーンが加わり、少し怪しげな雰囲気を帯びてきます。見惚れてるうちに4T+3T(レ♭ミ♭ラ♭ーファーにちゃんとハマってる)が入ってやっと「あ、助走してたんだ」と気付く完成度。ここで再び原曲の15小節目からの泣きのフレーズでスピン。しっかり回転しながらも極上のppに溶け込む美ポジと滑らかさ。
3本目のジャンプも同様、助走らしからぬ美しさに加え、dimの際で音楽に溶け込むのが素晴らしい……萌え休ませてくれない、息を呑みっぱなしです(窒息しそう!w)。

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この後は「I Love You Kung Fu」の後半、SFっぽい映画のサントラに変わり、ここからのステップが圧巻です。エッジの深さ、上半身の動き、描かれていく図形を追いかけて見ていくと、内容の濃さにリアタイ観戦ではとても追いつけなくて、何度も動画を見てしまいます。メロがくっきりしておらず、音数も少なめ、効果音のようなサントラを、宇野選手の演技が彩っていくようです。
ラストのスピン2つの畳み掛けも、ポジションや回転数も素晴らしくて……え!? もうラストのポーズ!?
惹き込まれっぱなしで時を忘れるプログラムです。「こういうのが見たかったの!!」を体現してくれて、その尊さに勝手に感謝しています。

今シーズンのFSも、弦とピアノで音数の少なく、終盤は氷を削る音が大きく聞こえる曲を使用しています。こんなに静寂に耐えうる、音楽に頼らずともスケーティングで魅せられるスケーターになるなんて。演技開始前に表示される「Age 26」のテロップに「ええ、あのちっちゃかったしょうまくんが!」と感慨深くなります。ロック、タンゴ、クラシック……幅広い表現をできる貴重なスケーター。これからも見続けていきたいです。今シーズンお疲れ様でした&ありがとう!!

楽譜とCDのご紹介

真央ちゃんの競技音源ではオーケストラ版、D-durの音源が使用されています。原曲より煌びやかで、美しい響きが特徴です。

『月の光』収録曲集(アルソ出版刊)

FLUTE on ICE vol.2〜氷上の名曲をフルートで〜
神田勇哉(Flute)、成田有花(Piano)

 

kokoro-Ne Libraryの「月の光」は、この3年の間に仲間が増えました。

原曲どおりのDes-Durが3種類。
シックで透明感のあるサウンド。♭♭♭♭♭……5個、めんどくさいと言わずに、是非チャレンジしてみてください。

 

[New]フルート、アルトフルート、ピアノ
https://store.piascore.com/scores/242204
フルート2本とピアノ
https://store.piascore.com/scores/61090
フルートとピアノ
https://store.piascore.com/scores/61577

 

D-Dur版も増えました。

 
 

[New]フルート2本とピアノ(D-Dur)
https://store.piascore.com/scores/247826
[New]フルートとピアノ(D-Dur)
https://store.piascore.com/scores/247828

 

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kokoro-NeのCDはkokoroneshopでお求め頂けます。

演奏動画

前回はコロナで撮影できなかった演奏動画です。
フルート、アルトフルート、ピアノバージョンをお楽しみください。

kokoro-Ne YouTubeチャンネル
 
 
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今シーズンもお読みいただきありがとうございました。6年目となる来シーズンもフィギュアスケート音楽の魅力をお伝えしていきたいと思います。また10月号をお楽しみに!
 

コンサートのお知らせ

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オリジナル曲やkokoro-Neカラーの強いアレンジものを中心にお届けする恒例の周年コンサート。しかも今年は数年に1回あるかないかのリアル結成記念日7月7日の開催。場所は昨年に続き、吉祥寺のStringsさんです。酒井麻生代さんのJAZZ店探訪記コーナーの第11回で特集されています。

kokoro-Ne 17th Anniversary Live @Strinsg(吉祥寺)
2024年7月7日(日)
Open 12:00〜 1st 13:00 / 2nd 14:15
(入れ替えなし、全曲異なるプログラムです)
MC ¥3,000(税込) + オーダー

 

Flute Enssemble Concert 初夏を彩るハーモニー

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新日本フィルハーモニー交響楽団で長年フルート奏者を務める師匠、野口みお氏。トッププレイヤーの中でも麗しく唯一無二な存在感を放ち続け、憧れというよりもはや畏れ多さしかないのですが・・・
とにかく「オケ以外の場でも師匠の魅力をお伝えしたい!」という一心で現在頑張り中でございます。初夏を感じられる名曲を集めたコンサート、是非ご来場ください。

[日時]2024年6月9日(日)14:00開演 (13:30開場)
[会場]パウエル・フルート・ジャパン アーティストサロン“Dolce”(各線「新宿」駅より徒歩5分)
[出演]野口みお、東貴美子、武井彰子、大和田真由 
[料金]一般:¥3,000 / 学生:¥2,000 (税込、全席自由)
[プログラム]I.アルベニス / セヴィリア (「スペイン組曲 op.47」より)、G.Ph.テレマン / 2本のフルートの為のソナタ op.2 TWV40:103、J-L.チュルー / イギリスの思い出幻想曲、E.ボザ / 夏山の一日、F.J.ハイドン / ロンドン・トリオ、M.ベルトミュー / 猫、Y.デポルト / イタリア組曲
[問い合わせ・予約]チラシのQRコード(https://forms.gle/pX3mKc7TqSjuzMJW9)からお申し込みフォームにご記入ください。

 

 

 

 
 
 

kokoro-Ne(ココロネ)プロフィール

kokoro-Ne (ココロネ)
門井のぞみ・大和田真由・田仲なつきによる、2本のフルートとピアノのトリオ。
クラシックで培った確かな技術と表現力を基に、色彩豊かなアレンジやハイレベルな演奏で好評を博している。
2007年結成当初より、ジャンルを超えたレパートリーに挑みながらも、リズムセクションや打ち込みなどを敢えて加えず室内楽トリオの可能性を追求し続けている。
TPOに合わせた演奏を得意とする一方、CD・楽譜・オリジナル作品の発表にも力を入れており、オーディエンスはもとより多くのプレイヤーからも支持を得ている。
主な作品
・2009年 1st Album 「 kokoroーNe/ココロネ 」
・2013年 「 コンサートで使えるフルートデュエット曲集kokoro-Ne編 」(ドレミ楽譜出版社)初版以降も増刷を重ね、ロングセラーとなる
・2016年 2nd Album 「 Microcosmos 」
同収録のオリジナル曲「 ミクロコスモス 」楽譜出版
・2017年 楽譜出版「 kokoro-Ne Library 」を立ち上げ、これまでに30タイトルを超える楽譜を発表。続々と新作発表を控えている。

kokoro-Ne公式HP https://www.kokoro-ne.net/
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フルート奏者カバーストーリー